しんた

家に生きる野生の作家志望です。

しんた

家に生きる野生の作家志望です。

記事一覧

 水の話

 あの頃の僕は会社に戻るのが嫌だった。  休日も約束されていたが、楽しいのは休日の前夜だけで、休日の朝になるとその瞬間からカウントダウンが始まっていた。秒針が一…

しんた
1か月前
12

殺人者の話

 彼が小学校内に入った時、ちょうどチャイムが鳴っていた。  三時限目が終わり、ちょうど休み時間になった時だ。グラウンドを囲う金網に一箇所、穴が開いていた。彼が数…

しんた
1か月前
8

ななちゃんの話

 東雲(しののめ)七菜(なな)は明るくて活発な少女だ。他人の気持ちを読む事は苦手で、自分本位なところもある。  七菜は小走りに廊下を走る。先を行く少女の背中を視界に…

しんた
1か月前
7

子供の頃の話

最近になってようやく、子供の頃のトラウマ? のようなものの整理がついてきた。 小学生の時、何でも盗む子がいて。 その子が家に来ると弟のゲームソフトや俺のゲームソフ…

しんた
5か月前
2

ランナーの話

 俺がいつも行っているジムには可愛い子がいる。器具の扱い方も丁寧に教えてくれる。笑うとえくぼが出来る顔なんてもうたまらない。身長は俺より二十センチ低いけど、身体…

しんた
9か月前
6

サイコパスの話

 マニキュアが綺麗に塗れた。  それを登録してあるいくつかのSNSにアップするとすぐに反応があった。  あるユーザーは、 「指、すごく綺麗ですよね!普段から何かケ…

しんた
9か月前
8

犬の話

 うちで飼っていた犬が死んだ。  ラブラドールレトリーバーで年齢は十五歳、名前はクレアという。  動物病院の医師の診断によると、老衰、との事だった。数日前から食事…

しんた
11か月前
4

クソリプラーの話

 僕のX上での名前はアンカーだ。  ネット上ってすごくよくできていると思う。クソリプを送ろうとクソみたいな引用リツイートで絡もうと法律に触れない以上、誰も僕を捕…

しんた
11か月前
4

遺書の話(悪霊の話パート2)

 ある年の初夏の事をよく覚えている。  厄年などとっくに過ぎていたが、嫌な事ばかり起きる年で、イライラしていた。  この年、僕は初めて義父を殴った。  結婚して八…

しんた
11か月前
7

悪霊の話

 映画の専門学校に進学する前、僕は毎日毎日退屈していた。  田舎での生活は退屈で、僕はそれに嫌気が差していた。  映画や小説の勉強がしたいと専門学校への進学を頼ん…

しんた
1年前
13

復讐の話

   その少女は生前、綺麗な物が好きでしょっちゅう花や綺麗な石を集めていたという。綺麗な物を得た時、それは可愛らしく微笑む姿が実に愛らしかったという。  だが、…

しんた
1年前
5

人形の話

 僕が会社に入ると社員玄関に置いてある人形が目についた。 「どうしたんですか、あれ」  事務所にいた女性社員が受け付け越しに反応し、 「それさ、誰かが置き忘れてっ…

しんた
1年前
8

ゴーストタウンの話

 私がその話を聞いたのはある晴れた日の事だった。 「こういう話がある。俺が体験した事なんだけど」  仮にこの友人をAとする。 「ある日、ある廃墟に三人で行ったん…

しんた
1年前
10

目玉(短編ホラー)

 朝のニュースでこんな記事が読み上げられていた。女性と物と思しき身体の一部が河原で発見された。警察では事件性ありと判断して捜査を進めている。    恋人とは数日…

しんた
1年前
11

 水の話

 あの頃の僕は会社に戻るのが嫌だった。
 休日も約束されていたが、楽しいのは休日の前夜だけで、休日の朝になるとその瞬間からカウントダウンが始まっていた。秒針が一つ進む度に死刑に向けて動いているみたいだった。
 身体は元気だったが、心が先に悲鳴をあげた。
 ある日、車で出かけた。近くのコンビニで籠いっぱいに酒を買い込んだ。三ヶ月ほど前から顔見知りになった女性店員は「どこかで飲み会ですか?」と訊いてき

もっとみる

殺人者の話

 彼が小学校内に入った時、ちょうどチャイムが鳴っていた。
 三時限目が終わり、ちょうど休み時間になった時だ。グラウンドを囲う金網に一箇所、穴が開いていた。彼が数日前に開けたものだが、学校関係者は誰も気づいていなかった。
 彼はそこから中に入ると渡り廊下に向かった。そこを歩いている女子児童の腹めがけてナイフを突き出した。女子児童はくぐもった声をあげて地面に倒れ込んだ。
 彼はそのまま校内に入った。

もっとみる

ななちゃんの話

 東雲(しののめ)七菜(なな)は明るくて活発な少女だ。他人の気持ちを読む事は苦手で、自分本位なところもある。

 七菜は小走りに廊下を走る。先を行く少女の背中を視界に捉えた。
 その背中に近づくと叩く振りをして手にしていた紙を貼り付けた。
「あっ、ごめんね。当たっちゃった」
 彼女はそれだけ言って走り去る。返答があったかもしれないし、なかったかもしれない。でもそれは彼女にとってどうでもいい事だった

もっとみる

子供の頃の話

最近になってようやく、子供の頃のトラウマ? のようなものの整理がついてきた。
小学生の時、何でも盗む子がいて。
その子が家に来ると弟のゲームソフトや俺のゲームソフトがなくなる、という事が必ずあって。
一度、弟が大切にしていたゲームソフトがなくなったと泣くのでその子の家に行って「ゲームソフト持って帰ってない?」って問い詰めたらその子の母親が出てきて、「息子は無いって言ってる。何かの間違いじゃない?」

