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フリーライターはビジネス書を読まない(あとがきに代えて)
1991年1月10日付で、5年2カ月勤めた綜合警備保障株式会社を依願退職して、フリーランスのライター稼業がスタートした。
今年で30年の節目を迎えるから、なにか書き残してオトシマエをつけるつもりで「フリーライターはビジネス書を読まない」を書き始めた。
タイトルの由来は、本当に読まないから。
自分は仕事で書くくせに、他人が書いたビジネス書の類はほぼ読まない。ビジネス書のつくられ方というか、制作の
フリーライターはビジネス書を読まない(75/終)
そして日常が戻った12月30日の夜。
うちの近所には小さな居酒屋が数軒ある。そのうちの1軒に空席をみつけて、柳本と2人で入った。
最初の1杯目は、とりあえずビールで乾杯。この習慣(?)は宮城でも同じらしい。
柳本はしきりに「飲め飲め」と勧めてくる。計略に乗せられてはいけない。朝5時に起きなければいけないのだ。
料理の注文を柳本に任せたら、塩辛いものばかりテ-ブルに並んだ。たまらずビールをおかわ
フリーライターはビジネス書を読まない(74)
帰ってこない当時まだバイトをやっていた私は、週に3日は朝7時半に家を出て13時に帰宅する生活だった。
「ライターは大阪弁を喋ってはいけない」という柳本の持論を論破してから後、私が帰宅する時間に柳本が出かけていることが多くなった。
私が朝出かけるときは、柳本はまだ寝ている。帰ってきたら、どこへ出かけているのか、部屋にいない。日が暮れても帰ってこない。私が就寝する頃になると帰ってきて、ベッドの下の空
フリーライターはビジネス書を読まない(73)
大阪弁を喋っちゃいけません「今夜は徹夜だ」と覚悟を決めてした徹夜は、それなりに乗り切れる。だが心の準備がないまま強いられた徹夜が、こんなに疲れるとは。
柳本を連れて帰ってきた朝、彼女の旦那にメールを打ち、返信を読んだ後で猛烈な睡魔に襲われた。
「もうダメ……」
ベッドに倒れ込んで、気が付いたときは夕方近くになっていた。
「今日の夕ご飯、つくります」
昨夜の罪滅ぼしのつもりなのか、柳本がい
フリーライターはビジネス書を読まない(72)
このままでは帰れない佐久間の下宿は6畳と4畳半の和室を襖で仕切られてあった。6畳間は寝室と書庫を兼ねているから、立ち入らないでほしいという。
4畳半の部屋は片隅にパソコンデスクが置かれていて、もう片側の壁にガラス扉のついたショーケースがあった。中にはヒーローもののフィギュアが無数に並べてある。
「こういうの好きみたいなんですよ」
柳本が「ふっ」と笑った。
部屋といっても、マンションやアパートの
フリーライターはビジネス書を読まない(71)
手首をガスコンロで焼いた「話が長くなるので、電話では話しづらいです。身元保証人が必要だし、平藤さんしかいないので……」
柳本は、警察に保護された経緯を、会ってから話すという。
グズグズしていたら、いくらでも遅くなる。
すぐ出かけることにした。
「じゃ、今から出ます。だいたい2時間くらいかかるから、警察にもそういっておいて」
保護されている警察署を聞いて、すぐ自宅を出た。
途中、柳本から〔今ど
フリーライターはビジネス書を読まない(70)
今から京都まで……柳本の救急搬送さわぎから数日経ったある日の朝、
「今日は京都へ行ってきます」
といいだした。
「京都のどこ? 体はもういいの?」
「先輩のところです。住むところが決まるまで会わないつもりでしたが、さすがに1カ月も経ってしまうと、一度くらい顔を見たいじゃないですか」
「知らんがな(心の声)」
昨日の深夜に、私に聞こえないように声を殺して、電話で話していたことは知っている。京大
フリーライターはビジネス書を読まない(69)
プライドを傷つけないように帰らせるには救急車が病院に着いたとき、柳本の意識はなかった。ストレッチャーで処置室へ運ばれていき、私は照明が落とされた待合室で待つしかなかった。
深夜の救急病院は静まり返って、物音ひとつしない。
柳本の処置が行われている間、救急車がもう1台入ってきた。看護師と救急隊員らによって、あれよあれよという間に処置室へ運ばれていく。その動きや手順には一切の無駄がなく、機械のような
フリーライターはビジネス書を読まない(68)
デザインのオファーがきたロフトベッドの下につくった部屋にマックを「設置」し終えた柳本は、さっそく大阪でデザイナーの求人をしている制作会社を探し始めた。
何社か売り込みのメールも出したようだ。
「なかなかいい返事がもらえなくて」
夕飯の調理をしながらこぼしていた。
ある日、私に仕事をオファーする電話がかかってきた。「アントレ」誌の広告を見たという。
「自動販売機に掲示する販促ポスターのデザインを
フリーライターはビジネス書を読まない(67)
話が変わってきた柳本が大阪の我が家へ来て、3週間が過ぎようとしていた。
2~3日滞在の予定だったのでは?
そう。その予定だった。
京都で部屋を借りるためには固定収入が条件だと、どの仲介業者からもいわれた。
「コンビニのバイトでも、なんでもします」と悲壮な決意を固めて、柳本はアルバイト情報誌と履歴書用紙を買ってきた。
ちょうど出町柳駅の近くにあるお菓子メーカーの広報担当部署でデザイナーを募集し
フリーライターはビジネス書を読まない(66)
見通しが甘かった「暑いですね」
駅へ向かう道を横に並んで歩きながら、柳本がつぶやいた。これから京都へ行くのだ。
柳本は首から下を、黒い厚手のロングコートで覆っている。
「その格好じゃなぁ……」
まだ11月に入ったばかり。見るからに暑そうだ。
「今の時季、宮城では、コレなしじゃ外へ出られないですよ」
柳本の額に、うっすらと汗がにじんでいた。
京阪電車・出町柳駅に着いたのは、お昼の少し前だった。腹
フリーライターはビジネス書を読まない(65)
秘密にしていたこと夢から覚めて、現実へ戻りつつ、意識がしだいにはっきりしてくる。まだ少し寝ぼけながら時計に目をやる。
6時を少し過ぎたあたり。
就寝が遅くても、ふだん通りの時間に目が覚める。習慣とは恐ろしいものだ。ふだんと違うのは、今寝ているベッドの下に、26歳の女性がひとり寝ていること。
眠れたかな?
下を覗く。
柳本が滞在しているあいだ、プライベートな空間としてベッドの下を空けたのはいいけ
フリーライターはビジネス書を読まない(64)
初日の夜深夜11時過ぎの地下鉄御堂筋線。車内はアルコール臭かった。
酔っぱらいは大声でしゃべるか、座席に身も心も預けて爆睡している。天王寺、難波、梅田を経て新大阪へ向かう車内でさえこうなのだから、都心から郊外へ向かう「なかもず行」は、ちょっと1杯のつもりで飲み過ぎた勤め帰りのサラリーマンで、もっと大変なことになっているだろう。
新大阪へ向かう車内で柳本からのメールを受け取った。
〔新大阪行きの新