記事一覧

月のラジオ放送局

地球の皆さん、こんばんは。 満月の夜、うっかり気付いてしまった人だけが傍受できちゃう、知る人ぞ知る月のラジオ放送局、今夜もこっそり開局しております。 さて、もは…

恵勇
1か月前
14

夏の鴨

この公園の中央には、円形に広がる大きな池があり、その周りには12、3ほどのベンチが配されている。昨今のベンチは、真ん中に仕切りがあって、寝転がるような使い方はでき…

恵勇
2か月前
28

仁義なき冬麗戦 第二幕

あの激戦から一夜が明けた。 俺は昨日と全く同じ道筋を、昨日とは全く異なる心持ちで歩いていく。大きな都市公園の側にある集合場所へ向かう途中、昨日はたくさんの野鳥が…

恵勇
6か月前
12

仁義なき冬麗戦 第一幕

俺の仕事は、警備員だ。 一口に警備員と言っても色々あるが、大雑把に言えば、屋内と屋外に分けられる。俺はといえば、専ら屋外の方だ。寒いとか暑いとか、身体の負担の…

恵勇
6か月前
18

祝☆岩波俳句 親子三人同時入賞記念

どないなっとんねーん! いやね、今年一年振り返ってみますとですね、どうしても『お〜いお茶』の初入賞が燦然と輝いているわけなんですが。 本当のビッグニュースは、そ…

恵勇
7か月前
20

恵勇2023年自選10句『会話』

いや、選ぶほどの作品は世に残してないんだよなぁ…などと思いつつも、ヒマラヤさんに上手いこと唆されて、しかもここまでカッコよく仕上げてもらったら、悪い気はしないで…

恵勇
7か月前
19

返り花

あの時もここに、桜が咲いていた。 私の家の近くには湖がある。湖畔に面した公園にはボート乗り場があり、土日は家族連れやカップルで賑わう人気スポットとなっている。い…

恵勇
8か月前
24

名句全集中鑑賞∶夜長の主砲編

長き夜や「こゝろ」を閉じた手を洗う 常幸龍BCAD 「こゝろ」は小説である。それを閉じたのだから、その本を閉じたのだ。 選評にある通り、それを読み終えたのか、途中な…

恵勇
8か月前
25

一句一遊劇場 最終話 灼然たる生命篇

俺は刑事として、数々の事件に挑んできた。その内容は多岐に渡り、詳細に覚えていないものも多いが、その中の一つの事例は、俺にとって生涯忘れ難いものとなった。 とある…

恵勇
1年前
48

一句一遊劇場 二十二の夏色篇

まだ幼い頃、絵を描くのが好きだった私に、母は24色入りのクーピーを買ってくれた。3つ上の兄がサッカー好きだった事もあって、サッカーボールの絵ばかりを描いていたそう…

恵勇
1年前
19

一句一遊劇場 饗しの平鰤篇

あの日は、取引先の社長から昼食のお誘いを受け、入った事もない高級な割烹料理店に来ていた。取引先とは言ったが、会社同士の関係ではなくて、ちょっと訳アリというか、会…

恵勇
1年前
24

一句一遊劇場 運命のミサンガ篇

『逆境のシュート炎帝穿ち抜く』 娘は、どうだと言わんばかりに一句詠んでみせた。私はそれを、ノートに書き留める。 「ねえ、お母さん、どう?これ、なかなかじゃない?…

恵勇
1年前
20

一句一遊劇場 哀傷のやませ篇

我が家は貧乏である。しかし、貧乏には貧乏なりの、幸福がある。 例えば我が家では、家の裏手で筍が採れる。その筍を使った炊き込みご飯は、何よりのご馳走なのだ。今夜も…

恵勇
1年前
23

一句一遊劇場 戦慄の筍飯篇

この街は、まだ寒い。ぽつぽつと灯が灯って、どの家もそろそろ夕食の時間だ。 俺は新米の刑事。まだまだ独り立ちとはいかないので、先輩について回っている。 どの家庭に…

恵勇
1年前
31

句養物語リプライズ『蝶』

俺は、自由気ままに生きてきた。それは孤独を愛する故であると思うが、同時に器用な男でもあると思う。この世がどんなに生き辛くても、工夫次第で上手く乗り切っていくスキ…

恵勇
1年前
16

句養物語リプライズ『詩』

君は迷ってなんかいない 迷ってなんかないよ 星が笑いかけるように 迷いの霧を抜けよう 星は笑っているんだよ 君の言葉を照らしたいから 君が選んだ答えは きっと誰…

恵勇
1年前
13
月のラジオ放送局

月のラジオ放送局

地球の皆さん、こんばんは。

満月の夜、うっかり気付いてしまった人だけが傍受できちゃう、知る人ぞ知る月のラジオ放送局、今夜もこっそり開局しております。

さて、もはや恒例となりましたこの企画、月面お悩み相談局。リスナーのお便りをご紹介しましょう。

今夜は日本の方ですね。匿名希望となっています。早速読んでみましょう。

「みんなー!もっとボクを労ってよー!なんだかんだでボクが一番頑張ってるのにー!

