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点検。転職急行「衝動発:後悔行」に、のぞみ無し。退職前の指さし確認を。by転職定着マイスター川野智己

 「負けた後もたくさん励ましてもらって、すごく皆さん明るく接してくれて、実際に気持ちを切り替えることは早くはできたんですけど、正直勝ってもちょっとやっぱり準決勝の何か悔しい気持ちと自分がうまくいかなかった気持ちがちょっと残っています。悔し涙です。」

 金メダルラッシュの東京オリンピックの一方で、残念ながら本来の実力が発揮できずきずに夢の舞台から去る選手もいる。冒頭のインタビューは、世界ランキング2位で五輪を迎えた卓球の伊藤美誠選手が、個人戦でまさかの準決勝での敗戦後の言葉である。

0 実力者は、どの舞台でも力を発揮するのか

 もちろん、全力を尽くした結果であり、誰も責めることは出来ない。同じく金メダル候補の卓球の張本智和選手も世界ランキング28位のスロベニアの無名選手に4回戦で敗れている。

 いずれも言えることは、「実力があっても慣れない舞台では、往々にして本来の実力を発揮できない場合が多い。」ということだ。過去にも、絶対的な金メダル候補でありながら実力を発揮しきれずに敗退したケースは枚挙にいとまがない。

 残念なことだが、次の夢の舞台は4年後だ。選手のピークを考えると、必ずしもリベンジの機会が得られるとは限らない。いや、むしろこの大会で、その選手の実力のすべてが判断されてしまうことにもなりがちだ。

 ひるがえって、転職も、新しい大きな舞台に立つことでもあり、それは夢のある機会になるだろう。一方、今現在の舞台と比較して、自分にはどちらが本当に活躍できる場なのか、退職前の冷静な判断が行われずに、拙速に転職することにより、後悔に苛まれている人も多いことも事実である。

 おりしも来年秋に、日本が誇る新幹線に西九州・長崎新幹線が加わり開業する。昭和39年の開業以来事故が無いのも、出発前、旅立ち前の点検が十分なされてきたからだ。ただ「遠くに行きたい」という衝動のみにかられ、見知らぬ土地に思いをはせる前に、自己の無い安全な旅路の為にも、発車前の指さし確認(退職前のチェック)の励行をしたい。

 以下、転職に伴う退職時における冷静な判断材料を、新幹線の出発になぞらえて列挙してみた。

1 発車アナウンス:周囲に扇動されていませんか、会社を辞めることを

 転職においては、転職サイトや人材紹介会社の担当者が、しきりに貴方の耳元でささやくだろう。
 「このまま今の会社で埋もれて良いのか。貴方を欲しいという企業はきっとある。転職のチャンスだ。」と。
 
 その一方で、この数値を見てほしい。
 「転職後にギャップを感じている」(全体の49%:パーソルキャリア社令和2年調査)。なんと、転職しても2人に1はギャップを抱えて悩んでいる。

 貴方の耳元でささやいている人物は、正しいことを言っているのか、誤ったことを言っているのかわからない。しかし、これだけは言える。ささやいている人は、貴方が転職してくれれば、その懐に金が入るということだ。

 2 車両点検:退職決行の前の指さし確認(チェックリスト)

 無論、退職して成功する人も、残り半分は居るということだ。
 他人に唆(そそのか)されることなく、あくまでも自分の意志で決めるならチャンスは活かすべきだろう。以下、後悔しないための4つの要素を列挙してみた。

 (1)先頭車両:生涯賃金を計算せよ

  目先の月額給与の額に惑わされがちだ。
  中長期的な視野で、生涯賃金を把握しなければならない。
  企業は、応募人材を募るために「目先の月額給与額」を膨らませて誘引 
するものだ。これを、日本語では羊頭狗肉(ようとうくにく)という。


  月額給与額に実は固定残業代が含まれていないか。入社後の昇給が殆ど  なく何年働いても昇給しないのではないか。賞与額の前年実績はいくらな のか、賞与の中の固定保証額は少ないのではないかなど、確認する必要が ある。賞与の固定保証額を把握しないと、入社して早々、「今年の賞与はゼロ」と言われかねない。毎月の給与額と違い、労働法の対象外であるからである。


 なんだかんだで、転職後の計算をしてみると、結局は、生涯賃金額ではマ イナスとなるケースも少なくない。注意が必要だ。黙っていたら、誰も教 えてくれはしない。入社前に、就業規則と給与規定を入手し、詳しい人に見てもらおう。

 その情報収集は、人材紹介会社の担当者にやらせよう。


 確かに、人材紹介会社のおざなりな仕事ぶりは、以前の記事「告発。高田純〇も驚く!大手人材紹介会社の“超テキトー”な仕事ぶり。求人案件の多さがミスマッチの原因という皮肉。」で言及してはいる。

 しかしながら、実質的に内定状態であり、入社するか否かは求職者である自分の意向次第であるなら、なんでも希望が通る状態となる。担当者からすれば、厳しいノルマに追われている中で、求職者のご機嫌を損ねて、成約が無に帰すことは絶対に避けたいからだ。

