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給与倍増と心地よさ。気弱な30代女性が役員に。その「穏やかな幸せのつかみ方」by転職定着マイスター川野智己

 「毎日楽しく過ごせて、多少なりともお給料も多めにもらえる。望みはそれだけでした。ガツガツと野心溢れる言動は自分には出来ないし。あざといと思われるのが怖かったんです。自分に出来ることを粛々と地道にやってきただけです。」

 10数年ぶりに再会した彼女は、とても大手商社傘下の従業員80名の子会社の役員を任せられているとは思えないほど、謙虚で朴訥(ぼくとつ)とした地味な風貌であった。
 

 今回は、「成功体験を話ししてほしい」という私の願いに、謙遜して何度も首を振る彼女を説き伏せた。
 結局は、彼女曰く「出世の方法というノウハウものではなく、(最終的にはお金と名誉を得ることにつながるのかも知れないが)自分も含めて気持ち良く働け、自分も成長し認められる立ち居振る舞い、という観点なら。」との前提でお話いただくことになった。某商社の子会社(製糖会社)の新任常務の立花沙里(たちばなさり:37歳)、彼女の体験談として。

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 こんにちは。
 偉そうに皆さんにお話しできることは無いのですが、こんな私のことでも、若手や中堅の方々にご参考になることがあればと思いお話することにしました。但し、前提として、私の力だけではなく、周囲の方々のご理解等ご協力があったからである点を、最初に申し述べておきます。


1 自分を好きになれない


「愛情の反対語は、怒りではなく、無視だ。」
 これは、貧困や病に苦しむ人々の救済に生涯をささげたマザー・テレサの言葉だそうです。

 勤務先で、毎日働いて一定の収入もある、家に帰れば家族に囲まれている。そんな周囲の社員の方々も、じつは心の中は満たされていないのではないかと思っています。何故ならば、この私がそうだったからです。

 誰からも相手されない私でした。

 大学を卒業して商社に入社した私でしたが、真面目だけが取り柄に過ぎず、ガツガツ前に出て主張する同期の仲間に臆してしまい、絶えず後ろに隠れている存在でした。

 風の吹く吹き溜まりにゴミが集まるように、陰に隠れていると心地よいというか、安心できるというか。唯一、目立たないポジションが自分の唯一の居場所と感じていました。

 その一方で、こんなのんびり屋の私でも、「変わりたい」「環境を変えたい」と思うようになりました。「周囲の環境が変われば、新たな自分が生まれるのではないか」という、今から考えれば、甘えと言うか、他責と言うか。自立できていない。それが私でした。

 社内公募「グループ企業FA制度」に応募したのは、入社後4年目のことです。新たな活躍を希望する社員が、子会社に転籍して環境を変える制度です。
 お菓子の原材料である砂糖を精製し販売する製糖会社に転籍しました。深い理由はありません。敢えて言えば、お菓子作りが好きだったという、なんとも子供じみた理由からだったと記憶しています。もっとも、応募の際には、もっともらしい理由をつけておきましたが。



2 相手を承認し、その承認の事実を相手に伝える


 転籍後に入社した製糖会社。その直後に、挨拶をしても同僚から返答がなかったときがありました。
 無視をされるとは、本当につらいことです。


 私はその同僚の行動を気に病み、「私が何か気に障ることをしてしまったのか」と一日中仕事が手につかない日が続きました。
 実際は、私の挨拶に、ただ単に相手が気づかなかっただけだったのかとは思います。しかし、当時は本当に重大ごととして悩みました。
 
 逆に、何故私は気に病んでしまったのか自己分析してみたんです。
 それは、集団の中で自分の居場所が無くなっているのではないかという恐怖がそうさせた、と気づきました。

 一説によると、人間は太古の時代からの野生のDNA(ここでは潜在的な素養のこと)が残っていると言われています。食料確保や生殖の為に他の群れを排除する慣習は、現代では「よそ者扱い・排他主義」「変化の拒絶」という行いとして残っているというのです。