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夏の鴨

夏の鴨

この公園の中央には、円形に広がる大きな池があり、その周りには12、3ほどのベンチが配されている。昨今のベンチは、真ん中に仕切りがあって、寝転がるような使い方はできない。即ちベンチ一つの定員は2名となるから、私のような独り者が座ると、1人分余らせてしまう事になる。だが、私も好きで独りになったわけではない。大きな溜息を吐きながら、私はそのベンチへ身を放り投げるようにして腰掛けた。

世の中の独り者は、

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仁義なき冬麗戦 第二幕

仁義なき冬麗戦 第二幕

あの激戦から一夜が明けた。

俺は昨日と全く同じ道筋を、昨日とは全く異なる心持ちで歩いていく。大きな都市公園の側にある集合場所へ向かう途中、昨日はたくさんの野鳥が目についた。しかし、今朝は違う。

俺の両目に備えられたバードスカウターは、その対象をたった一種類のみに絞っていた。

そう、俺は今、カラスのみを探しているのだ。当たり前だが、カラスは大抵の場所で簡単に見られる鳥だ。道中、遠く近くにその声

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仁義なき冬麗戦 第一幕

仁義なき冬麗戦 第一幕


俺の仕事は、警備員だ。

一口に警備員と言っても色々あるが、大雑把に言えば、屋内と屋外に分けられる。俺はといえば、専ら屋外の方だ。寒いとか暑いとか、身体の負担の事を心配される事も多い仕事だが、本人は至って平然とこなしている。こなしているどころか、むしろ全力で楽しんでいると言って良いだろう。何故なら、この仕事をしながらにして、スキマ時間に堂々と趣味に耽る事ができるからだ。しかも自分は多趣味な人間な

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祝☆岩波俳句 親子三人同時入賞記念

祝☆岩波俳句 親子三人同時入賞記念

どないなっとんねーん!

いやね、今年一年振り返ってみますとですね、どうしても『お〜いお茶』の初入賞が燦然と輝いているわけなんですが。

本当のビッグニュースは、その後にやって来たわけです。それではご覧あれ!

すすすす澄子さまぁぁぁ!!

すみません、取り乱しました(汗)。

岩波は載るだけでラッキーなのに、まさか親子三人が同刊に同時に掲載されるとは…

奇跡としか言いようがない。
というか、こ

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恵勇2023年自選10句『会話』

恵勇2023年自選10句『会話』

いや、選ぶほどの作品は世に残してないんだよなぁ…などと思いつつも、ヒマラヤさんに上手いこと唆されて、しかもここまでカッコよく仕上げてもらったら、悪い気はしないですよ(爆)。

まあ、せっかくやるなら、+αがあった方がいいんじゃないですか、という事で。

とりあえず、まとめてもらったこれを見てみるとしましょう。

雀の雛かなぁ…

いや、そこじゃないですね。
今日は俳句の話でした。。。

①左官屋の

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返り花

返り花

あの時もここに、桜が咲いていた。

私の家の近くには湖がある。湖畔に面した公園にはボート乗り場があり、土日は家族連れやカップルで賑わう人気スポットとなっている。いわゆるスワンボートという白鳥の形を模したものが特に人気で、行列が出来る事もしばしばであった。だが、私は独身だし、このボートを利用する機会はなく、興味もそれほど湧かなかった。むしろ、本物の白鳥を見る方がずっと好きだった。

本来白鳥といえば

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名句全集中鑑賞∶夜長の主砲編

名句全集中鑑賞∶夜長の主砲編

長き夜や「こゝろ」を閉じた手を洗う

常幸龍BCAD

「こゝろ」は小説である。それを閉じたのだから、その本を閉じたのだ。

選評にある通り、それを読み終えたのか、途中なのかは、読み手に委ねられている。しかし、どちらの読みでも、この句の素晴らしさか損なわれる事はない。

自分が言及したいのは、閉じた本が「こゝろ」だったのは、果たして偶然だろうか、という点だ。

作者は恐らく、色んな本を読んできたと

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一句一遊劇場 最終話 灼然たる生命篇

一句一遊劇場 最終話 灼然たる生命篇

俺は刑事として、数々の事件に挑んできた。その内容は多岐に渡り、詳細に覚えていないものも多いが、その中の一つの事例は、俺にとって生涯忘れ難いものとなった。

とある企業から内部告発があり、新しい商品開発に違法薬物を使用しているという情報が入った。自生している植物を集めて、成分を抽出しているらしいのだが、その原料となる植物はその企業が直接手配しているのではなく、元締めとなる人物が横流しをしているらしい

