目玉(短編ホラー)


 朝のニュースでこんな記事が読み上げられていた。女性と物と思しき身体の一部が河原で発見された。警察では事件性ありと判断して捜査を進めている。

 

 恋人とは数日前に別れていた。

 曰く、あなたは小さくて話にならない、という事だった。

 何の事かよくわからず、だがその理由を知った瞬間、俺は笑い出していた。

 だがその一言が耳から離れてくれない。小便をする時、風俗嬢を抱く時、どうしてもその声がするのだ。

 日を追うごとに女性の死体は部位が見つかった。最初は腕で、続いて脚、胴体。

 それぞれ別々の場所から発見されていた。

 付き合っていた女の物だった事から、自分の所にも刑事がやって来た。

 何日かして、頭部も見つかった。

 その日からだ。自分を見つめる目玉に気づいた。

 やがて俺は、刑事に全てを話した。自分が彼女を殺した事、死体は風呂場でバラした事などなど……。

「わからないな」

 と刑事は言った。

「目玉だけが見つからないんだ。虫とか野生動物が喰った形跡もない」

「ああ、それは自分がほじくり出して煮て食べました」

「……何でそんな事をした?」

「自分を見て二度と笑えないようにですよ。決まってるじゃないですか」

 事件の残忍性などから、俺の刑は決定した。

 二十年もの長い刑期だ。

 刑務所に入った日、俺は息を呑んだ。

 刑務官の全身に目玉が出ていてそれが一様に俺を見つめているのだ。

 それだけではない。部屋の壁にもびっしりと目玉が出ていて俺を見つめている。

 ぎゃああ、と悲鳴が喉からほとばしった。

 俺の背後でドアが閉められ、鍵がかけられた。

 俺は壁に向かう。そしてその目玉の中に指を突き刺した……。

 

「悲鳴が聞こえて来てみたらこの有様、か」

 別の刑務官が言う。

「ショックでヒステリーか何かを起こしたのかもしれません」

 彼を担当した刑務官が言った。

「しかしまあ、自分の目玉突き刺すとは……まともな人間のする事じゃねえやな」

「部屋に入って声をかけた時、あいつ、こう言ったんですよ。「これでもう、何も見なくて済む」って」

 彼らは互いに顔を見合わせ、肩をすくめた。


                  了

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