対談レポート:ひとりの情熱から、あなたの会社の躍進は始まる〜日本で実践する自律型組織の最前線〜
今回は、RELATIONS株式会社代表の長谷川博章さんと、『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』の翻訳・監修のお一人である山田裕嗣さんの対談企画へ伺った際のレポートです。
今回の企画は長谷川さんのインタビュー及び『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』がForbes JAPAN2023年5月号に掲載されたことをきっかけに、お二人の実践知を対談を交えて紹介するという趣旨で開催されたとのこと。
なお、お二人の話を引き出すモデレーターは株式会社FUSSYの加留部有哉さんが務めてくださいました。
※本イベント中、運営よりスクリーンショットはOK、SNSでの拡散も大歓迎とアナウンスをいただき、いくつかの資料を本記事に使用しています。
RELATIONS株式会社
RELATIONS株式会社は、『会社に生命力を(Exploring a Living Company)』をパーパスに掲げ、コスト改善、組織開発をはじめとするコンサルティングに携わる企業です。
2009年に大阪で創業したRELATIONSは、10年以上の時間をかけて自らも「ええ会社」になるべくさまざまなチャレンジを行ってきました。
RELATIONSでは、後述するホラクラシー(Holacracy)という、『ティール組織』の事例として取り上げられた組織運営法を社内で導入し、実践に取り組まれている他、その様子を紹介する見学ツアーも実施されています。
ホラクラシー(Holacracy)導入前後の変遷や詳しい経緯については、今回の対談相手である山田さんによってまとめられています。
また、今回の対談に先立ち、山田さんおよび令三社の取り組みについては長谷川さんのnoteにて紹介されています。
経営、マネジメントを見る視点(レンズ)
今回のイベントで興味深かった点は、経営やマネジメントを見る視点(レンズ)には様々なものがある、という点です。
令三社の山田さんからはソース原理(Source Principle)というレンズ、RELATIONS長谷川さんからはホラクラシー(Holacracy)、インテグラル理論(Integral Theory)といったレンズをご紹介いただきました。
以下、ソース原理(Source Principle)、ホラクラシー(Holacracy)、インテグラル理論(Integral Theory)について簡潔に紹介します。
ソース原理(Source Principle)
『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。
日本においてのソース(source)の概念の広がりは、『ティール組織(Reinventing Otganizations)』著者のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって初めて組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となっています。
2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。
フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。
その注目度の高さは、本邦初のソース原理に関する書籍の出版前、昨年8月にトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都、三重、屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)
2022年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。
今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)『A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。
その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著『Work with Source』が出版され、本書が『すべては1人から始まる』として日本語訳され、英治出版から出版されました。
『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」の入賞も果たし、ビジネスの領域においての注目も高まっていることが見て取れます。
このような背景と経緯の中、ソース原理(Source Principle)の知見は少しずつ世の中に広まりつつあります。
『Source Principle(ソース・プリンシプル / ソース原理)』提唱者のピーター・カーニック氏(Peter Koenig)ご本人については、こちらのまとめもよろしければご覧ください。
ソース(Source)
トム・ニクソン『Work with Source』を参照すると、ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。
また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。
ステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)の書籍においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでいます。
トム、ステファンの両者に共通しているのは、ソース(Source)は特別な人だけがなれる役割ではなく、誰もがソース(Source)になりうる、というものです。
アイデアを実現するために一歩踏み出すことは、社会を変えるような大きなプロジェクトの立ち上げに限りません。
