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【読書】シュガーから国家や権力や人類史なんかを考える試みとは?

何気ない食べ物から…

私たちの日常で、砂糖に全く接したことがないという日は、断食でもしない限り、まず起こり得ないと思います。程度の差こそあれ、砂糖砂糖の成分を含まない食品を探す方が難しいのではないでしょうか。

スイーツが好きな方や血糖値が高めですねとか言われている方にオススメかどうかはわかりませんが、今回は「甘さと権力 砂糖が語る近代史」を取り上げてみます。

主成分はスクロースショ糖)と呼ばれ、これはブドウ糖果糖で構成されている砂糖サトウキビテンサイから作られる砂糖。しかし、文庫版になっても、結構分厚い…ということはあまり甘くなさそうな本書を斜め読みしたのが、今回の記事になります。

本題

砂糖を含む「甘味」というのは、人類にとっては酸味、塩味、苦味、うま味とならぶ5大基本味です。食物を摂取する上で甘味を感じること=エネルギーを摂取できるものであることですから、当然のごとく備わっている生理的機能が甘味です。

本書では甘味をもつ砂糖の歴史と、特にイギリスで砂糖が広まっていく時々の時代背景や社会制度を絡めて、論考が進んでいきます。

そもそも砂糖はどんな存在だったのか?

サトウキビそのものは紀元前8000年頃から東南アジアで栽培されていたとのことです。

その後、1100年代中世では砂糖はファインスパイスとして、胡椒やナツメグと同等に扱われていました。同じく、中世イスラム世界での生産方法の改良でサトウキビの栽培と生産が広がります。

15世紀、16世紀くらいではまた貴重品であったことから、純度の高い砂糖を使った模型なども登場します。

ここら辺までは、砂糖は上流階級の嗜好品だったわけですが、1650年代からはカリブ海域において大規模な砂糖プランテーションが相次いで開発されると状況が一変します。

三角貿易、産業革命、労働者階級…

砂糖プランテーションが進む…ということは労働力をどうするかということになりますが、植民地時代ですから奴隷で対応することになります。

ここに、

アフリカから多くの黒人奴隷がカリブ海域へと運ばれる

ここで奴隷船は奴隷をおろし、砂糖を買い付けてヨーロッパへ運ぶ

ヨーロッパでは砂糖をおろし、工業製品を購入して、アフリカで奴隷と交換する

という三角貿易の図式が成立します。

ここで得た利潤が結果として、産業革命の原資となるわけです。

産業革命によって登場した労働者階級に呼応するかのごとく、砂糖の価格が暴落し、結果として労働者階級には手っ取り早くカロリーを取れる食材になり下がる…

今でこそ、アフターヌーンティーといえばイギリスの文化のイメージが定着していますが、庶民にも行き渡るようになった影で砂糖を忘れてはいけないと感じました。

現在の砂糖が置かれている立場を…

庶民が簡単に砂糖が入手できるまで過程、そして現代社会の必需品へとつながる点は本書でも読み応えのあるところでした(もちろん、難しいところもあります。)。やはり、人類史を語る上で食や制度を踏まえて考えていくプロセスは、今後の人類のあり方を考える上でも必要だなと思いました。

砂糖が広まると同時に、肥満、2型糖尿病、虫歯といった疾患や行動の変容との相関を示す数々の調査結果が出ていることも事実です。

人類にとっては、砂糖に限らず、糖質は3大栄養素の1つではありますが、過ぎたるは猶及ばざるが如し的な距離感が必要と思う反面、歴史に抗う難しさも噛み締めつつ、甘くない麦茶でティーブレイクしながら、筆を置くこととします。(了)

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