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秘話。採用テストの実態。採用テスト開発社員の独り言。By転職定着マイスター川野智己

「彼を採用したいのですが、オタクの採用テストの点数が悪くて、社長に推薦できないんですよ。なんとか、点数に下駄を履かせてくれませんかね。」
クライアント企業からの依頼だった。
彼らの依頼する「下駄を履かせてくれ」とは、「内緒で、点数のかさあげをしてくれ。良い点数に改ざんしてくれ。」という意味である。

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私川野は、かつて大手の採用テストの会社に勤務し、その開発や営業に従事していたことは、「裏話。誰も知らない多面評価(360度評価)の使われ方にてお話したとおりだ。

1 採用テスト業界の実態

採用テストを導入してくれているクライアント企業とは、元来身勝手なもので、「採用したくない求職者の、採用テストが高得点だとかえって困る。」、逆に、冒頭のセリフのように「採用したい求職者が低得点だと困る。」と言うのである。ようは、自分たちの採否の意向に合致したテスト結果を、都合よく求めているのだ。

むろん、改ざんに応じることはわが社ではしなかったが、中には応じる採用テスト業者もあると聞いたことがある。

この業界は、玉石混交の採用テスト業者が跋扈(ばっこ)している。
ご存じの某巨大採用テスト会社が、市場を徹底的に席巻する(市場を独占する)かというと、実はそんなことはない。
世間に、そのテスト対策が蔓延すればするほど、「学生や求職者が対策を練っているテストなど使いたくない」という企業が、必ず何割か現れるからだ。
そこに、他業者が食い込む市場の余地があるのだ。

そうは言っても、統計上の何の裏付けも無いテストを、「開発した」と称して販売しているテスト業者も少なからずいるのも事実だ。
特に、昨今では、「メンタル不全者を事前に炙り出す」と称したテストも現れている。自己診断の調査で、かつ限られた時間でそれを診断することは困難であるとの意見が、業界の一般的な見解であるにもかかわらず。売らんがために。
そして、改ざんに応じるテスト業者も。

2 採用テストとは

一般的に、採用テストは、被検者(学生や求職者)の潜在的な能力を測定する「能力テスト」と性格・気質・行動特性を診断する「性格テスト」に分かれる。

能力テストは、大量の応募者の足切りをする際に使われ、その大量発注が期待されることから、テスト会社としては“売れ筋”の商品である。なかでも、量販店(ディスカウントストアや家電量販店)、外食産業は、その大量採用に比例して、採用テストを大量に使用しているのが実態である。また、金融やマスコミなど、採用者数は多くないものの、膨大な応募者数の足切りが必要な企業にとっては、好都合なツールである。ゆえに、ここも採用テストの利用先になっている。

一方、性格テストは、ある程度選考が進んだ面接段階になって受検させる企業が一般的だ。数値で点数が良い悪いと出るものではないし、前述の能力テストと比較して単価も高額であることもその理由だ。
その性格テストの結果を手元に置き、面接を行うのだ。
テスト結果と、目の前の本人の印象とが相違するならば、「その相違点をつつく、検証する質問」をするためだ。その質問例も、ご丁寧に採用テスト会社から企業に提供されている。

3 採用テストに関する企業の本音

ところで、何故、企業はこの採用テスト(能力テスト、性格テスト)を利用するのか、皆さんはご存じだろうか。

「何故って、足切り作業の手間の軽減や、診断結果を採否の判断に活用するからでしょう!」と、お考えだろうか。
確かにその面はある。
しかしながら、本当の利用目的は、所詮は「人事部社員の言い訳づくり」にある。
巻末の参考記事驚き。採用面接官なんて相手せず。憧れの会社に潜り込む為の究極の付け焼刃。でも触れている。

“何故、この学生を、何故、この求職者を選考から落としたのか。何故、不採用にしたのか”との理由付けが欲しいのだ。

経営者や役員から問われたときに、当然、人事部社員は説明責任が発生する。
企業における説明とは、論理的かつ根拠が存在する倫理のことをいう。
「社長、僕がそう感じたからです。」「専務、僕の目を信じてください・。」と、説明したとしても、役員は歯牙にもかけないだろう。
「俺(社長)の目よりも、人を見る目があるとお前は自分で言うのか。」と言われて恥をかくだけだろう。

しかし、
「外部の専門機関が研究に研究を重ねたツールで判断されました。わが社の期待する点数に相応しい能力が無かったとの結論でした。」
とのたまい、開発した大学教授の名前でも出せば、それ以上役員は何も言ってこない。それは同時に、人事部の社員が、立派に説明責任を果たしたことになる。

その意味では、この論理展開は、学生や求職者への説明にも使えることになる。
「いやあ、わが社は君を高く評価していたんだが、外部の業者の採用テストの結果が低くてね。我々も残念に思っているんだ。え!何点だったのかって?それはね、採用テストの会社との守秘義務契約があり、ご本人にも開示できないんだよ。悪いね。」
と、すれば自社が悪者にならなくて済むことになる。
採用テスト会社を悪者にすれば良いことなのだ。
学生や求職者も「しかたない。自分の実力不足だったのだ。」と納得してくれるからだ。

この企業側にとって都合の良い論理展開を見れば、入社後における既存社員対象の管理職登用試験でも「管理者適性試験」が選考のツールとして、わざわざ噛ませられている(組み込まれている)のは何故かが理解できると思う。理屈は同じことなのだ。

4 採用テストとの向き合い方

最後に、学生や求職者の方々に向けて。

比較的対策がしやすい能力テストと比較して、性格テスト対は対策のしようがないのが事実である。
「私は、これまでに嘘をついたことが無い」
などの明らかに自分を虚飾する問いかけに、YESなどと回答でもしようものなら、「正直に回答していない」と診断されてしまう。
他にも、複雑に絡み合った問いかけを解(ほぐ)しながら回答を進めることはほぼ不可能だ。
であれば、診断された結果に対して、自分はどう向き合うのかという一点に集約される。例えば、企業から明るくリーダーシップのある人材が求められているなかで、本当の自分は、大人しく遠慮がちである。さあ、あなたは、採用面接でどう振舞うのか。

性格テストで診断された結果こそが自分の性格だから、それを受け入れて”本来の自分で勝負する“のか。どうせ、無理して入社しても、その後ボロがでるから、ミスマッチで苦しむのは自分だから。本来の自分自身を買ってくれる企業を探します。

こんなところだろうか。

しかし、それで良いのだろうか。
海外で活躍したいから商社に応募したのではないか。
夢があるから広告代理店に応募したのではないか。
客の喜ぶ顔が見たいから小売りに応募したのではないか。

入社後に、全く人が変わったように社交的になった人も多く見てきた。
環境がヒトを作る。
そのために企業は人材育成に力を入れている。
会社は人を育てて戦力に変える責任があるのだ。
安心して飛び込むべきだ。
性格で仕事をしているわけではない。
性格が成果を挙げておるわけではない。
しかも、その性格も、年々変わっていく。
変わるチャンスでもある。
会社が時間も費用も与えてくれる。

面接では、堂々としていればよい。
自分の長所を述べればよい。
それでも、面接での人柄の印象よりも、性格テストなどの紙切れを従事する企業なら、こちらから願い下げだ。
企業は、紙きれに過ぎないテスト結果を凌駕するヒトに入社してくれることを期待しているのだから。

                              以 上
※参考記事
「驚き。採用面接官なんて相手せず。憧れの会社に潜り込む為の究極の付け焼刃。


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