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月のラジオ放送局

地球の皆さん、こんばんは。 満月の夜、うっかり気付いてしまった人だけが傍受できちゃう、知る人ぞ知る月のラジオ放送局、今夜もこっそり開局しております。 さて、もはや恒例となりましたこの企画、月面お悩み相談局。リスナーのお便りをご紹介しましょう。 今夜は日本の方ですね。匿名希望となっています。早速読んでみましょう。 「みんなー!もっとボクを労ってよー!なんだかんだでボクが一番頑張ってるのにー!」 ははは、冒頭からアツいですねぇ。この後長々と愚痴が書いてあるので、ちょっと

    • 夏の鴨

      この公園の中央には、円形に広がる大きな池があり、その周りには12、3ほどのベンチが配されている。昨今のベンチは、真ん中に仕切りがあって、寝転がるような使い方はできない。即ちベンチ一つの定員は2名となるから、私のような独り者が座ると、1人分余らせてしまう事になる。だが、私も好きで独りになったわけではない。大きな溜息を吐きながら、私はそのベンチへ身を放り投げるようにして腰掛けた。 世の中の独り者は、恋人との別れをどのようにして乗り越えているのだろうか。私が今日経験した別れは、人

      • 仁義なき冬麗戦 第二幕

        あの激戦から一夜が明けた。 俺は昨日と全く同じ道筋を、昨日とは全く異なる心持ちで歩いていく。大きな都市公園の側にある集合場所へ向かう途中、昨日はたくさんの野鳥が目についた。しかし、今朝は違う。 俺の両目に備えられたバードスカウターは、その対象をたった一種類のみに絞っていた。 そう、俺は今、カラスのみを探しているのだ。当たり前だが、カラスは大抵の場所で簡単に見られる鳥だ。道中、遠く近くにその声や姿は多く散見された。しかし、違う。俺のスカウターは、どのカラスにも反応しない。

        • 仁義なき冬麗戦 第一幕

          俺の仕事は、警備員だ。 一口に警備員と言っても色々あるが、大雑把に言えば、屋内と屋外に分けられる。俺はといえば、専ら屋外の方だ。寒いとか暑いとか、身体の負担の事を心配される事も多い仕事だが、本人は至って平然とこなしている。こなしているどころか、むしろ全力で楽しんでいると言って良いだろう。何故なら、この仕事をしながらにして、スキマ時間に堂々と趣味に耽る事ができるからだ。しかも自分は多趣味な人間なので、二つの趣味を同時に楽しむ術を持っているのだ。 一つ目は、俳句だ。昨今、俳

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          祝☆岩波俳句 親子三人同時入賞記念

          どないなっとんねーん! いやね、今年一年振り返ってみますとですね、どうしても『お〜いお茶』の初入賞が燦然と輝いているわけなんですが。 本当のビッグニュースは、その後にやって来たわけです。それではご覧あれ! すすすす澄子さまぁぁぁ!! すみません、取り乱しました(汗)。 岩波は載るだけでラッキーなのに、まさか親子三人が同刊に同時に掲載されるとは… 奇跡としか言いようがない。 というか、こんな事は二度と起きないので、こうして形にしておく事にしませう。 ①ひぐらしや老

          祝☆岩波俳句 親子三人同時入賞記念

          恵勇2023年自選10句『会話』

          いや、選ぶほどの作品は世に残してないんだよなぁ…などと思いつつも、ヒマラヤさんに上手いこと唆されて、しかもここまでカッコよく仕上げてもらったら、悪い気はしないですよ(爆)。 まあ、せっかくやるなら、+αがあった方がいいんじゃないですか、という事で。 とりあえず、まとめてもらったこれを見てみるとしましょう。 雀の雛かなぁ… いや、そこじゃないですね。 今日は俳句の話でした。。。 ①左官屋の蛇めく手首二月尽 お〜いお茶新俳句大賞 佳作特別賞 はい、これは専門職ですね

          恵勇2023年自選10句『会話』

          返り花

          あの時もここに、桜が咲いていた。 私の家の近くには湖がある。湖畔に面した公園にはボート乗り場があり、土日は家族連れやカップルで賑わう人気スポットとなっている。いわゆるスワンボートという白鳥の形を模したものが特に人気で、行列が出来る事もしばしばであった。だが、私は独身だし、このボートを利用する機会はなく、興味もそれほど湧かなかった。むしろ、本物の白鳥を見る方がずっと好きだった。 本来白鳥といえば、冬の鳥である。しかしこの湖にいる白鳥は人間に馴れていて、渡りをせずに、ずっとこ

          返り花

          名句全集中鑑賞∶夜長の主砲編

          長き夜や「こゝろ」を閉じた手を洗う 常幸龍BCAD 「こゝろ」は小説である。それを閉じたのだから、その本を閉じたのだ。 選評にある通り、それを読み終えたのか、途中なのかは、読み手に委ねられている。しかし、どちらの読みでも、この句の素晴らしさか損なわれる事はない。 自分が言及したいのは、閉じた本が「こゝろ」だったのは、果たして偶然だろうか、という点だ。 作者は恐らく、色んな本を読んできたと推察する。もしかしたら、秋の夜長を共に過ごした本の数は、膨大なものになるかもしれ

