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詩集「縷縷」

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詩 「生と死」

詩 「生と死」

生と死について、

考えない日があったとしたらどれほどいいだろう。

地球儀の青い海は死で、

大地は生。

大地は唸る。

海は攫う。

今大地に立つ私から、

海は攫うのだ。

生きてたものを。

私が死後にどこにいこうと、

今の私には知りもしないが。

あの命が今どこにいるのか、

地球儀を何回廻しただろう。

地球を何周しても、

海に飲まれた鼓動は聞こえない。

足音は鳴らない。

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詩 「ふたり」

詩 「ふたり」

停電にあった冬の夜。
久しぶりにやかんでお湯を沸かして、
溜め込んだ貰い物のキャンドルに火を灯して、
あったかいお茶を飲んだ。
よしない話は尽きないけれど、
テーブルの下は冷え込んで、
ああ、こたつが欲しいなあ、
と二人は身を寄せ合った。
いつもより顔を近づけて、
やかんのピーピー呼ぶ音が、
もう何度目か、鳴っていた。
やかん、捨てなくて良かったね。
キャンドルの火が綺麗だね。
いつもよりお互いの

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詩 おいかけっこ

詩 おいかけっこ

おいかけっこ

本当に哀しいのは、
心は凍えているのに季節は春になることです。
本当に寂しいのは、
心が晴れないままお外の雨が上がることです。
本当に苦しいのは、
眠れないまま朝を迎えることです。

明日も生きたいと悔しがって死ぬのは幸せなことです。
もう死にたいと思いながら生きるのは不幸せなことです。

かけがえのない友を亡くした日の空はとても青かったです。
その次の朝も昨日と変わらず蝉が鳴きま

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境界線

境界線

足が
地面に沈み込む夜。
足下に
影をつくらない星月夜。
熱のこもったからだが
世界でたったひとりの
(わたし)
という存在。

「もしもし、
 今日見た夢の話を聞いて。」
町。
灯りも人の気配もなくて、
いつもの地面も不確かで、
滑るように
流れるように
辿り着いた
あなたの家の前。
そこに、
月が
光る。
最上階の角部屋。
私の心の拠り所。
この世界で
たったひとつの光

じっと見上げていた

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青い果実

青い果実

「事実」

早とちりしてむしりとった青い果実の味。
いつまでもいつまでも口の中に渋く残る。
幼い頃の珈琲の苦味よりずっと不愉快に。
そうして虚ろな表情で
彼女はそれを噛みつぶす。
そうしてつぶれた塊は、彼女の細い喉を通る。

いつまでもいつまでも噛みつぶす。
いつまでもいつまでも飲み込んでいる。

それでも腹は満たされず、後悔ばかり満ち満ちて
あの頃の珈琲の味を懐かしむ。
気づいた時にはもう遅く、

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詩 「空」

詩 「空」

辛いことがあって泣きたい時に
みんなこぞって空を見るのは
僕らだれも空を飛べないからだろう
みんな素直に翼が欲しいと言えるのは
だれもひとりでに空を飛べないからだろう
君を傷つけるあいつも
僕がつかまえられない君も
みんな地面にくっついて
公平に空を飛べないからだろう

葡萄酒の色、君の香り

葡萄酒の色、君の香り

僕には似合わない
派手な匂いの香水をつけて
真っ新な雪を葡萄酒色に染めていく

酔って火照っても流れ落ちない君の記憶は
今年また一段と冷たくなって
僕の心臓をも貫きそうなところで
いつも春は訪れるんだ

人生のひととき

人生のひととき

いつも私は
前を歩く貴方の歩みにならって歩けばよかった。

狭い歩道に仁王立ちする電柱も
群がって広がる学校帰りの子供らも
忙しなく行き交う色んな色した自動車も
先に貴方が避けるから
私は貴方の足下を見るだけで良かった。

ときどき私は酷く落ち込んで
いつもより頭を垂れて
貴方の歩みも見えなくなった。
ときどき貴方はふいに空を見上げて
突然歩みを速めると
私はそれに追いつけなくなった。

私は重た

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証

涙でぬかるんだ僕の危うい足下は
君の足跡で踏み固められる
僕と君の並んだ足跡
僕ら前にしか進めないから
隣を歩く相手がいつか変わったとしても
この足跡はきっと消えない
過去から押し寄せる波に
消されてしまわないように
今ここでふたりめいっぱい泣こう
地面が乾いたら
ふたりの証は永遠になる
僕は君に出会えて本当に良かった
#404美術館  

Flowers

Flowers



君に会えないのなら

君に会えないこの星よりも

君のいる向こう側へいきたくなるときもある

だけど

君と僕とで重ねた思い出の場所からは

離れられないだろう

忘れられない後悔は

僕を今も苦しめるけれど

君の温もりをここに置いていけない

君の記憶は

僕の歩く道の片隅に

ときどき芽を出して

涙を流す時間をくれる

花が咲いたのを確認して

花がいちばん綺麗に咲いている間に

僕は

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(詩) "夢漂い人"

(詩) "夢漂い人"



目を覚ますために淹れた熱いコーヒーは
僕を追い越してあっという間に冷めた
僕はまだ夢に耽る
窓から新しい季節の風が入り込む
僕の夢にシチュエーションがひとつ加わる
人生に必要なのは苦いコーヒーの味とかじゃなくて
勝手に流れてくるような
僕には動かすこともできない
時間にまとわりつく色と面影
僕と君との距離は地球の果てより遠くなってしまったけれど
夢の中で会えるのなら
午前零時にはじまりの挨拶を

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詩 月夜〜下弦〜

詩 月夜〜下弦〜

長い夜の帳が下りる
頼りない月明かりが昇る
目に涙をためて
灯りのない狭い箱の中
ものみやぐらは暗闇の中
思い切り伸ばした
手に虚を浮かべて
重ならない人の肌
冷たい地面に触れる肌

手探りで這う夜は哀しい
ひとりと感じる夜は寂しい
視界を覆う夜はキライ

探り探り冷たい指先で
人の温もりをみつけたら

抜け出そうとはしない
ただ時が経つまで
手を重ね合うだけ
存在を分かち合うだけ

顔も見えない

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