(2)2両目:絶対に減る退職金。その下げ幅も確認せよ。

 中でも留意したいのは退職金だ。

 多くの企業では「長く勤めれば務めるほど、退職金が急傾斜で増額する」仕組みだからだ。よって、小刻みに転職するほど損をすることになる。

 仮に、同じ20年勤務のビジネスパーソンが二人いて、片や20年間もの間転職せず一つの企業で勤務している、一方、もう一人は10年目に転職して次の企業で10年勤務したとする。二人とも合計20年勤務していることには変わりない。

 例えば、一つの企業で勤務した場合「最初の10年間は100万円」「さらに10年勤務して合計20年勤務すれば400万円」と漸増する規定となっているとする。これは、かつての終身雇用の名残で、「社員には長く勤めてほしい」との発想から来ている多くの企業にありがちな昇額カーブである。

 これが、同じ20年勤務であっても「最初の会社10年勤務して100万円受け取り」「次の会社でも10年勤務して100万円受け取る」という計200万円しか受け取れないのだ。わかりやすく説明するとこうおいうことだ。
 これは、転職先の会社が良い会社であるか否かに関わらず、このような仕組みなのである。

 どんなに良い転職であっても、退職金は必ず損をすると思ってまず良いだろう。問題は、その損失がどれくらいかだ。

(3)3両目:転職の本来の目的を見失っていないか

「法人営業をやりたくて転職活動をしたが、個人相手の飛び込み訪問職の賃金の高さが魅力で、その会社にした。」「工業デザイナーを志したが、住まいの近所に印刷会社がありその知り合いから誘われたから、その会社にした。」という、変節が起こることがある。

 転職の動機は「職務内容」なのか「賃金額の高さ」なのか「通勤時間の短さ」なのか、軸がぶれると必ずその後、「こんなはずではなかった」との思いが頭をもたげてくる。

(4)最後尾:仕事の内容のレベルダウンを覚悟せよ

 採用面接の場で、どんなに「期待しているよ」と言われたとしても、配属先で貴方を待ち受けているのは、「どんな馬の骨が来たのか」との冷ややかな視線だ。

 考えてみてほしい。自分のポジションを奪うかも知れない人間を歓迎する者などいるのだろうか。新参者を認めるということは、相対的に自分を否定することになる。そう考えているビジネスパーソンが殆どであることを肝に銘じるべきということだ。ケージに入れた鶏(にわとり)でも、新参者はつつかれ隅に追いやられる。


 前の勤務先では、貴方は山の中腹まで昇り、ある程度実力を社内に示したのかもしれない。上る過程を周囲が見届け確認しているからだ。また、さらに、今後頂上まで征服できる人間だと評価を受けていたのかもしれない。


 しかしながら、今あなたがいるのは他の山である。まずは、山のふもとから」出発せざるを得ないだろう。何故ならば、貴方の実力がわからないからだ。周囲としては、貴方の実力を試す必要がある。貴方は、意に沿わない初歩的な仕事を任せられる危険性がある。

 それでもあなたは「自分には能力と経験がある、数か月すれば自分の実力を知らしめることができる」と自信が有るのかもしれない。でも、サッカーでいえばアウエーだ。成功しても額面どおり評価してくれるとは限らない。まして、失敗でもしようものなら、「そんな仕事も出来ないのか」とリベンジの機会も与えられないままレッテルを張られる危険性がある。

 ある鉄道会社に中途入社した人事課長は、人事制度作りを担う約束になっていたが、「まずは」と、基本業務である給与計算業務を担わせられたところ、計算ミスが続き、「基本業務すら出来ない人間」と、ここぞとばかり叩かれレッテルを張られて、結局は本来の人事制度作りを任されることなく、転職先を去っていった。こんな事例は数多(あまた)ある。

3 終点前の車掌のアナウンス:後悔の無い転職のために

 私は大手人材紹介会社の教育研修部長として、せっかく転職しても、先の統計どおり二人に一人が転職先で退職を余儀なくされている現状を嫌というほど見てきた。必死に、個人面談や講習会を開きその多くは退職せずに勤務を継続したが、その全員は救えなかった。

 慌てて再転職した先は、以前にもましてミスマッチとなりがちで、以後、職を転々と繰り返すことになる。そのたびに賃金は下がっていくはめになりがちだ。足元を見られるから。

 このnoteを読んでいただいている方々には、不幸な転職をしてほしくない。豊かで幸せな人生を歩んでいただきたい。
 60歳定年をまじかに控えた私の願い。

 夏の日差しのもと、一人想う。

※参考記事
 「秘技。悩める人間関係解決方法はメモ書きにあった。職場適応のノウハウをご紹介。by転職定着マイスター川野智己

※あとがき
 ご一読いただきまして、誠にありがとうございます。
 業界団体における同業他社を交えた会合の中で、川野が他社大手の社員からの多くの実態を聴きました。彼らのその生々しい話の内容を、わかりやすくまとめてみました。

 おかげさまで、投稿を始めてはや2か月半たちました。多くの方々から大きな反響をいただいております。これからも、毎週火曜日を「蓄積された事例を厳選して開示するChoose day」と称して予約自動配信してまいります。綺麗ごとではなく、業界の本音を書いていきます。何よりも、転職者の転職後の定着を目指しています。


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 皆様にも、より良き転職先との巡り会いの機会がありますよう、陰ながら願っております。
 ありがとうございました。   

転職定着マイスター 川野智己

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