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未来から、今を見ている

夏。
秋の大学の学園祭が近づいて、みんなゆったりと準備していた。
たまたま今することがなくてわたしはブラブラしていた。

誰もいない教室でクラスの友達となんとなく話していたら、山岡くんというちょっとガタイのいい男の子が入ってきた。特に仲良くはない人だ。しかもこの前わたしにちょっとしたイヤミを言ってきたのでどちらかというと好きじゃない。
わたしたちのそばにあった木製のオブジェを小さめのカッターで切っていた。作業しにくそうだったので、
「大きいカッターあるよ」わたしは自分のカッターをカバンから取り出して渡した。
無言で顎をしゃくるしぐさをしてカッターを受け取る。

「あ、ちょうどよかった」
先生が入ってきた。
「これたくさんもらったんだ、君たちで食べな」
カゴに入った巨峰を2つ差し出した。
「わー、先生ありがとう」
先生は忙しそうにすぐ出て行った。
と同時に用事を思い出したので
「あ、これ二人で食べて、わたしちょっと用を思い出した」
わたしは教室を後にした。

用事を済ませて歩いていると、交換留学生のジェシカが靴を作っていた。
「わー、すごいね」
あまり話したことはなかったけど、思わず話しかけてしまった。

「こことここがこうなるんです」
ジェシカはたどたどしいけどていねいな日本語で、靴の説明をしてくれた。
かなりもう形になっている。
白くて細い指先でつくられていく茶色の美しい靴。
「空美もやってみますか?」
簡単な作業を少し手伝わせてもらった。
わたしは慎重に手を動かす。
クーラーはきいてるけど、じんわりと体が汗ばんでいく。

「少し休みましょうか」
時を忘れて集中していたわたしにジェシカが言った。


「これ、あげる」
ジェシカは購買で買ったアイスを差し出した。きれいな渦を巻いたバニラの真ん中に、あずきがちょこんと乗っている。ちょっといいアイス。
「わーい、ありがとう。ご褒美アイスだ。」
「空美のおかげで、だいぶ進みました。」
わたしたちは、はじめてお互いのことについてくわしく話した。
打ちっぱなしコンクリでできた渡り廊下のベンチ。クーラーはあまりきいてないけど、涼しく感じた。


真っ白な午後。真っ白なアイス。

ふと、思った。
20年後、30年後、きっと今を思い出すのだろうか。

わたしは、未来から、今を見ていた。


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