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恵勇2023年自選10句『会話』

いや、選ぶほどの作品は世に残してないんだよなぁ…などと思いつつも、ヒマラヤさんに上手いこと唆されて、しかもここまでカッコよく仕上げてもらったら、悪い気はしないですよ(爆)。

まあ、せっかくやるなら、+αがあった方がいいんじゃないですか、という事で。

とりあえず、まとめてもらったこれを見てみるとしましょう。


雀の雛かなぁ…

いや、そこじゃないですね。
今日は俳句の話でした。。。




①左官屋の蛇めく手首二月尽

お〜いお茶新俳句大賞 佳作特別賞

はい、これは専門職ですね。知らない人は検索してみましょう。たぶん想像と違う人が出てきますよ。左官なんて、字面はなんか昔の貴族みたいじゃないですか。貴族の手首が蛇だったら、笑ってしまいますな。いや、実は工事に関係してて、これはいわゆる「小手返し」の事なんですが、何ですかね。新築の家でも建ててるんでしょうか。



②内見の話題は仔猫一辺倒

猫俳句大賞 佳作

ははーん、なるほど。新築の物件を狙っているわけですな。ペットOKのね。生まれたばかりの仔猫の話とかしてね。いや、むしろそれしか話してないんですけどね。これから始まる新生活に、胸が高鳴りますな。



③猫の子や孤独と絶望は違う

NHK俳句 高柳克弘選 佳作

いや、そりゃあ違うんじゃないですか。全然違うでしょう。眼の前のニャンコがそれを物語っているわけです。せっかくの新生活なんだから、もっとハッピーな事を考えたらいいのに。幸せが逃げますよ。




④悲しみは単騎で来ない缶ビール

句具ネプリ夏至 掲載

そうは言ってもね。人生は悲しすぎて、ビールでも飲まなきゃやってられない時もあるのですよ。どうせ来るなら、もう少し小分けにしなさいっての。それで、愛しのニャンコは一体どこへ行ってしまったのよ。ちょっと目を離した隙に、すぐいなくなるんだから。もう夏ですよ。ビールが苦いですな。



⑤蜩や戦ぎたがつてゐる献花

俳句生活 人選

そういえばいつからか、あの交差点に花が供えてあるんです。誰かが亡くなったのでしょうか。身体の半分以上を瓶に挿された花は、全身を風に預ける事ができないから、ひぐらしの声はそれを代弁するかのように、献花に天を開いているのです。



⑥標本に微かな浮力後の月

俳句生活 人選

昆虫標本って、生きているように作ってあるから綺麗なんですよね。刺して固定してあるとはいえ、もしかしたらそのまま飛ぶんじゃないかという生のリアリティが、あの空っぽの身体には閉じ込められているような気がします。もしかして、月の魔力だったりして。死んだはずの身体に魂が戻って来て、少しだけ本当に浮いてるのかも。



⑦美しき会話落葉に落葉降る

NHK俳句 村上鞆彦選 佳作

落葉っていうのは、役目を終えた葉の事ですが、ここでちょっと注目して欲しいのは、「落ちている葉」であり「落ちていく葉」であると言う事なんですよ。先行して落ちてる葉に続いて、次の葉が落ちて行くんですが、それを続けていくと、両者が地面で接触するんです。その時に、あの音がするわけです。あれですよ、あれ。カサッていう。あれは、会話なんです。落葉って、葉における死じゃないんですよ。あれは余生だと思います。余生のお喋りは、円熟した可笑しみもあるわけで、それはそれは美しい会話なのです。



⑧洞にまだ神のぬくもり鳩吹けり

一句一遊 金曜

なんかその落葉も、洞に吹き込んで中で腐ったりしてるんですよ。そのせいか、なんかあったかいというか。誰かここで寝てましたか…っていうくらい。誰かの魂がまだ、どっかその辺にいるのかも。鳩の真似でもして、ちょっと呼んでみましょうか。



⑨裸木のそうして鳥を待つ仕草

一句一遊劇場 劇中句

ついに落とす葉がなくなってしまいました。おかげで鳥が止まりやすくなりましたね。この物件は良いですよ。内見の話題が逸れても構いませんから、そろそろ戻ってきませんか?



⑩返り花スワンボートの羽に傷

一句一遊虎の巻 銀曜日


かえり花には、帰ると返るの二種類あるんですよね。本来あるべき所に帰るから、本当は帰るが正しいみたいですけど、自分は返る派なんです。初めて返り花を見た日は、祖母の訃報を受けた日だったので、もしかしてやり残した事があるのかな…などと思ったものです。季節外れの開花には、相当なパワーがいるでしょうから。例えて言うなら、もう一度産声を上げるくらいの…。だって、「生き返る」の「返る」でしょう。きっとどんな魂にも、やり残した事あるんです。現世まで届かない声の代わりに、返り花は咲くのです。


返り花たましひが又啼きたがる
恵勇



恵勇2023年自選10句『会話』

【了】


構成、俳句 … 恵勇

画像編集 … ㈱ヒマラヤプリント
aka ヒマラヤで平謝り


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