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Book Review

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#洋書レビュー

行き過ぎた資本主義・集団主義への警告を描く新感覚エコ・スリラー

行き過ぎた資本主義・集団主義への警告を描く新感覚エコ・スリラー

ここ2-3年、洋書でよく見かけるようになったジャンル「Eco-thriller 」。中でも昨年特に話題になっていた「Birnam Wood」を読みました。

ところで、「Eco-thriller」とは一体どんなジャンルを定義しているのか気になり調べてみたところ「世界の終わりか、世界の見方が変わるような出来事が起きる小説。多くの場合、欲深い大企業が敵対者となる」ジャンルだそう。

主人公Miraはガ

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ダイバーシティの中に潜む女性蔑視、白人特権社会を描いた昨年話題の1冊

ダイバーシティの中に潜む女性蔑視、白人特権社会を描いた昨年話題の1冊

名のない語り手が主人公の「I’m A Fan」がペーパーバックになっているのを知り、嬉々として購入。

2023年Women’s Prizeフィクション部門にノミネート、ブリティッシュブックアワードのディスカバー部門受賞など昨年とても注目されていた本書。賛否両論様々なレビューを目にして以来、読んでみたい1冊でした。
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30代、移民2世、ロンドン南部でボーイフレンドと同棲中の白人ではない名のな

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ニューヨークで暮らす大富豪の暮らしが垣間見れるパインアップル・ストート

ニューヨークで暮らす大富豪の暮らしが垣間見れるパインアップル・ストート

「Pineapple Street」は今年最初に読んだ1冊。
2011年ニューヨークのど真ん中マンハッタンで起きた「Occupy Wall Street」(ウォール街を占拠せよ)という抗議活動で使用されたスローガン「We are the 99%」は、アメリカの富を上位1%が独占しているのは経済界や政界が腐敗しているからだ、という意味で富裕層への抗議として現在でも使用されているのですが、ではその上位

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アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

アメリカで人気の未解決事件を解決するTrue Crime番組の闇を描いたページターナーなスリラー

2003年10月。Luke Ryderは裕福な妻と3人の継子を残し、ロンドンの自宅の庭先で遺体となり発見されました。目撃者は1人も見つからず、迷宮入り。未解決事件として葬り去られようとしていた事件が今、20年の時を経てその真実が明らかになろうとしています。しかも、カメラの前で!

犯罪ドキュメンタリー番組「Infamous 」のプロデューサーNick Vincent は、元メトロポリタン警察の刑事

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アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

アメリカ過疎地の深刻な社会問題「オピオイドクライシス」

本年度のピューリツアー賞フィクション部門を受賞した話題の1冊、Barbara Kingsolverの「Demon Copperhead」を読みました。
500ページ越えの長編に加えて、フォントがかなり小さく「私、コレ読み切れるのかな…」と、本の分厚さに圧倒されながらも読んでよかった、本当によかった、今年1番良い本だった、と思った大変興味深い1冊になりました。
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10代のシングルマザーが小

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20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

20代前半の微妙な心境を描き切ったEmma Cline待望の新作

待ちに待ったEmma Clineの新刊を読みました!

2016年に出版されたClineの処女作「The Girls」は、その年の主要ベストセラーリストを入りを果たし大変話題になった1冊だったので、本作はそれを必ず上回るだろうと期待しすぎていただけに、何となく読むのが恐ろしかったのですが、期待を遥かに上回る大変素晴らしい1冊でした。
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今年もロングアイランドに夏がやって来た。
なのに、Ale

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「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

今年5月に出版されると同時に35万冊が売れた、まさに今年話題の1冊を読みました。
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中国系アメリカ人Athenaは特大ヒットを記録し続けるベストセラー作家で、白人のJuneは辛うじて処女作の出版はできたものの全く売れないままスランプに陥った作家。

同じ大学で出会い、付かず離れずの距離で付き合いを続けていた2人でしたが、Athenaはある不幸な事故で死亡。たまたま事故現場に居合わせたJune

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監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

監視社会がビックビジネスを成功させた未来。

ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの元ジャーナリストRob Hartの代表作「The Warehouse 」を読みました。最初の7割がジョージ・オーウォル(1984)、最後の3割がレイ・ブラッドベリ(華氏451度)、という感じで大変面白かったです。

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世界は疫病により荒廃。失業者が爆発的に増え、異常気象が悪化し「 Cloud 」という会社が支配的な力を持つようになりました。 地球最大規模

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同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

同じ時代を生きる者同士が負うものとは/What We Owe Each Other

表紙に惹かれて購入したミノーシュ・シャフィクの「What We Owe Each Other」。
内容は、タイトルにあるとおり「私たちがお互いに背負っているもの」ということで、特に政治や経済システム、人生のそれぞれの段階における保障などの「社会契約」が実はもう機能していないのではないか、ということにフォーカスして書かれています。

社会契約がボロボロ…。「んなこと、わかっとる、だからどうすればいい

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「最高です!」としか言い表せないのが悔しいほど最高なアンディー・ウィアー最新作

「最高です!」としか言い表せないのが悔しいほど最高なアンディー・ウィアー最新作

世界的特大ヒットを記録したThe Martian (映画邦題・オデッセイ)の著書アンディー・ウィアーの最新作「Project Hail Mary」。今作も最高です!ウィアー様!!と叫びたくなるほど、とにかく面白かったです。

高校で化学の教師をしているRyland Graceは、ある日昏睡状態から目覚めます。Grace は宇宙船に乗っていて、地球とは異なる太陽系にいることを突き止めますが、一体なぜ

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思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

思い描いた人生を歩めない時、人はどう選択すべきか。ニューヨークタイムズ2021年ベストスリラー

新年です。私の住む街は数十年ぶりの寒波に見舞われ、強烈な寒さで明けました。
「寒い。寒い」といっていても寒さは変わらないので、ならばより寒さを感じる本でも読んでみよう、と思いたった元旦。 

とてつもなく寒そうな北アイルランドを舞台にした「Northern Spy」という本書は、1960年代後半から1998年までの約30年間続き、3500人以上が亡くなった北アイルランドの領有権を巡るイギリスとIR

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その文化は誰のものか?

その文化は誰のものか?

2020年のオプラ・ウィンフリーのブッククラブにピックアップされていた「American Dirt」。

ページターナーな一冊で「寝不足になった」「他の文化を知るきっかけになった」「メキシコから何故移民がやってくるのか。その問題の根深さが理解できた」などというポジティブなレビューが沢山付き、瞬く間に全米ベストセラーになった反面「Cultural Appropriation」「文化の盗用」なのではな

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次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

次々にナニーが消えていく、スマートハウス「Heatherbre House」の秘密

スリラー小説の常識を覆してくれる小説に出会いました。Ruth Wareの「The Turn Of The Key」です。

Wareは、イギリスでは有名な心理犯罪スリラー作家だそうなのですが、私はそんなことは全く知らず、たまたま本屋で目についた「The Turn OF The Key」という、いかにもスリラー小説らしい意味深なタイトルがいいなあ、と思いパラパラと数ページめくって読むと、主人公がHM

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現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

現在のアメリカが見える人間ドラマ|日々の生活の中で起きる人種差別とは?

女優のリーズ・ウィザースプーンが「Hello Sunshine」という会社と連携して立ち上げたオンラインブッククラブ(読書会)。洋書が好きな方はご存知の方も多いと思うのですが、ウィザースプーンが毎月1冊選書し、その本をInstagramのアカウントで紹介し、ネット書店だけでなく「IndieBound」を通じてローカル書店を応援しよう、という取り組みを行なっています。

ウィザースプーンが選書した本

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