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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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#信仰

依存と信仰について

依存と信仰について

新教出版社『福音と世界』誌は、いつも新たなチャレンジを投げかけてくれる。お決まりの良い子でいるキリスト教雑誌もいい。心が洗われる。本誌は、心が洗われる効果は殆どない。だが、常に新たな視点をもたらしてくれる。知らないことを教えてくれる人が多いというのは、私にとり良い雑誌である。もちろん、それらは真摯な姿勢であり、多面的な調査や研究に基づいた記述であり、信頼のおけるもの、という理解に基づいての意見であ

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『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

当然、と言ってもよいと思う。2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から、毎日新聞社に、ひとつの取材が始まった。
 
宗教とは何か。これを問うことも始まった。特にその狙撃犯が位置しているという「宗教2世」という存在に、世間が関心をもった。次第にその眼差しは、彼らを被害者だという世論を巻き起こしてゆく。そして、子どもに宗教を教えてはいけない、というような風潮が、「無宗教」を自称する人々により、唯一の正

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『信じる者は破壊せよ』(キャスリーン・ニクシー;松宮克昌訳・みすず書房)

『信じる者は破壊せよ』(キャスリーン・ニクシー;松宮克昌訳・みすず書房)

これはキリスト教全体に関わるような批判の書である。キリスト教が、ギリシアやローマの文化をいかに破壊したかを示す。
 
もちろん、ローマ帝国の許で、キリスト教は不遇な扱いを受け続けてきた。だが、ローマ帝国自体の弱体化もあり、その他多くの事情が重なって、ついに帝国公認の宗教となる。つまり、権力者がこの宗教をメインに扱うようになったのだ。
 
権力を有するようになったキリスト教会が破壊をした――のかどう

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『主が、新しい歌を 加藤さゆり説教集』(加藤常昭編・教文館)

『主が、新しい歌を 加藤さゆり説教集』(加藤常昭編・教文館)

説教者を知らなくても、編者の名前から検討がつくだろうと思う。日本で説教を最も重視し、説教塾を立て、何百人もの牧師の説教に対する考え方をつくりかえた加藤常昭氏の妻である。
 
2014年8月、本書の発行後間もなく召された。
 
1964年の大きな手術以来、多くの病を担い続け、もはや治療不可能という事態になり、本書が編まれた。夫常昭氏の、感情溢れんばかりの、しかし結局は信仰に溢れた形の、「まえがき」や

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『困惑を超えるもの 大沼隆遺稿説教集』(大沼隆・教文館)

『困惑を超えるもの 大沼隆遺稿説教集』(大沼隆・教文館)

日本基督教団仙台川平教会主任担任牧師、宮城学院宗教総主事などを務め、東北の地で50年にわたり伝道に奉仕した牧師が残した説教集。膨大なノートの束から掬い上げられた、生涯をかけて福音をあかしし続けた著者による心打つ魂の言葉。
 
本の帯にそう説明されており、これが本書の概略を簡潔明瞭に伝えている。その帯に、より大きな文字で書かれてある文句はこうである。「信仰とは、困惑があってもそれを超えて生きてゆくこ

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『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる・中央公論新社)

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる・中央公論新社)

失礼だが、存じ上げなかった。大関和(ちか)さん。幕末の1858年に生まれ、関東大震災後間もなく、74歳で亡くなっている。
 
著者は女性にまつわる調査を多くこなしているというから、本書も、女性と職業という観点から綴られているには違いない。ただ、和さんが信仰者であったということから、私はまた別の光を当てねばならないという気持ちになってくる。
 
副題ではなく、題の冒頭として、「明治のナイチンゲール」

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『みんなの宗教2世問題』(横道誠編・晶文社)

『みんなの宗教2世問題』(横道誠編・晶文社)

2022年の安倍晋三元首相の殺害事件により、背景にあった統一協会の組織と信者、その家族との関係が、一躍有名になった。それを受けて、信者そのものというよりも、その信仰活動による被害者として逃れられない位置にいる、子どもたちのことが取り沙汰されるようになった。いわゆる「2世」問題である。
 
以前からずっと統一協会問題に関わり、組織の批判と人的救出に尽力してきた弁護士やジャーナリストの声が、もはや他人

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『なぜ君は笑顔でいられたの?』

『なぜ君は笑顔でいられたの?』

(「福本峻平の本」制作委員会・いのちのことば社)

副題に「福本峻平 神と人とに愛されたその生涯」と書かれ、表紙にある写真は、車椅子で喉にチューブを入れた男性の写真がついている。これが福本峻平さんである。
 
とある関連でこの人のことを知った縁で、手に取ることとなった。
 
キリスト者が、困難な環境に置かれた中で、神を信じて乗り越えていった。病にも拘わらず喜びの人生を送り天に召された。このような話

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信仰とは何か

信仰とは何か

『証し 日本のキリスト者』(最相葉月・KADOKAWA)に、多くの牧師や信仰者が気づき始めた。これはもっと読まれて然るべきだと思う。否、キリスト者は読まねばならない、と言った方がいい。
 
私は本をご紹介するとき、全部読み終わっていない本を取り上げることはない。だが今回、それをある意味で裏切ることをする。何しろ1000頁を超える本である。ちまちましか読まない私が読み終わるのはいつになるか分からない

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『「神様」のいる家で育ちました』(菊池真理子・文藝春秋)

『「神様」のいる家で育ちました』(菊池真理子・文藝春秋)

2022年の流行語とすらなった「宗教2世」であるが、本書はサブタイトルに「宗教2世な私たち」という形で、その実態を訴えることとなった。この言葉が世間に知れ渡ったのは、2022年7月の、安倍元首相の殺害事件を通してである。その容疑者の身の上を表す言葉として、それが浮かび上がった。
 
本書は、その前に書き上げられている模様。だから、決して「ブーム」に乗って売ろうとしているわけではない。尤も、本来集英

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『死と命のメタファ』(浅野淳博・新教出版社)

『死と命のメタファ』(浅野淳博・新教出版社)

まるで教科書のように、適宜まとめ、練習問題を投げかけながら、進んでいく。学ぶにあたり、親切な構成となっていると言えるだろう。
 
サブタイトルがしっかり付いている。「キリスト教贖罪論とその批判への聖書学的応答」、これはなかなか本書の核心をよく示している。まさにそれが論じられている。また、帯には、このようにある。「「贖罪」とは何か? イエスの死と命の救済論的価値とは何か? キリスト教の核心的な問いに

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平川唯一さんのこと

平川唯一さんのこと

「カムカム英語」について直接知らなかった私にとり、それは伝説であった。それが、2021年後半からのNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、タイトルとなって私たちの目の前に現れた。
 
放送も最終回へと近づいてきた頃、ふと書店でこの本を見かけた。これは読むべきものだろうと直感して、手に入れた。『「カムカムエヴリバディ」の平川唯一』(平川洌・PHP文庫)である。
 
それが感謝な導きであっ

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