 同様に、古代では、同じ群れの中でも「役に立たない存在」と思われると群れから排除させるというのです。食料を求めた移動時に足手まといになるし、狩猟という生産性に寄与しないからです。老いた雄ライオンは群れから追い出され、東北や信州の寒村では昔は姨捨山(おばすてやま)といって口減らしに老人を山に捨てる風習があったそうです。

 そんなわけで、組織の中で、自分の居場所や存在を認められないということへの恐怖は、私たちの身体の中に深く刻みつけられているのかと思います。
 ゆえに、私たち人類は、組織の中で声高に、いかに自分は有能なのか、貢献しているのか、叫び続けているのではないかと思います。


 
 だから、「挨拶は、しっかり行いましょう」という、子供じみた結論で締めくくるつもりはありません。でも、すべてに通じることかもしれないと感じたのです。

 会議でも、自分だけ話を振られない。
 自分のアイデアを頭ごなしに否定される。
 イベントに自分だけ声がかからない。
 目的も知らされずに、作業だけ命じられる。
 意味も無く打ち合わせから自分だけ外されている。
 自分だけ(情報を)聞かされていない。

 これって、ある1週間の間に、私が職場で「悲しい」と思ったことの列挙です。
 「自分はこの職場に不要な人間なのでは」と、ありもしないことが頭を駆け巡ってしまいました。


 そこで、私自身が、リーダー役を任されたときに、他にこんな思いをされている方は居ないか、通勤途中の電車の中で毎日10分間だけ想いを巡らすことにしました。
 「あの人は、もしかしたら勘違いしてるかもしれない」「あの人は、寂しい思いをしているかもしれない」と感じたら、朝の挨拶の際に、ご本人に一言添えることにしました。

 「おはようございます。昨日の○○の書類、とても分かりやすくて助かりました。」
「おはようございます。昨日は何時まで勤務されたのですか。期限はまだ先ですので、無理されないでくださいね。」

 私も、生来の口下手なので、ハイヒールで闊歩するようなキャリアの方々のように、上手なお話はできません。いきなり、相手に声をかけることすら遠慮してしまいます。
「いま、話かけると邪魔じゃないか。」「何事かと驚くのではないか」と、余計なことを考えてしまうのです。

 朝の挨拶なら、話かけても当然だし、相手も警戒心が無いかなと思いまして、そうすることにしました。きっと、さぞかし、たどたどしく聞こえたことでしょう。
 朝の声掛けで、相手も私も気分よく一日が仕事が始められる。


 これって、毎日のことなので重要なことかなと自分では思っています。
 自分の子供にも、朝は極力小言を言わないで「いってらっしゃい。」と優しく声掛けして送り出すようにしています。。。


3 相手に軸足を置いた会話を心がける


 部下や同僚と仲良く会話することは大切なこととは知っています。
 でも、何を話せばよいのか自分でもわからなくて。
 私も、昔から「変わった子。不思議ちゃん。」と言われていて、相手を苛立たせることが何度もありました。

 アナウンサーが主宰する話し方教室にも通って、腹式呼吸を学びましたが、そういう問題ではなかったようです。中身の話だったようです。

 緊張すると喉に蓋をされるように言葉が出なくなるのです。
 最初は「気楽に。気楽に。」と自分に言い聞かせてきましたが、どうやら、その緊張は「何を話せばよいのか」という不安から来ることに気づきました。

 そんな私に転機がありました。
 ある日、他部署の社員の旅行記が社内報に載っていました。
 面識のない社員でしたが、その後の社内横断のプロジェクトでご一緒することになり、その記事の話をすると、飛び上がらんばかりに喜ばれ、一気にお互いの距離が縮まったのです。

