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#小説

大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】

大阪城は五センチ《 1 》 【創作大賞2024】



脱いでいた服を身につけた後は、宇治のそばにいる資格をすっかり剥奪されたような気持ちになる。

バスルームに水の音が響くのを聞きながら鏡台の前に立ち、クリーニングしたてのスラックスをしっかり引き上げ、新品のセーターの裾を整えた。申し訳程度に眉を書き足し、色付きの薬用リップを塗っただけのささやかな顔が、鏡の中から心配そうにこちらを見つめ返してくる。励ますようにショルダータイプのスマホケースを肩から

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花畑お悩み相談所 プロローグ 

花畑お悩み相談所 プロローグ 

プロローグ

 寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
 そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
 深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた

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【小説】パン屋 まよなかあひる(1)蘇るメロンパン

【小説】パン屋 まよなかあひる(1)蘇るメロンパン

第1話 蘇るメロンパン

 あーもう死んじゃお、って闇みたいな海に飛び込んでやるつもりだったのに、気がつくと猫のあとを追っていた。
 猫は、私がボストンバッグの中身を逆さまにしてざらざらと海に流していたら、いつの間にやら隣に座っていた。何かを待ち構えるように煌々と黄色い目を光らせて、残りは全て夜闇に紛れてしまいそうな黒猫。
「君も死にたいの?」
 話しかけてみるけれど、もちろん答えはない。まあ、死

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夢と鰻とオムライス 第1話

夢と鰻とオムライス 第1話



 飛んできたのは五百円玉だった。
 よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
 鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
 俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。

「何すんだよ!」
 渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた。

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小説★アンバーアクセプタンス│序章

小説★アンバーアクセプタンス│序章

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序章

少年アンバーと夜空ストロー

 地球の西暦は二〇四六年。
 宇宙暦? そんなSF映画みたいな年号は使わない時代のお話。

 ★

 戦前も戦後も地球の人たちの対立構造はそう変わらないようだ。だけど宇宙船・飛車八号の船内コロニーでは、基本的にみんな仲良くなれる環境が保たれていた。特にぼくの通う学習センターと付近の地区は治安が良い。本船が鹿児島から打ち上げられた二〇四二年以降

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「一泊二日」 第一話

「一泊二日」 第一話

  ◇

 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。
 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の上で、ずっとこぶしを握りしめていた。開いてみると、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいる。私はティッシュペーパーを一枚引き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに丸め、ゴミ箱めがけて投げ入れようとしたが、角に当たってポロリと落ちてしまった。何

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花畑お悩み相談所 第一話 

花畑お悩み相談所 第一話 

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悠人からのメール (1) 赤いスカーフの女

 紅子はカゴを抱えて歩きます。小さな頃は重かったものが、もうすぐ十三になろうという今は、片手で持ってスキップでもできそうでした。
 けれどもそんなことはしません。中には、おばあさんに届けるケーキとワインが入っているから、揺らさないよう、石につまづいたりしないように気を配りながら山道を行きます。
 真っ赤なスカーフで顔を巻き、

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白雪美香は彼氏ができない!_第1話

白雪美香は彼氏ができない!_第1話



プロローグ

「はぁ、はぁ、はぁっ」

白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。

5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服

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エロを小さじ1 《最終話》

エロを小さじ1 《最終話》

《最終話》そしてハッピーエンド?

「和牛のたたき」
「おこぜの唐揚げ」
 池上貴明が予約してくれた小料理屋の、木の温もりのある個室に座ると、貴明と春香はメニューを覗き込み、次々と料理を選んだ。
「おくらの天ぷら」
「おっ、それ、僕も食べたかったんだ。あとは季節の野菜の炊き合わせ」
 食の好みが似ている。そんな男と料理を選んでいるだけで、春香の心は踊った。
 食べ物の趣味が合う人と向かい合って座る

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【連載小説】「執事はバッドエンドを導かない 」第一話(創作大賞2024・ファンタジー小説部門応募作品)

【連載小説】「執事はバッドエンドを導かない 」第一話(創作大賞2024・ファンタジー小説部門応募作品)

※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。

プロローグ

 遠い昔、村に魔女がやって来ました。

 村の少女が「病気の母を助けてほしい」と懇願すると、魔女はこう言います。

「かわいいお前のためだ。その願いをきいてやろう。けれど、お前も相応のものを払わねばいけないよ。私が持っているいくつかの呪いのうち、一つをお前が代わりに引き受けてくれるかい」
 
 少女は何だかとても

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