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介護施設について考える

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自分の両親、親族がお世話になっている介護施設。いつかは、自分もお世話になるかも知れない介護施設。  超高齢化社会に生きる者にとって、介護施設について考えておくことは大切なことだと…
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#國分功一郎

パノプティコン(panopticon)-介護施設の課題Ⅰ‐1

パノプティコン(panopticon)-介護施設の課題Ⅰ‐1


(1)パノプティコンとしての介護施設① パノプティコンとは

 介護施設を考える際に外せない概念が 、パノプティコン(panopticon;一望監視施設)です。介護業界でパノプティコンという概念がもっと広く認知されれば良いと思っています。

 このパノプティコンとは、イギリスの思想家ジェレミ・ベンサム[1](Jeremy Bentham)が考案したもので、監視塔から監獄のすべての部分が見えるよう

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「業務日課」至上主義の背景と疎外 介護施設の課題Ⅱ-2

「業務日課」至上主義の背景と疎外 介護施設の課題Ⅱ-2


1.なぜ「業務日課」至上主義がはびこるのか そもそも、何故、「業務日課」至上主義がはびこるのでしょうか。人員不足などの体制の問題も大きいと思いますが、ここでは人間的な要因、社会的、心理的な要因について考えてみます。

(1)ヒラメ・キョロメの過剰同調

 宮台真司 (社会学者)さんは日本人の過剰な同調性について鋭い論評を展開していますが、この観点も「業務日課」至上主義がはびこる理由を考える上で参

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「迷いのない介護」が支える「業務日課」至上主義 介護施設の課題Ⅱ-4

「迷いのない介護」が支える「業務日課」至上主義 介護施設の課題Ⅱ-4


1.思考実験「迷いのない介護」 「業務日課」至上主義を支えているのは、「迷いのない介護」を行う者たちです。「業務日課」至上主義を遂行しようとすれば、介護をするときに、迷ったりしていてはダメなのです。
 迷いのない介護職員は、介護する時に一々考えたりしませんし、自らの介護を疑わず、自分の介護を見直すこともしません。自らの介護を疑わないのですから、当然、自信を持つこともできます。
 この「迷いのない

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「迷ってみようよ!」 介護施設の課題 Ⅱ-5

「迷ってみようよ!」 介護施設の課題 Ⅱ-5


1.「業務日課」システムとは 「業務日課」は介護施設の時間規則を中心としたオペレーティングシステムです。この「業務日課」というシステムに介護業務のマニュアルが付け加わり、効率的で強固な介護現場の最強システムになっているのです。
 このシステムは介護施設における円滑な集団生活を維持するという公共の利益に沿うものと言えるかもしれません。
 このシステムに則り、忠実に業務を遂行するのが組織の規律であり

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パノプティコン性 介護施設の課題 Ⅲ-3

パノプティコン性 介護施設の課題 Ⅲ-3


1.パノプティコン性 介護施設とは何かということを考えるとき、語るとき、パノプティコン(panopticon;一望監視施設)という概念を外すことはできません。

 パノプティコンとは、イギリスの思想家ジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)が考案した監視塔から監獄のすべての部分が見えるように造られた円形の監獄のことで、ミシェル・フーコー(Michel Foucault) が『監獄の誕生

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「不要不急」思想の影響 介護施設の課題Ⅳ‐2

「不要不急」思想の影響 介護施設の課題Ⅳ‐2


1.不要不急という思想 國分功一郎(哲学者)さんはコロナ危機を生きるための新たな日常の指針として多くの国民に内面化された「不要不急」について考察しています。
 同氏はコロナ禍によって社会に次のような傾向が強まってきたと危惧しています。

 「不要不急」とは「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」ですが、國分功一郎さんは、この「不要不急」概念の中核には「必要」の概念があり、そ

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「剥き出しの生」に抗して~贅沢は敵か!? 介護施設の課題Ⅳ-4

「剥き出しの生」に抗して~贅沢は敵か!? 介護施設の課題Ⅳ-4


1.超法規的な目的合理性の貫徹 介護施設で、なぜ人権が安易に抑圧されることがあるのでしょうか。介護施設で働く人たちに問題があるからではないでしょう。そこには、何らかの構造的な要因があるはずです。

 國分功一郎(哲学者)さんは官僚制(bureaucracy)を、その語源から官僚支配(bureau: 事務所; cracy: 支配)と訳し直したうえで次のように指摘しています。

 さらに、ハンナ

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