愛咲蒼春

文学と哲学をやっている人/人生で得られた経験、小説の投稿や社会批評、読んだ本などの感想…

愛咲蒼春

文学と哲学をやっている人/人生で得られた経験、小説の投稿や社会批評、読んだ本などの感想を書いていきたいと思っています/三度の飯より百合が好き/三島由紀夫と尾崎豊も好き

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    世の中で評価されている作品のどこが凄いのかを考察してみる 写真素材:https://www.photo-ac.com/main/detail/29533025

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    三島由紀夫の暁の寺にぶっつけてやろうと思って書いていました。百年後に東洋のツァラトゥストラって呼ばれてないかな~。

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【Forget-it-not】第一話「冷たい風の吹く街で」

【Forget-it-not】第一話「冷たい風の吹く街で」

【登場人物】

浅倉美春:20歳の秀才女子大生。身長160センチ、真面目で繊細な性格。何やら社会に対して思うことがあるそう。

白雪瑠璃:帝東大学哲学科首席。身長172センチ、完全記憶能力と過去視を有する青い瞳の天才哲学者。物事には常に懐疑的かつ批判的な目を向け、世間の常識に捉われない。

【本文】

 人を愛したい、夢を叶えたい、幸せになりたい、だれもがそれを望んでいる。なのにどうして人々は争い

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【Forget-it-not】最終話「この街に温かい風が吹きますように」

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 人を愛すること、夢を見ること、幸せになること、それはとても難しい。

 この街ではすべてが綺麗事として片づけられ、やがて欲望にすり変えられるから。そうして人は愛をもてあそび、夢を失って、だれかを憎み、なにかを踏みにじる。

 わたしたちは強くあらねばならない。欲望に負けないように、人を許せるように、諦めないように生きなければいけない。

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【Forget-it-not】第四十四話「真実の愛」

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 わたしはちいさいころからお姉ちゃんっ子な人間で、幼稚園のときは姉といっしょにいたいがために幼稚園を抜けだし、小学校に忍びこむような子どもだった。姉はわたしがどんなことをしても怒らずに、どうしてそうしたのかを粘りづよく聞いてくれた。わたしはそんな姉を心から尊敬し、敬愛していたのだった。

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「久しぶり、三人とも。本当によく来たね」

 ……どういう反応をすればいいのかがわからなかった。喜びと戸まどい、胸の締めつけられる想いと晴れやかな気持ち、初めましてと懐かしさが併存し、心が混沌と化していた。

 朔夜はなんてことのない表情だった。瑠璃は目を見開き、おどろきと歓喜をにじませている。その瑠璃の瞳から、流れ星が流れるように、一縷の涙が流れたのをわたしは見逃さなかった。

 わたしの時とは

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 あくる年の八月、待ちに待った青月の晩がやってきた。

 わたしも瑠璃も歳をひとつかさね、大学三年生になった。瑠璃は宣言どおり熊野地方に空き家を借り、そこと東京と群馬を行ったり来たりしている。帝東大学からわたしと同じ大学の社会学科に転入し(榛名がひとりなので、考古学科と迷ったみたいなのだけど――そういうところが本当に素敵だと思う!――榛名が「だいじょぶだよ~ん」と言ってくれたみたいで)近ごろは泉水

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「まずは世界がどのようにして、何のために生まれたのかを説明するわね。小難しい話だから、わからない子は寝ててもいいからね。

 さて、瑠璃ちゃんの考える通り、この世界にはまず、概念世界という可能性が有限に広がっている世界があったの。そこは絶え間なく可能性が現れては、泡沫のように消えてゆく世界だった。

 可能性が無限でない理由は単純で、不可能性は可能性にはなりえないから。可能性というのは常に抽象と具

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 年が明けて十日が経った一月十一日、新月の日の夕方、わたしたちはふたたび熊野地方へおもむき、海坂神社に向かっていた。

 十二月の満月は何事もなく平穏に過ぎ去った。その二日前のクリスマス会で雪乃さんだけリモート出演だったのが可哀想に思えたので、わたしは満月の翌日に熊野に帰り、新年を彼女といっしょに過ごした。昨日、瑠璃が飛行機と電車を乗り継いでやってきて、二週間ぶりに面と向かって話をする。

 駐車

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【Forget-it-not】第三十九話「神隠しの真相」

【Forget-it-not】第三十九話「神隠しの真相」

 今まで集めた記憶の欠片が瞼の裏へと現れる。

『母子というより双子といった感じ』
『月の出ない晩に神社の参道へ行くと、恐ろしい魔物に連れていかれる』
『境内の中は細やかな掃除が行き届いて――』
『三体の月』
『天之御中主、高御産巣日、神産巣日』
『神社周辺から離れることは――』
『概念世界と物質世界、私たちの世界』

 散在した欠片を拾い集め、統合してゆく。

 第一に親子で見た目が変わらないの

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【Forget-it-not】第三十八話「それを忘れないようにしなければ」

