マガジンのカバー画像

フリーライターはビジネス書を読まない

76
運営しているクリエイター

#コロナに負けるな

フリーライターはビジネス書を読まない(1)

フリーライターはビジネス書を読まない(1)

インターネットが普及する前、パソコンでテキストをやり取りできる通信サービスはパソコン通信だった。
「ホスト」と呼ばれるサービス運営業者のホストコンピューターに、電話回線でアクセスする。

アクセスしてしまえば、中身は、誰もが書き込める掲示板のほか、同じ趣味をもつ者どうしが集まるフォーラム、仲間うちだけでテキストをやり取りしたり、チャットもできた。

今のSNSの原型になったサービスは当時からだいた

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(46)

フリーライターはビジネス書を読まない(46)

試食品ドロボー惣菜売り場で試食品の出し方は、商品によって異なる。
サラダとかマリネは小さなカップに小分けして、使い捨てのスプーンかフォークをつける。トンカツや唐揚げなどの揚げ物は、小さく切って皿に乗せ、横に爪楊枝を置いておく。お客さんは自分で爪楊枝に刺して、味見をするというわけだ。

あくまで試食だから、1人1カップもしくは1カケラと考えるのが道理だろう。でも「タダで食える」と、前回みたいに、わざ

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(45)

フリーライターはビジネス書を読まない(45)

スーパーの店員はこうして常連さんを憶える畑中の私家版を降りた後も、午前はスーパーでバイト、午後は原稿書きという生活を続けていた。生活費が減った繋ぎに、ほんの2~3カ月で辞めるつもりだったのに、気が付けば半年が過ぎ、年末年始の段取りをする時季に差しかかっていた。
すっかり仕事にも慣れ、あとから入ってきたバイトやパートのおばちゃんに仕事の段取りを教える立場としてチーフから頼りにもされ、なかなか辞めづら

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(44)

フリーライターはビジネス書を読まない(44)

有名企業の専務がストーカー!?畑中から預かった原稿を自宅へ持ち帰って、じっくり読んでみた。よく書けているが、そのまま本にするには、やっぱり文章に難がある。
全体に共通語で書いてあるけれど、ところどころに大阪弁の言い回しが混じっている。たぶん本人は気づいてない。

それにしても、内容が凄まじい。売れない私家版を出すより、有名人のゴシップばかり書きなぐっている週刊誌にでも売り込んだら、波及効果でひと財

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(43)

フリーライターはビジネス書を読まない(43)

「ある人を懲らしめたいの」
宴会コンパニオンの派遣をやっているプロダクションの女性経営者と連絡を取って、バイトが終わったあとの午後の時間に、先方の事務所を訪ねることになった。
宴会コンパニオンは、ホテルの宴会場やパーティー会場などで、客に飲み物を勧めたり運んだりして、宴会に華を添える役割だと聞いた。その元締めみたいな仕事をやっているようだ。

事務所は、心斎橋のにぎやかなエリアから少し離れた場所に

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(42)

フリーライターはビジネス書を読まない(42)

バイトが出勤してこないミニコミ新聞で一緒に外部ライターをやっていた相澤から誘われて、固定収入が魅力で始めたスーパーでのバイトも、気が付けば1か月が過ぎていた。周りの雰囲気にも慣れ、作業の流れも呑みこんで、パートのおばちゃん連中を敵にまわすことなく平穏に過ぎていた。

そんなある日、出勤日がよく一緒になる20歳のフリーターが、始業時間になっても出勤してこなかった。
彼は口数は少ないが仕事ぶりはまじめ

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(41)

フリーライターはビジネス書を読まない(41)

スーパーで売られている惣菜の正体1週間くらい通ったら、まわりの様子が見えてきた。
惣菜売り場でもフライ担当と寿司担当がはっきり分かれていること、寿司以外は揚げ物はもちろんサラダや弁当などすべてフライ担当の仕事になっていること、寿司担当のおばちゃんたちは一見和気あいあいやっているように見えて、じつは足の引っ張り合いが凄まじいことなど。