自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることを両者は強調しています。
ホラクラシー(Holacracy)
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシー(Holacracy) は2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲法/憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
ホラクラシーの具体的な実践については、以下のRELATIONSの記事もご覧ください。
インテグラル理論(Integral Theory)
『インテグラル理論』著者として知られるケン・ウィルバー(Ken Wilber)は、便宜的な一般化(orienting generalization)の法則に基づいて、この世界に存在する多種多様な情報-そして、情報を創造するための方法論-を4つのカテゴリーに整理・分類しています。
California Institute of Integral Studiesにてインテグラル理論に関する研究に取り組み、『インテグラル・シンキング 統合的思考のためのフレームワーク』著者である鈴木規夫さんは、インテグラル理論の前提、世界観について以下のように述べています。
4つのカテゴリーとは、内面(interior)か外面(exterior)か、個(individual)か集合(collective)かという2軸で分けられた四象限の各領域を指します。
インテグラル理論によれば、私たちが経験することになる、ありとあらゆる状況や課題には、これら4つの領域が内包されており、4つの領域を検討した上で、4つすべての領域に働きかけることが重要です。
詳しくは、以下のサイトもご覧ください。
ケーススタディ:複数のレンズの活用例
ケーススタディでは中間層の社員によって立ち上げられた新規プロジェクトが思ったような成果が出ない、若手社員による業務改善施作がうまく浸透しないといった事例が取り上げられました。
このようなケースを、先述のソース原理、ホラクラシー、インテグラル理論などのレンズを用いるとどのように見えるかという議論が、山田さん、長谷川さんの間で交わされました。
文脈に沿うことと明確化
第一に、組織内の誰かが新しい取り組みを始めた際、その組織全体としての文脈を掴むことの大切さについて長谷川さん、山田さんがお話しされていたのが印象的でした。
その新しい取り組みが、組織全体として相対的に優先度が低い領域を扱うものであったりすると支援が得られず、孤立することも起こり得ます。
また、「成果が上がらない」「変化が生まれない」という表現をさらに明確化していくことの重要性もケーススタディの中で扱われました。
「成果が上がる」とはどういった状態か、「変化が生まれることで組織全体のパーパスにどのように近づけるのか」など、より具体的に言語化し、共有していくことはプロジェクトの達成に不可欠な要素です。
ソース原理(Source Principle)というレンズ
ソース原理(Source Principle)に関して大事に感じたポイント、山田さんが紹介してくださったポイントは大きく3点ありました。
1つは、ソース原理は組織論・マネジメント論ではないという点。
2つめは、「夕食を何をしようか?」といった日々のちょっとした活動においても、一歩踏み出したソースがいる、という点。
3つめは「ある1つのレンズを絶対視し、全ての状況を1つのレンズで見ることの危険性」について留意する必要がある、という点でした。
視点(レンズ)をどのように扱うか?
また、ソース原理も含めて経営、マネジメントを見る視点(レンズ)は、その使い手によって左右される一面も持ちます。
インテグラル理論の四象限を元にしたフレームワークでは、一人ひとりによって好みの領域が異なることがあるという点や、だからこそ数名で補い合う工夫がされている事例もあることを、長谷川さんから紹介いただきました。
このケーススタディで扱われた、以下の点…
については、改めて意識していきたい大事なポイントだと感じられました。
また、経営やマネジメントを見る複数の視点(レンズ)があるとして、それを知る・学ぶことと、現場で活用できるようになるまでには時間がかかり、根気強く振り返りながら実践していくことが不可欠ではないだろうか、という気づきもありました。
正確な語源が不明な諺ですが、ある問題解決に対してパワフルなモデル、理論、フレームワークを手にした時、人はそれに基づいた見方に偏ってしまうことがあります。
ある視点(レンズ)について知る、学ぶ、実践する、そして状況に応じて使いこなすには立場や所属を超えての学び合いも必要かと思います。
以下、参考リンクも準備しましたが、私自身も上記のような手段の目的化に陥らないよう、多くの方々と場を共にしつつ、継続的な学び、実践、振り返りに努めていきたいと感じました。
参考リンク
その新規事業の源になっている「一歩踏み出す人」は誰か アイデアが実現に向かう「ソース原理」の考え方
Case研究会 第0回
4/27 (木)19:00〜20:00に開催予定の、株式会社令三社主催の事例研究会です。
Corporate Rebels
世界中の組織200社以上を訪問し、事例としてまとめているオランダ発のメディアです。
RELATIONS社内ミーティング見学ツアー(基礎編)
5月19日(金)に開催を予定しているRELATIONSの社内ミーティング見学ツアーです。この会では、ホラクラシー式のタクティカル・ミーティングが実施される予定です。
RELATIONS社内ミーティング見学ツアー(応用編)
5月25日(木)に開催を予定しているRELATIONSの社内ミーティング見学ツアーです。この会では、ホラクラシー式のガバナンス・ミーティングが実施される予定です。
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