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フリーライターはビジネス書を読まない(46)

試食品ドロボー

惣菜売り場で試食品の出し方は、商品によって異なる。
サラダとかマリネは小さなカップに小分けして、使い捨てのスプーンかフォークをつける。トンカツや唐揚げなどの揚げ物は、小さく切って皿に乗せ、横に爪楊枝を置いておく。お客さんは自分で爪楊枝に刺して、味見をするというわけだ。

あくまで試食だから、1人1カップもしくは1カケラと考えるのが道理だろう。でも「タダで食える」と、前回みたいに、わざわざ試食品が店頭に出る時間を見計らって来店する不届き者もいる。

ところが、試食おやじがここでのタダ食いを諦めて、近隣にある別のスーパーに出没しているという噂が立ち始めた頃、新たな敵が現れた。

見た目は二十歳ぐらいの若い娘で、身なりは綺麗にしているとは言い難かった。後ろでまとめた長い髪には、遠目からもフケが目立っていた。
店に入ってくると、袈裟掛けにしているバッグからビニール袋を取り出して、自分の右手に被せる。そのままIBが出している試食のパンをつかんで、袋をひっくり返したら、袋の中にパンが収まっているという寸法だ。
パンをゲットしたら、次は惣菜売り場へやってきて、同じやり方でトンカツをもっていかれた。
この間、わずか1~2分の早業。何も買わずに、店を後にしたのである。

「それは、もう計画的やな。悪質や!」
チーフから報告を受けた店長は、自ら動きだした。

翌日、成功体験があるから、あの娘はまたやってくるはずだ。店長は、店長だけが着るジャケットを脱いで、買い物客を装ってIBの売り場をそれとなく監視していた。
果たして昨日と同じ時刻に、あの娘が現れた。服装は昨日と同じだ。
ビニール袋を右手に被せて、パンの試食を取った。だが店長は、まだじっと見ている。
娘は次に、惣菜売り場へ向かって歩いてくる。今日の試食品はハンバーグだ。
ビニール袋を取り出し、右手にかぶせて、ハンバーグに手をかけた。
「お客様、ちょっと失礼します」
娘の動きがビクッと止まった。背後から店長が声をかけたのだ。
娘はじっとして動かない。
「事務所まで来てもらえますか」
娘は観念したのか逃げる素振りは見せず、店長とチーフが娘を前後から挟むようにして事務所へ連れて行った。

しばらくしてチーフが戻ってきた。
娘は泣きながら「もうしません」と約束したそうだ。万引きではないし、店長が注意して「当店にはもう来ないでください」といい含めて家に帰した。
話を聞くと生活に困っているわけではなく、試食に出ているものならタダで手に入るという動機だったらしい。

ところが、それから数日経ったある日、あの娘が店に現れた。そして同じ手口で、試食品を漁っていった。
店長も、今度は温情をかけなかった。次の日、凝りもせず現れた娘を事務所へしょっ引いて、店に対する迷惑行為ということで警察へ突き出したそうだ。

(つづく)

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