もっとも、おばちゃんたちの派閥争いに巻き込まれたらロクなことに

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(40)

フリーライターはビジネス書を読まない(40)

スーパーマーケットの裏側面接に通って、私が配属されたのは惣菜売り場だった。
初出勤の日、作業服と長靴を支給するからといわれていたので、指示された通り事務所に顔を出した。その場で、半そでの作業服2着と新品の白い長靴を1足受け取った。
「長袖は後日お渡しします」と、事務所のおばちゃんにいわれた。このおばちゃんもパートタイムで働いていて、ほかに1人正社員の若い女の子が事務所に詰めている。事務所のいちばん

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(39)

フリーライターはビジネス書を読まない(39)

はじめてのバイトあらかじめ電話で示された面接日。
服装はなるべく端正を心がけても、ネクタイは締めない。とにかくネクタイが嫌いで、喪服とか制服以外では絶対にネクタイを締めないと決めている。
ネクタイの何が嫌いって、もともと防寒具が発祥といわれる(諸説あり)ネクタイが、高温多湿な日本の梅雨から夏になろうという時季に合うわけがないし、何よりも常に首を絞められている感触がたまらなく不快だった。
「私がネク

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(38)

フリーライターはビジネス書を読まない(38)

久々に相澤から連絡が来た1面の記事をシリーズ化して同じテーマを追いかける連載にしたことのメリットは、毎月新しいネタを考える手間が省けることと、数本分の取材を同じスケジュールで行えるようになるから、制作作業にも余裕ができることだ。
それでもギャラが大幅に増えるわけではないから、新規案件の獲得やクライアントの開拓も並行してやっていた。

そんな日々を送りながら1年ほど経ったある日、相澤から電話がかかっ

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(37)

フリーライターはビジネス書を読まない(37)

置手紙を残して……「相澤さん、どこにいるか分かりませんか?」
居戸がすがるような目で見てくる。
訊かれても困る。ふだんは完全に別行動だし、頻繁に連絡を取り合っているわけでもない。

「アカン、出て来んわ」
社長が戻ってきた。びっしょりかいた汗を、いつも粗品で配っているタオルで拭きながら「相澤の自宅まで行ってみたけど、インターホン鳴らしても反応がないんや」といって、入り口からいちばん近い椅子にドスン

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(36)

フリーライターはビジネス書を読まない(36)

相澤が消えた……ミニコミ新聞で書くようになって、数カ月が過ぎた。私は月に記事広告を2本と単発のインタビュー記事を1本書くのが固定になっていて、ほかゲリラ的に発生する記事があったら、それも書くことになっていた。

相澤はこれまでと変わらず、全体のレイアウトと1面の記事を担当していた。だが、レイアウトも記事も、いつも締め切り間際に滑り込みが続いていた。相澤のレイアウトが上がってこないと、デザイナーの仕

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(35)

フリーライターはビジネス書を読まない(35)

ミニコミ新聞の制作現場その夜、相澤と名乗る女性から電話がかかってきた。昼間訪ねたミニコミ新聞のライターだ。社長から番号を聞いて、さっそく挨拶がてらかけてきてくれたのだった。

話を聞いてみると、相澤は私と同い年で、しかも独身という境遇も同じ。ただこのときは電話で話しただけの感じとはいえ、ちょっとせっかちで落ち着きのない性格じゃないかなという印象を受けた。しかも、よくしゃべる。言葉に切れ目がなく、こ

もっとみる
フリーライターはビジネス書を読まない(34)

フリーライターはビジネス書を読まない(34)

場所を尋ねたら「お菓子屋の上」って、どこやねん……ミニコミ新聞は、私が住む区内のお店とかイベントの情報、記事広告などを発信するタブロイド判で、新聞販売店が副業でやっている広告屋が制作していた。それを月に1回、新聞に折り込んで配布しているのだった。
制作資金は区内の販売店が10万円ずつと、広告収入で賄われていることを、後になって知った。

電話をかけてきたのは、その広告屋で事務職をやっているおじさん

もっとみる