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映画解釈・考察

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【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

【映画解釈/考察】『寝ても覚めても』/『ドライブ・マイ・カー』「不条理な世界の存在として、それでも言葉の世界で生きようとする者たち」

『寝ても覚めても』(2018)濱口竜介監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』を扱った以前の記事で、『ドライブ・マイ・カー』は、不条理な世界を認めざるを得ない一方で、それでも言葉による新たな物語を創出して生きていく人々を描いた物語であるという解釈をしました。

 そして、『ドライブ・マイ・カー』を見た後、再度、『寝ても覚めても』を見返してみると、非常に多くの共

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【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

【映画解釈/考察】『ドライブ・マイ・カー』『ロスト・ドーター』「不条理演劇と記号的他者を通した物語的自己同一性による癒し」

『ロスト・ドーター』(2021)マギー・ギレンホール監督
『ドライブ・マイ・カー』(2021)濱口竜介監督


今回は、アカデミー賞2022脚色賞にノミネートされた2作品について考察を行います。

1 不条理演劇と実存主義『ロスト・ドーター』は、エスリンの不条理演劇の言葉がはっきりと映画の中に出てきますが、『ロスト・ドーター』のストーリーの構成自体が、不条理演劇そのものになっています。突然安ら

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【映画解釈/考察】スティーブン・ソダーバーグ監督『セックスと嘘とビデオテープ』「女の虚像に囚われた男と、視線の反転による開放」

【映画解釈/考察】スティーブン・ソダーバーグ監督『セックスと嘘とビデオテープ』「女の虚像に囚われた男と、視線の反転による開放」

『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)

1.スティーブン・ソダーバーグ監督の映画作家としての凄み スティーブン・ソダーバーグ監督の長編映画デビュー作にしてカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作でもある『セックスと嘘とビデオテープ』は、刺激的で挑発的なタイトルとは対照的に、男女関係を哲学的に捉えた、論理的なストーリーが展開されるプラトニックで、精神分析的な作品です。

 そして、この作品だけで、

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【映画解釈/考察】『ブラック・スワン』(2010)「ダーレン・アロノフスキー監督の方程式」(『π』『マザー!』との共通点)

【映画解釈/考察】『ブラック・スワン』(2010)「ダーレン・アロノフスキー監督の方程式」(『π』『マザー!』との共通点)

『ブラック・スワン』(2010)
『π』(1998)
『マザー!』(2017)
『ブラック・スワン』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞の『レスラー』(2008)に続くダーレン・アロノフスキー監督作として2010年(日本では、2011年)に公開された作品です。ナタリー・ポートマンが、本作で、アカデミー主演女優賞を獲得しています。

 また、『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』から続くダーレン・

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【映画解釈/考察】『マトリックス』三部作 「シミュラークル(システム)におけるネオ(人間)とサティ(AI)の存在」

【映画解釈/考察】『マトリックス』三部作 「シミュラークル(システム)におけるネオ(人間)とサティ(AI)の存在」

『マトリックス』(1999)『マトリックス リローデッド』(2003)『マトリックス レボリューションズ』(2003) 監督 ウォシャウスキー姉妹
約20年ぶりに続編が制作されているウォシャウスキー姉妹の『マトリックス』は、脚本が本当によく練られており、人文哲学、人工知能、プログラム、システム論など多岐の分野にわたり思索に富んだ作品になっており、多くの解釈ができる作品です。ただ、どうしても、そ

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【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

【映画解釈/考察】Netflixアニメーション映画『失くした体』(2019)「メルロ=ポンティの身体図式と身体と世界の共感」

『失くした体』(2019) ジェレミー・クラパン監督
 本作は、Netflixが世界配信するフランスのアニメーション映画です。カンヌ国際映画の国際批評家週間で賞を獲得し、またアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされました。

この映画の原作小説の作者は、『アメリ』の脚本を担当したギョーム・ローランで、本作でもジェレミー・クラパン監督と共同で脚本のクレジットがされています。

特に

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【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

【映画解釈/考察】『エクス・マキナ』アレックス・ガーランド監督(2015)/『チャッピー』 (2015)「映画にみるAIの意識と人間の心 」(心の哲学)

『エクス・マキナ』(2015) アレックス・ガーランド監督 「エクス・マキナ」は、アレックス・ガーランド監督作品で、2015年のイギリス映画です。アレックス・ガーランド監督は、ダニー・ボイル監督作『28日後...』『サンシャイン2057』の脚本や同監督の『ザ・ビーチ』の原作者として有名で、本作が初監督作品です。 本作でも、脚本も担当しています。製作会社も、上記作品同様『トレインスポッティング2』の

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【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

【映画解釈/考察】『アメリ』(2001) 「ルノワールの絵画とフーコーの〈類似〉→〈表象〉→〈人間〉(アメリの視線の先とアメリの存在が街に浮かび上がる特異点 ) 」

『アメリ』(2001) ジャン=ピエール・ジュネ監督
本作は、『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』のジャン=ピエール・ジュネ監督のラブストーリーです。

公開当時は、ブラックユーモアとダークファンタジー色が強い前作2つのイメージとは少し違い、肩透かしを食らった感じでしたが、本作も芸術的な完成度が高いエンターテイメント作品なっています。

もちろん、本作で一躍、世界的に有名になったオード

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【映画解釈/考察】『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』(2014)  「ロラン・バルトの白いエクリチュールと空に溶け込むバードマン」

【映画解釈/考察】『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 』(2014) 「ロラン・バルトの白いエクリチュールと空に溶け込むバードマン」

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014) アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
本作は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞などを獲得した2014年の作品です。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督といえば、『アモーレス・ぺロス』や『バベル』などの群像劇が多いイメージでしたが、本作を含め『BIUTIFUL ビューテ

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【映画解釈/考察】『ザ・スクエア 思いやりの聖域』「資本主義と倫理の間を逃走する現代美術の理性 」

【映画解釈/考察】『ザ・スクエア 思いやりの聖域』「資本主義と倫理の間を逃走する現代美術の理性 」

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017) リューベン・オストルンド監督

本作は、「フレンチアルプスで起きたこと」のリューベン・オストルンド監督作品で、カンヌ国際映画祭で、パルムドールを受賞しました。「フレンチアルプスで起きたこと」と同様に、危うい人間の理性の本質を執拗に突いてくる作品で、本作は、現代美術または、現代美術館がターゲットになっています。

そして、冒頭の場面から、この映画の主題

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