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本当に味方?労働者に近づく外部ユニオン(労組)。その実像と虚像 by転職定着マイスター川野智己


「ああ、外部ユニオン(労組)に加入したんだ。彼は。馬鹿だなあ。」「これで、会社と全面戦争になってしまったね。彼も、もう会社に居られないね。」
外部ユニオンに個人加入した社員を評した、ある経営幹部の独り言だ。

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 安易に近づいて来る他人を信用してはいけない。

 外部のユニオン(労組)に加入したばかりに、人生が大きく狂った男の話である。
 
 営業から閑職に異動となり、大幅に給与が減額になった男が、会社と全面的な争いになり、そして、敗れ去った。

男の名前は、持田健太郎(39歳)。
都内の化学薬品の製造卸会社である池内インキ㈱に勤務する営業マン。
下町の印刷会社に、業務用印刷機に補充するインキを納入している会社だ。
しかしながら、パソコンの普及で印刷会社に印刷を依頼することも減り、主要な得意先である印刷業界の不況のあおりを受け、会社の業績は低迷していた。

そんなときだった。
持田に異動が内示された。
文書管理係という聞きなれない仕事。
部でもない、課でもない。係(かかり)という、とってつけた処遇。
持田の為に作られた仕事だ。
組織図上は、庶務課長の下に位置付けられていた。
しかも、その庶務課長は、かつての持田の部下だ。
あきらかに嫌がらせだった。

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職場は、千葉の幕張にある得意先の倉庫の一角にある。
勤務先の社員からは隔離され、薄暗い倉庫内には、パソコンも無い机だけが置かれていた。周囲には、得意先の作業員に囲まれており、しかも外国人なので会話すらできない環境に置かれている。
得意先の倉庫の中で書類整理を行えというのだ。
来る日も来る日も、段ボールの中身の詰め替え作業の日々だった。

給与から、営業手当を削減され、また、役職も次長待遇から係長待遇に降格だ。
月額8万円もの減額だ。
酷い話だ。
持田は察した。
「これは、会社からの嫌がらせであり、体の良いリストラだ。」と。
でも、勤務先の池内インキ㈱には労働組合が無いのだ。

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持田は、新橋の古びた雑居ビルの前に立っていた。
3階の窓には、内側から張り紙が貼ってある。

「合同労組:ABCユニオン」

持田は、このユニオンに加入することにした。独り加入だ。
持田だけが加入したとしても、会社は、労働組合として認めなければならないのだ。

労働組合法では、労働組合から交渉(団体交渉)を要求されたら応じる義務が会社にはある。それを拒否したら、会社側が罰せられる。

勤務先の池内インキ㈱も、持田個人ならともかく、ユニオン(労組)の申し入れであれば交渉に応じざるを得ない。拒否すれば、地方労働委員会という公的機関から、法令違反として処罰されてしまうのだから。

持田は、この強い味方を得た。
ユニオンの職員は、自分の話を熱心に聞いてくれる。
心から自分に寄り添ってくれていると感じた。
しかも、会費がたったの月額千円だそうだ。
こんな、おいしい話はあるのか。
持田は何度も自分の頬をつねりたい気分だった。

「自分を軽視してリストラ対象にした会社も泡を食うだろう。ざまあみろ」

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労使の交渉は、団体交渉という。
会社の近くの別ビルの貸会議室で、その団体交渉は行われている。
社内で、騒がれるのを嫌がった会社側のささやかな抵抗だった。
ユニオンの職員二人と持田本人、会社側は総務部長と総務課員の3名対2名で行われた。

「営業拠点の縮小とは、会社の業績低下が原因だというが、それでは財務諸表を持ってこい。」
ユニオンの職員が叫べぶと、次回の交渉では会社側から提出された。
会社側が理由も無く、ユニオンの要求を拒むと、不当労働行為の「不誠実交渉」として、これまた罰せられるのだ。


「まるで、打ち出の小槌だ。労働者の要求がなんでも通る。労働組合法バンザイ。外部ユニオンバンザイ。」
持田は有頂天になっていた。

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ユニオンの駆け引きは、会議室内だけに留まらない。
ユニオンの職員は意図的に、勤務先の本社に現れる。
「社長おるか。おたくの総務部長じゃ話にならないから、社長に会いに来た。社長を出せ!」

無論、ユニオンは、実際に会うつもりなんてない。会えるとも思っていない。
これは、駆け引き、交渉術なのだ。
これで、総務部長の顔は潰された。
より誠実な交渉に応じてくるだろう。
今頃、総務部長は社長から、こっぴどく怒られているはずだ。

交渉は、いよいよ佳境に入っていた。
自分への降格・減給の妥当性を、潰す時が来た。
「うちの持田さんの人事評価が悪かっただと?じゃあ、人事評価基準の規定を出せ!それと、持田さんが、昨年度に、いつ、どんな時に、どんな言動があったというのか、具体的な記録も併せて詳細に出せ!」
野太い声が会議室に響き渡った。
総務部長は、力なく頷(うなづ)くだけだった。
いやはや、頼もしい限りだ。

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団体交渉は毎月行われる。
お互いの都合で日程は都度決められるが、会社側が意図的に先送りにしていると判断されると、これまた法律違反で処罰されるのだ。
会社側は、それを恐れて、結果的に毎月団体交渉に応じざるをえないのだ。

「こちらが、わが社の人事評価規定です。」
総務部長は、びくびくしながら交渉の場でユニオンの職員に提出した。
「おい、こんな曖昧な基準で判断していたのか。」
ユニオンの職員の思うつぼだった。

持田は、虎の威を借る狐だった。
ユニオンの職員がいれば、気が大きくなる。
「俺が、職場で(人事評価規定を)が欲しいとお願いしても出さなかったくせに、あるならさっさと出せばいいじゃないか!ふざけるなよ!おい!総務部長よ。」
積年の恨み、持田は、会社側に対して机を叩き、拳を目の前に突き出して、そして、大声で持田は叫んだ。

すると、
「これ以上交渉は出来ない。持田氏及びABCユニオンとの交渉は金輪際行わない。」
突然、総務部長は冷淡に語った。

生意気な。持田は感じた。
「きっと、ユニオンの職員の方から怒られるぞ。」と。

しかし、ユニオンの職員が睨んでいるのは、なんと、持田の方だった。

会社側の反撃が始まった瞬間だった。
そして、それは、持田の敗北へのプロローグでもあった。

(次回に続く)

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                         続く


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