          名句全集中鑑賞∶夜長の主砲編

          一句一遊劇場 最終話 灼然たる生命篇

          俺は刑事として、数々の事件に挑んできた。その内容は多岐に渡り、詳細に覚えていないものも多いが、その中の一つの事例は、俺にとって生涯忘れ難いものとなった。 とある企業から内部告発があり、新しい商品開発に違法薬物を使用しているという情報が入った。自生している植物を集めて、成分を抽出しているらしいのだが、その原料となる植物はその企業が直接手配しているのではなく、元締めとなる人物が横流しをしているらしいという疑いがあった。 違法薬物を扱う事例で最も危険なのは、ターゲット自身が薬物

          一句一遊劇場 最終話 灼然たる生命篇

          一句一遊劇場 二十二の夏色篇

          まだ幼い頃、絵を描くのが好きだった私に、母は24色入りのクーピーを買ってくれた。3つ上の兄がサッカー好きだった事もあって、サッカーボールの絵ばかりを描いていたそうだ。しかしそのせいで、私のクーピーは白と黒ばかりが減ってしまい、実質22色入りみたいだったと、母はよく笑っていたものである。 当時の事を思い返し、母は趣味の俳句を使って、こんな句を詠んでいる。 『モノクロや二十二色を足して夏』 私の眼に色盲の症状が出てきたのは、恐らく絵を描き始めた頃だったと思う。色彩の感覚が明

          一句一遊劇場 二十二の夏色篇

          一句一遊劇場 饗しの平鰤篇

          あの日は、取引先の社長から昼食のお誘いを受け、入った事もない高級な割烹料理店に来ていた。取引先とは言ったが、会社同士の関係ではなくて、ちょっと訳アリというか、会社という傘こそあるものの、個人と個人の契約というか、まあ、あまり人には言わない方が良い類いの関係である。 俺は馬鹿だから、難しい事はよく分からないのだが、我が家の裏手にあるものが、先方の会社にとって貴重な資源らしく、少量でも信じられない高値で引き取ってくれるのだ。それはこの会社にとって、よほど価値のあるものなのだろ

          一句一遊劇場 饗しの平鰤篇

          一句一遊劇場 運命のミサンガ篇

          『逆境のシュート炎帝穿ち抜く』 娘は、どうだと言わんばかりに一句詠んでみせた。私はそれを、ノートに書き留める。 「ねえ、お母さん、どう?これ、なかなかじゃない?」 「そうね、良いと思うわ。」 終盤に差し掛かっていたサッカーの試合は、息子のシュートで同点に追いつき、俄に盛り上がりを見せたところだ。 息子の対外試合がある日は、3つ下の娘を連れて応援しに行くことにしている。娘はお兄ちゃんの一番のファンを自認していて、私が教えた俳句を使って、まるで日記のように思いを紡いでい

          一句一遊劇場 運命のミサンガ篇

          一句一遊劇場 哀傷のやませ篇

          我が家は貧乏である。しかし、貧乏には貧乏なりの、幸福がある。 例えば我が家では、家の裏手で筍が採れる。その筍を使った炊き込みご飯は、何よりのご馳走なのだ。今夜も母はその仕込みに追われている。 父はどの仕事にも馴染めず、職を転々としてきたが、家計の足しになればと、数年前に家のそばで家庭菜園のようなものを始めた。その裏手に竹林があり、筍は今年もたくさん採れたのだが、家庭菜園の方はめっぽう不作であった。 筍のアク抜きをしながら、母はいつもと同じ事を呟く。 「お父さんったら、

          一句一遊劇場 哀傷のやませ篇

          一句一遊劇場 戦慄の筍飯篇

          この街は、まだ寒い。ぽつぽつと灯が灯って、どの家もそろそろ夕食の時間だ。 俺は新米の刑事。まだまだ独り立ちとはいかないので、先輩について回っている。 どの家庭にも、それぞれの幸せがある。このドアの向こうにも、恐らく一家団欒の光景があるだろう。しかし、今回のターゲットはこのドアの向こうにいる。彼らは、往々にして日常に溶け込むように潜んでいるのだ。 心強い先輩がいるからといって、安全が確約されるわけではない。むしろ、死と隣り合わせと言ってもいいくらいだ。彼らの手の届く範囲に

          一句一遊劇場 戦慄の筍飯篇

          句養物語リプライズ『蝶』

          俺は、自由気ままに生きてきた。それは孤独を愛する故であると思うが、同時に器用な男でもあると思う。この世がどんなに生き辛くても、工夫次第で上手く乗り切っていくスキルがあると自負している。 元々は、自分の内に秘めた才能に任せて生きるタイプだったのだが、世間というものは、常に飽きっぽいものである。一世を風靡したトレンドですら、瞬く間に廃れていくのが世の常というものだ。 『Swallowtail Butterfly』という音楽ユニットを立ち上げ、アルバムまで発売したのが、遠い過去

          句養物語リプライズ『蝶』

          句養物語リプライズ『詩』

          君は迷ってなんかいない 迷ってなんかないよ 星が笑いかけるように 迷いの霧を抜けよう 星は笑っているんだよ 君の言葉を照らしたいから 君が選んだ答えは きっと誰かの心に灯る 深海の果てへ行こう 星の真ん中を灯すため この星が光れば あの星も光り輝く 君は迷ってなんかない 迷ってなんかないよ さあ何か話してごらん 存えて 存えて ナガラエテ シトミチワカツコトナカレ 『星月夜迷路の果のここにいて』 (ヒマラヤで平謝り) そんなに探そうと

          句養物語リプライズ『詩』