もっとみる

ランナーの話

 俺がいつも行っているジムには可愛い子がいる。器具の扱い方も丁寧に教えてくれる。笑うとえくぼが出来る顔なんてもうたまらない。身長は俺より二十センチ低いけど、身体付きはなかなかのものだ。
 名前は真中瑠衣という。
 そんな俺は彼女を口説くのを夕方の習慣にしていた。
 ジムに女の子口説きに来るなんて、とか堅いこと言いっこなし。俺はちゃんと金を払ってるし、他の女の子には見向きもしない。瑠衣一筋なんだ。

もっとみる

サイコパスの話

 マニキュアが綺麗に塗れた。
 それを登録してあるいくつかのSNSにアップするとすぐに反応があった。
 あるユーザーは、
「指、すごく綺麗ですよね!普段から何かケアとかされてるんですか?」
 と訊いてきて、また別のユーザーは、
「指も綺麗だけど爪やばい」
 と言っていた。
 これが私の趣味、というかストレス解消法だった。自分の身体の美しい部分をほめてもらう。
 もちろん時折、
「ババアの自己満足乙

もっとみる

犬の話

 うちで飼っていた犬が死んだ。
 ラブラドールレトリーバーで年齢は十五歳、名前はクレアという。
 動物病院の医師の診断によると、老衰、との事だった。数日前から食事を食べなくなってその内に水も飲まなくなった。それから一週間後、クレアは眠るように虹の橋を渡っていった。
 私は彼女の遺体を前にして悲嘆に暮れた。
 思えばいつだって一緒だった。
 遺体の火葬は、火葬場で翌日に済ませた。
 彼女がいなくなっ

もっとみる

クソリプラーの話

 僕のX上での名前はアンカーだ。
 ネット上ってすごくよくできていると思う。クソリプを送ろうとクソみたいな引用リツイートで絡もうと法律に触れない以上、誰も僕を捕まえる事はできない。
 惨めだった学生時代とはえらい違いだ。太っていたから友人もいなくてゲームばかりしている日々だった。
 僕が標的にしているのは目立っていてキラキラしている輩だ。フォロー数よりフォロワー数の方が多くって、会話を楽しんでいる

もっとみる

遺書の話(悪霊の話パート2)

 ある年の初夏の事をよく覚えている。
 厄年などとっくに過ぎていたが、嫌な事ばかり起きる年で、イライラしていた。
 この年、僕は初めて義父を殴った。
 結婚して八年、まあとにかく性格の悪い義父だった。
 掃除の仕方に始まり、風呂の使い方、起きてくる時間に眠る時間、彼は四隅を突いて挑発してきているようだった。これが毎日続いた。
 その日は廊下を歩いていて、うるせえ、と背中に声をかけられた。
 瞬間、

もっとみる

悪霊の話

 映画の専門学校に進学する前、僕は毎日毎日退屈していた。
 田舎での生活は退屈で、僕はそれに嫌気が差していた。
 映画や小説の勉強がしたいと専門学校への進学を頼んだ時、両親は最初NGを出した。だが僕の熱意に押されたのか、その内OKを出した。
 住むところは学生寮に決まり、仲の良い友人にも恵まれた。
 都会での生活は色々と大変だったが、それでも充実した毎日を送っていた。

「ホラーものやりたい」
 

もっとみる

復讐の話

 

 その少女は生前、綺麗な物が好きでしょっちゅう花や綺麗な石を集めていたという。綺麗な物を得た時、それは可愛らしく微笑む姿が実に愛らしかったという。
 だが、運命は残酷だった。その美しさに嫉妬した少女たちは彼女をイジメの対象にした。
 そうしてある日、お気に入りの公園で彼女は首を吊った。その公園ではしばらくの間、彼女の幽霊が現れる、という噂が囁かれた。
 それから十年が過ぎた。噂は風化し、いつ

もっとみる

人形の話

 僕が会社に入ると社員玄関に置いてある人形が目についた。
「どうしたんですか、あれ」
 事務所にいた女性社員が受け付け越しに反応し、
「それさ、誰かが置き忘れてったみたい。会社の前に置いたままになってたの」
 と言った。
「可愛いっしょ?」
「まあ、可愛いっちゃ、可愛いですけど……」
 その人形は四十五センチほどの背丈だった。そしてクリッとした目つきで少年のような顔つきをしている。
 会社から出火

もっとみる

ゴーストタウンの話

 私がその話を聞いたのはある晴れた日の事だった。

「こういう話がある。俺が体験した事なんだけど」

 仮にこの友人をAとする。

「ある日、ある廃墟に三人で行ったんだ」

 この一緒に行った友人はBとCとする。

 ここではその廃墟の名前を仮にK町とする。観光地として有名なM市の一角で一時期移住者が大勢いたが、年月の経過、時代の移り変わりと共に人口は減っていった。そして今や市の半分はゴーストタウ

もっとみる

目玉(短編ホラー)

 朝のニュースでこんな記事が読み上げられていた。女性と物と思しき身体の一部が河原で発見された。警察では事件性ありと判断して捜査を進めている。

 

 恋人とは数日前に別れていた。

 曰く、あなたは小さくて話にならない、という事だった。

 何の事かよくわからず、だがその理由を知った瞬間、俺は笑い出していた。

 だがその一言が耳から離れてくれない。小便をする時、風俗嬢を抱く時、どうしてもその声

もっとみる