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実話。転職者を最後に追い詰める闇の紳士。その人の名は「人事部長」 by転職定着マイスター川野智己


 「社長、騙されていたんですよ。あの転職者が採用面接で嘘ついて、社長のことを誑(たぶら)かしたんですよ。」
 「社長、あの人材紹介会社の営業担当が、あの転職者が、さも有能であるかのように、大風呂敷で紹介をしてきたからですよ。」
いずれも、“だから、社長、あなたは悪くない”という趣旨だ。
会話の主は、企業の人事の要(かなめ)、転職先の人事部長である。

1 今の時代の人事部長とは

 皆さんは、人事部長というポジションにどのようなイメージを持たれているのだろうか。
 私は、大手教育コンサル団体の11年間、及び伊藤忠アカデミーや大手人材紹介会社での渉外を通じて、多くの経営者、多くの人事部長に面会してきた。その数はのべ 8,000人は下らないはずだ。
 また、私自身も、1,000人規模の企業の人事チーム長を拝命し、担ってきた。人事の世界というものを知っているつもりだ。

 「真面目で、近寄りがたい。融通が利かない。しかしながら、良い意味で頑固で筋が通っており、社員に対して理不尽なことがあれば、相手が社長であっても諫(いさめ)めてくれる。不器用だけれども頼れる存在。」
 人事部長に対して、こんな旧態依然としたイメージをお持ちであれば、即座に改めていただいたほうが良い。それは、現代においては、もはや幻想だからだ。

 現代は、ローテーションで全く無関係な部門からの異動組が多くを占める。このような素人が多くなった背景には、過剰なまでのリスクマネジメント思考が蔓延し、社内不正の防止という名の下で、長期間の同一職務の継続を避け、やみくもな社内異動を行ったことにある。

 当然、素人同然の経験では、経営者の暴走にストップをかける力も見識も十分ではなく、社長に対しては唯々諾々と迎合するだけの存在に成り下がりがちだ。
一方、現場に対しては、必然的に『社長が決めたから仕方がない』と木で鼻をくくった対応となり、現場に足も運ぼうともしない。さらに、現場からの反発が怖いので、耳障りの悪い案件の現場への周知は、メール1本で済ませてしまう。伝書バト、メッセンジャー、事務屋さんと言われる所以である。

2 もはや転職者は四面楚歌

 そんな人事部長ができることは、冒頭にある2つの言葉を発することだけである。いずれも、馴染めない、悩んでいる転職者に関して、人事部長から社長に投げかけた言葉である。「彼(転職者)を解雇してしまいましょう。社長の責任ではありません。」と、導いているのである。

 往々にして、転職者への批判は、その周囲の既存社員からの密告で始まるものだ。
「あんな転職者とは一緒に働けない」と。
本来、それなりの企業では歯牙にもかけられない、根拠無き極めてエモーショナル(感情的)な戯言(たわごと)に過ぎない内容だ。いや、過ぎないはずなのだ。
しかしながら、それが金言になる中小企業が、世の中にはまだまだ存在する。だから、転職者は悩み苦しんでしまうのだ。

3 社長の本音と人事部長の忖度(そんたく)

 「採用面接で合格させたものの、正直言ってどこの馬の骨ともわからぬ人物」と、一方、
 「まあ、無能で、至らない点は多いけれども、数十年前から同じ釜の飯を食い、家族の顔もお互いよく知っている。これまでも、曲がりなりにも彼らがわが社に居てくれたから、ここまで来れた。少なくとも、社長である俺の寝首を狩ることはしない人物」
 皆さんが、中小企業の社長であれば、どちらに軍配を挙げるだろうか。
 経営者であれば、どちらの肩を持つであろうか。
 残念ながら、火を見るよりも明らかなのだ。

 採用ミスと自ら社長は認めるわけにはいかない。
確かに、彼(転職者)は社長が最終的に選んだ人材だ。それにしても、社員の手前、立場がある。「自分は人を見る目が無い」と社長が自ら吐露するわけには絶対いかない。