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一句一遊劇場 二十二の夏色篇

一句一遊劇場 二十二の夏色篇

まだ幼い頃、絵を描くのが好きだった私に、母は24色入りのクーピーを買ってくれた。3つ上の兄がサッカー好きだった事もあって、サッカーボールの絵ばかりを描いていたそうだ。しかしそのせいで、私のクーピーは白と黒ばかりが減ってしまい、実質22色入りみたいだったと、母はよく笑っていたものである。

当時の事を思い返し、母は趣味の俳句を使って、こんな句を詠んでいる。

『モノクロや二十二色を足して夏』

私の

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一句一遊劇場 饗しの平鰤篇

一句一遊劇場 饗しの平鰤篇

あの日は、取引先の社長から昼食のお誘いを受け、入った事もない高級な割烹料理店に来ていた。取引先とは言ったが、会社同士の関係ではなくて、ちょっと訳アリというか、会社という傘こそあるものの、個人と個人の契約というか、まあ、あまり人には言わない方が良い類いの関係である。

俺は馬鹿だから、難しい事はよく分からないのだが、我が家の裏手にあるものが、先方の会社にとって貴重な資源らしく、少量でも信じられない

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一句一遊劇場 運命のミサンガ篇

一句一遊劇場 運命のミサンガ篇

『逆境のシュート炎帝穿ち抜く』

娘は、どうだと言わんばかりに一句詠んでみせた。私はそれを、ノートに書き留める。

「ねえ、お母さん、どう?これ、なかなかじゃない?」

「そうね、良いと思うわ。」

終盤に差し掛かっていたサッカーの試合は、息子のシュートで同点に追いつき、俄に盛り上がりを見せたところだ。

息子の対外試合がある日は、3つ下の娘を連れて応援しに行くことにしている。娘はお兄ちゃんの一番

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一句一遊劇場 哀傷のやませ篇

一句一遊劇場 哀傷のやませ篇

我が家は貧乏である。しかし、貧乏には貧乏なりの、幸福がある。

例えば我が家では、家の裏手で筍が採れる。その筍を使った炊き込みご飯は、何よりのご馳走なのだ。今夜も母はその仕込みに追われている。

父はどの仕事にも馴染めず、職を転々としてきたが、家計の足しになればと、数年前に家のそばで家庭菜園のようなものを始めた。その裏手に竹林があり、筍は今年もたくさん採れたのだが、家庭菜園の方はめっぽう不作であっ

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一句一遊劇場 戦慄の筍飯篇

一句一遊劇場 戦慄の筍飯篇

この街は、まだ寒い。ぽつぽつと灯が灯って、どの家もそろそろ夕食の時間だ。

俺は新米の刑事。まだまだ独り立ちとはいかないので、先輩について回っている。

どの家庭にも、それぞれの幸せがある。このドアの向こうにも、恐らく一家団欒の光景があるだろう。しかし、今回のターゲットはこのドアの向こうにいる。彼らは、往々にして日常に溶け込むように潜んでいるのだ。

心強い先輩がいるからといって、安全が確約される

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句養物語リプライズ『蝶』

句養物語リプライズ『蝶』

俺は、自由気ままに生きてきた。それは孤独を愛する故であると思うが、同時に器用な男でもあると思う。この世がどんなに生き辛くても、工夫次第で上手く乗り切っていくスキルがあると自負している。

元々は、自分の内に秘めた才能に任せて生きるタイプだったのだが、世間というものは、常に飽きっぽいものである。一世を風靡したトレンドですら、瞬く間に廃れていくのが世の常というものだ。

『Swallowtail Bu

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句養物語リプライズ『詩』

句養物語リプライズ『詩』

君は迷ってなんかいない

迷ってなんかないよ

星が笑いかけるように

迷いの霧を抜けよう

星は笑っているんだよ

君の言葉を照らしたいから

君が選んだ答えは

きっと誰かの心に灯る

深海の果てへ行こう

星の真ん中を灯すため

この星が光れば

あの星も光り輝く

君は迷ってなんかない

迷ってなんかないよ

さあ何か話してごらん

存えて

存えて

ナガラエテ

シトミチワカツコトナカ

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