【Forget-it-not】第三十八話「それを忘れないようにしなければ」

 私は美春に同行してもらい、東京の実家の最寄り駅まで来た。美春がいれば目を瞑っていても安心だ。ただ彼女を信じて歩けばいいだけだから。

 駅前に停車しているtaxiに乗る。住所は寸分の狂いなく暗記している。

「がんばってね。これが終わったら、ちゃっちゃと朔夜さんを見つけて会いに行こ?」
「うん、行ってきます」

 タクシーが出発する。

 車は確かな足取りで進むのに、私の心は千鳥足を踏んでいる。

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【Forget-it-not】第三十七話「人間は自分のために頑張れるほど強くはない」

【Forget-it-not】第三十七話「人間は自分のために頑張れるほど強くはない」

 私は相も変わらず悩んでいた。しかし、雪乃と話したことで問題に対する解像度は格段に上がった。

 私は美春を家に呼び、二人きりの時間を作った。昼、夕、夜と、時間は目まぐるしく過ぎてゆく。湯舟で雪乃の言葉を何度も思い返し、美春に話す意志を固めた。

 風呂から上がると、hairdryerを持った美春に促がされ、座布団の上に座らされた。美春が膝立ちになって私の髪を乾かす。

 蝶が舞うように彼女の両の

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【Forget-it-not】第三十六話「魔物との邂逅」

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 十二月十三日、新月の日の水曜日、私たちは熊野地方へ赴いた。

 私、美春、泉水、榛名、雪乃、摩耶の六人で車に乗り、遊歩道手前の道路で五人が降車する。万一の通報役として摩耶が残った。

 時刻は二十一時。

 森厳な雰囲気を裂く賑やかな声が辺り一帯に響き渡る。雪乃と榛名たちが急速に仲を深めてゆく。

 泉水が先陣を切り、私が最後尾を歩く。魔物とやらが出現した場合、泉水と私が戦う予定だ。泉水は木刀を

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【Forget-it-not】第三十五話「野菜=健康に良いとは限らない」【創作大賞応募分最終】

【Forget-it-not】第三十五話「野菜=健康に良いとは限らない」【創作大賞応募分最終】

 携帯でcameraを確認すると、陳腐な自動車と覇気のない女性が佇立していた。女性こと摩耶さんは、桜桃のように身を二つに分かつ鞄を携えている。私は塀の戸を開け、彼女を出迎えた。

「おお、君が白雪さん。いや、びびった。これ、あいつらの鞄ね」

 鞄を受け取る。

「で、晴嵐って人についてだけど、あの人は美春ちゃんのお姉さんについては何も知らんらしい。正体も契りとやらがあって話せないんだと、守秘義務

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【Forget-it-not】第三十四話「神は実在はしないが存在する」

【Forget-it-not】第三十四話「神は実在はしないが存在する」

 哲学には認識論と存在論というものがある。これらは古代から連綿と受け継がれてきた哲学の二大巨頭とも言うべき問題なのだが、近頃は今一つ盛り上がっていない。

(理由は色々あるが、そもそもそれらを論文にしたためて発表することに意味はないというのが大きい。学問がどこから生まれたのかを考えれば、大衆に還元されない学問――芸術や娯楽もそうだろう――が空中楼閣でしかないのは簡単に分かることだ。たとえば美春が体

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【Forget-it-not】第三十三話「日本で哲学が育たない理由」

【Forget-it-not】第三十三話「日本で哲学が育たない理由」

 目を開けるといつも通りの天井が見えた。位置は少し違うけれど。
 隣から寝息が聞こえる。

 上体を起こして音のする方を見ると、美春が苦し気な表情で眠っていた。近付いて見ると汗が間断なく流れている。

 手拭で汗を拭ってあげると、眉間に入っていた力が抜けた。前髪を退けて額と額を合わせて熱を測る。まだ熱は下がっていない。

 眼の色が変わったり、奇特なものを視たのだから仕方がない。加えて昨日は寒かっ

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【Forget-it-not】第三十二話「時間は実在しない」

【Forget-it-not】第三十二話「時間は実在しない」

 皐月のある晩に私は海を見つめていた。
 平遠と広がる海原は、鷹揚な音楽を奏でている。重く轟く海鳴りは父の寝息のようで、大地を撫でる波音は母の子守歌に似ている。

 この音の始まりはどこだろう。

 最果ての波は力なくうな垂れ、又どこかへと旅立ってゆく。それを間断なく繰り返すのが私の知る世界だった。

 遠くへ目を向ける。闌干とかがよう青い満月が空と海の境界を際立たせていた。

 船はない。灯台や

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【Forget-it-not】第三十一話「大切な人を守り通すだけの力が欲しい」

【Forget-it-not】第三十一話「大切な人を守り通すだけの力が欲しい」

 血の気が引いてゆく。

 後ろにいた瑠璃があわてた様子で鍵を開け、素足のままに庭に出たので、わたしもつづいて外へ出る。芝のチクチクとした葉と、冷たい砂の感触がやけに鮮明に感じられた。

 南南西の空を見あげると、青やかな満月がわたしたちを見さげていた。その不気味な佇まいに、肌がぞわりと粟立つのが分かった。

「これって、まずいんじゃ」
 わたしが言うと、瑠璃は苦虫を嚙みつぶしたような顔でうなずく

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