 あとで、ご本人に聞いたところ、「記事の話で盛り上がったこと自体よりも、自分のことを覚えていてくれたことが嬉しかった。自分は尊重されていると感じた。また、自分の為にわざわざ話題を提供してくれた配慮に嬉しかった。」とのことでした。

 それからは、新聞やテレビのニュースに触れるにつけ、「この話を○○さんに投げかけたらどんな楽しい反応が返ってくるかな。」と書き留めるようになりました。

 また、通勤時や顧客訪問時には、社内の中刷り広告、最寄りの駅の街頭販売の様子や路傍に咲いている花の種類、商店街のイベントの計画、ショーウインドウのスイーツの新作、虫の音色の変化、渡る河川の水量に至るまで、全てが会話のきっかけとして書き留めるようになりました。

そうすると、毎日が楽しくなりました。
今日は、どんなふうに相手が反応してくれるのかと思うと。

 ネタを仕込んでいると言われると、あざといと思われてしまうかもしれませんが、会話における自分の緊張緩和のためだと思い、続けることにしました。
 そして、何よりも嬉しいのは、こんな拙(つたな)い私の会話でも、一所懸命相手してくれる周囲の方々が増えてきたことです。

 きっと、「ああ、立花がまた我々に気を使っているな。しょうがないな。」と、娘を見るような温かい目で見てくださっていると感じます。
 だって、親子ほど違うおじさまが私の部下なのです。私なんて、なにも知らない小娘のくせに。
 半分呆れておられるのかもしれません(笑)。


4 自分にできること。それは。。。


 私が、なにか行(おこな)ったとすれば、こんなことしかありません。
 私は、高学歴でもないし、専門性もありません。
 他の総合職の女性の皆さんと違い、社外交流会にも参加したことも、難関の資格を取得したこともありません。英会話もできません。人前でプレゼンだなんてとんでもない!だから、商社では無視された存在でした。
 本当は、社内営業よろしく、自己アピールしたほうがよかったのかもしれませんが、生来の奥手、引っ込み思案ですので、そんな度胸もありませんでした。
 
 自分の強みは何か、ですか?
 特にございません。
 なにか、アカデミックな凄い話が出来れば良いのかもしれませんが。
 敢えて申し上げると、周囲の方々が気持ちよく働ける環境に配慮することでしょうか。 だって、自分が日々の現場で何かできるわけではありませんので。
 
 役員だなんてポストは、いざという時に社員の代わりに責任を取るために居る。と、私は思っていますので。

5 彼女は、何故認められたのか


 以上が、立花の話だ。
 新卒で入社した商社には、彼女の居場所は無かった。
 この力で勝負する世界では、組織で成果を引き出そうと尽力することは、往々にして周囲の理解を得られないことが多い。
 社内の同僚であってもライバルなのだから。

 私川野も、ある総合商社の世界に身を置いた際に、驚くことが多々あった。社内で重複する事業があり、それぞれが顧客を取り合っているのだ。
 競合先に勝つ前に、まずは、社内のつぶし合いに勝たなければならない。
 聞くと、「それが、社内の活性化につながっている」と言うのだ。

 現に、その競合する事業である他部署から、私は引き抜きの誘いを受けたことが数回あった。「お前の所属している部署を辞めて我が部署に来い。厚遇で処遇する。ポジションを用意する。あなたの組織はどうなる?あなたに裏切られた上司はどうする?放っておけ。社内競争にすら勝てない人間は、この会社にいる価値すらない」と。

 そう思うと、立花のような遠慮がちな社員がいる居場所は、商社には無かったのだ。
 むしろ、子会社である製糖会社の風土が、彼女のような存在を求めていた。

 製造会社(メーカー)は、組織で成果を挙げる。工場など典型的な例だ。
 設計や製造、開発など専門性ある社員を<束ねる存在が必要だった。
 プレーヤーではなく。

 社員にとって、安心して働ける環境を作ることが出来る存在。それが立花だった。


                               以 上


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