 ここで、出番は件(くだん)の人事部長だ。
 「社長、あなたは悪くない。本人(もしくは、多くは『人材紹介会社』)の責任だ。」と、落としどころを用意するのである。転職者本人以外は、誰も傷つかない方法で。
 人材紹介会社も、責任を押し付けられても反論などしない。「へんな人材を紹介しやがって」と言われたら「スミマセン」と言うだけだ。転職者を守ることなどするはずがない。今後の別の求人案件の失注が怖いからだ。目先の金をあきらめて、将来の大きな商取引の為に備えるのだ。ドライなものだ。

4 人事部長も人の子

 人事部長ほど因果な商売はない。
 人事評価では、「評価制度が曖昧だから」「評価者への教育がなっていないから」、同様に、給与計算で間違えでもあろうなら「何やっているんだ。信頼できない。」と。ならばと、福利厚生を充実させれば「家族などいない。会費を返せ。」など、文句は数多投げつけられる。
 職務上、褒められることなどない。

 唯一、問題社員という共通の敵を設定し、その周囲の既存社員にヒアリングを行い、その問題社員の粗探しをして、外堀を埋めて、情報として経営者に上納する。これならば、さも「改革者」であるかのように振舞える。
 そんな人事部長も少なからず存在するのだ。何故ならば、その行為が、自分をアピールする数少ない貴重な場になるからだ。

私、川野は、嫌というほどこの光景に触れてきた。数多くこの目で見てきた。悲しい光景だが、これが現実だった。

5 転職者にとっての教訓

 「でも、そんな人事部長ばかりではない。わが社では、社員想いの素晴らしい人だ。」
 とのご意見もあろうかと思う。
 むろん、否定はしない。
 立派な方も世の中にもおられるだろう。
 しかし、「世の中は、全てルールを守る人ばかり」とのお気楽で生きていけるだろうか。

 「横断歩道は、歩行者優先のはずだ。」と、交通法規を持ち出し、あくまでも法的な原理原則を妄信し、交通量の多い大通りの信号のない横断歩道を、左右も見ずに飛び出してみるとわかる。
 優しい、親切な運転手さんは止まってくれる。急ブレーキを踏んでも嫌な顔をせずに、歩行者である貴方を通してくれる。

 でも、9割の運転手さんは、そのまま一時停止などしてくれないであろう。むしろ、飛び出そうとする貴方を睨みつけるだろう。
 「え!なんで横断歩道で止まらなくてはいけないのか。今まで、そうしてきたし、いちいち止まるなんてことをする運転手など周囲に誰もいない。交通法規?まずは融通を聴かせて臨機応変にふるまうことが大切なのではないか。実態を見ろよ。」と言われてお終いである。
 9割の運転手さんにとっては、別に悪気など無いのである。

 事故に会った貴方は、救急車に運ばれつつ、こう思うだろう。
 「交通法規で決まっているのに。おかしいではないか。この世はおかしい。」と。
 でも、怪我をして、瀕死になっては、それも空疎なものになってしまう。

 そう、運転手さんが悪いのではなく、世の中の慣行・仕組みが悪いのだ。
 人事部長個人が悪いのではなく、企業の風土や慣行・仕組みが悪いのだ。
 
 「これまでのあるべき論や自身の常識、経験則を敢えて前提とせず、転職先ではその相関関係、独自の仕事の進め方、慣行に十分留意されること。特に、転職先の社員は、その役職や役目については、その名目上の職責を超えた越権行為もするし、逆に役目どおりの機能も果たさないことも多い。この人事部長は、まさしくそうだ。」
 転職者の皆さんに、僭越ながら、私川野から最後にアドバイスさせていただくとすると、このとおりだ。

 無論、横断歩道での歩行者優先が、一日でも早く歩行者の権利として取り戻される日が来ることを願いつつ。
                              以 上


※毎回、ご一読いただき誠にありがとうございます。書き記した内容は、私川野が大手人材紹介会社の教育研修部長時代に見聞き、体験した「実話」です。よって、個人名や企業名が判明しないよう若干の表現上の工夫をしております。何卒ご了承願います。
おかげさまで、投稿を始めてはや1か月。多くの方々から大きな反響をいただいております。Noteの好きボタンやフォローをしていただければ幸いです。
 ありがとうございました。

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