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ものがたり

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「統べて認める/られる」小池舞

「統べて認める/られる」小池舞

書かなければいけないものほど書けない。
書くためにコーヒーを淹れ、焼き菓子を用意した。
思考はビタ1mmも働いてくれやしない。
逃げ道としての煙草を吸っていればよかったと思う。

判を押したような日々の繰り返しが嫌になって、映画館に逃げていた。
田舎のイオンシネマは空いている。
日中か、夜の変わった時間に行くと、2,3席しか埋まっていない。
世界一美味しいポテトフライが売っていたから、さみしさを紛

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再生

再生

ぼくらの病気は蔓延している
森は呼吸をやめない
隆起した丘に影が差そうとも
綿毛が散る
ささくれだった夢について
ぼくらの病気は蔓延している
美しさをやめない
不揃いになったコマ送りの
嘘を想う日夜
走り書いた水溜まりのこと

なにもないよ ほんとのはなし
逆さまになった休日
一等よい迷彩の隙間
沈みこむ融けるよに
張り巡らされているのはネットワークだけではない
どうか不遇をかこつことなかれ
汚れ

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肖像

肖像

柔軟な衝立があって
甘噛みしている野生に包帯を巻く

言葉

知性だけ 蒸留される
迎えに来て

付箋だらけの英和辞典
爪に釘を刺すように



数珠は天然石
輝きを増す

干渉を許す
冷たい美術
土嚢でできた
秋の祭典

話者ではない
共通言語ではない

膝の上
世界で一番美しくなりたい

狂いそうに狂っている
折り重ねられた 灰
灰と束ねられた髪
切り取り
畳み
浸けられる

唇はいらな

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綴じる

綴じる

雨でも降ってくれたらいいのに
あい、を探す
私とそれ以外 あい

トー横はひとりぼっちで溢れかえっているらしい
優しい人から死んでいくから
友達と呼べないのは ひとりを選びたくないから

クリーニングに出している上着を受け取りにいかなくちゃ
たばことコーヒーの染み
ぜんぶ漂白されて ね

隠したいから服を選ぶ
ここ から ここ まで 着たい
眼鏡でもいいよ ね

兄に会いたい
たったひとり産み落と

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その暮らしだけが確か

その暮らしだけが確か

カーテンの向こう側に見える
鹿の親子が遠くから見ている

視界はクリアで
どこかで行われている反抗と無縁

素直になれる気がしていた
朝露で濡れた草花
カリカリに焼かれたベーコン

お揃いの枕並べて眠ろう
目が覚めなくてもいいよ

これは愛だ
なんて言えないよ 顔が紅潮する
手と心臓が繋がったみたいです

左右が揃ってない靴下とか
角に溜まったほこりとか
面倒な話し合いはまたどうか

迷子になって

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ラッカー(いろ)

ラッカー(いろ)

人はたいていちたいをさらしているし、
なにゆえにナップサックの紐を調整してみたり
終電前の火災はこだまだし
羽の生えたみずいろは泳いでいるし
しっちょうしてるからぶんれつしてるから
雨天りょうようで持ち直すし
ヘップバーンを身勝手と言うにはまだあおいとおもうよ

フィルムを装填するとき銃口を突き付けるような心理になる
ホッピーを教えてくれたとき 始まって終わった
始まってなかったから終わった
両手

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Q

Q

どうしようもない大人の携帯は割れているし
イベントが始まる度に終わりを憂いている心と頭が離れていって
変わらない後ろ姿を探しているし、変わらないから、悲しいと思う
体が沈んでってここは海だから目が滲んでいても自然ですってそれはもう撹拌されたあとの話です

ヒッチハイクのひとつでも経験してれば得られた勇気を信じたくはないし、中指を立てるほうが勇気がいるんだって思う
眠っていることと起きていることの差

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果てて、息

果てて、息

彼女がため息をついたのは、私が全てを吐き出しきった後だった。
「大体わかった。で、どうするの?」
ハツはいつでも合理的だ。でも私が欲しいのは解決策ではなく、上っ面でいいから寄り添いの言葉なんだ。せめて、ハツ自身の評価がほしい。
「いや別に、反対しない。でもさ、今後のことを思うとね。」
副流煙で充満した空気が肺を出入りすると、自分がそのまま煙になってしまいそうになる。ハツはやたら細長いそれを愛用して

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バグ おこしつ

バグ おこしつ


僕がここにいるのにどれほどの意味があ

残寒 満ち

あいつ
なんて遊び やめ
よう

お前なにしてる
煙草 墓 朽ち

僕がここにいるのにどれほどの意味があ

鱗屑 落ち

酔狂はやめにしつ
席を立たないでください
事故防止のた



ある
様子

ある
様式は美しつ

迫りつ来る 来る くる き

この文字列にどれほどの意味が

ない
様子

ない

なかった

そこには誰も

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忌みの街

忌みの街

早朝はやけに涼しい
煙のまち
日の当たらないところ

公園が取り壊しになる
老朽化が進んだ遊具と錆びたフェンス
団地の3番公園
あいつの家 電線 木 俺の家
スーパーのゲームセンターで遊んだ機体
あいつ 新居に置く夢もう叶えたか

夕日と小雨の粒とひかり あとペトリコール
バスを逃すと次は30分後
走る、靴が濡れることを構わず
道はところどころ税金でパッチワークされてでこぼこしている
あいつの親の

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反魂

反魂

昨日の快晴が嘘みたい
眺めているだけで参加できない夢めとあなたは言った
搾取されては余ったものをうまいうまいという
ハンバーガーかハンバーグかの違い

ほんとに?ほんとうに?ほんとーに?
ほーーんとに?

朝目が覚める 窓を開けても見慣れない風景が流れる
はやい たかい
人は鏡と教えられた人だけが見える

食べたグリーンカレーが美味しかった
小さなじゃがいもが柔らかかった
辛くて鼻水が止まらないや

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黎明謄

黎明謄

あらぬ場所に私はいる。

そこは井戸の中かも知れないし、とんかちで叩かれた頭の中かも知れないし、からくり人形の中かもしれない。

鼠取りに一部を取られたから、四肢の残りを以て動く。

葬儀場からは狼煙が上がって、嫌に咽ぶものだ。

「向こう岸」と記された立て板は墨が滲み、経年の劣化が著しい。

「ここ、ここに居るんだ。」

喉元を響かせる老人の声が頭上から降ってくる。

何か用か、と言い掛けて止め

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