復讐の話
その少女は生前、綺麗な物が好きでしょっちゅう花や綺麗な石を集めていたという。綺麗な物を得た時、それは可愛らしく微笑む姿が実に愛らしかったという。
だが、運命は残酷だった。その美しさに嫉妬した少女たちは彼女をイジメの対象にした。
そうしてある日、お気に入りの公園で彼女は首を吊った。その公園ではしばらくの間、彼女の幽霊が現れる、という噂が囁かれた。
それから十年が過ぎた。噂は風化し、いつの間にか消えていた。
「おい、ミイカ。つばさどうなってんだよ」
カメラマンが怒声をあげる。
「ここの公園に集合、って決めたんじゃなかったのか」
「そのはずなんですけど……」
ミイカが答えた。
その時、ミイカの携帯が鳴った。
「ミイカさん?」
つばさの声だ。
「今、どこ?」
「何か別の公園に来ちゃったみたいで」
泣きそうな声で彼女が言う。
「ちょっと待ってて。迎えに行くから。場所、どの辺かわかる?」
「大きめのマンションがあります」
携帯の地図を表示させる。すぐに場所はわかった。
「すぐに行くから待ってて」
カメラマンに頭を下げてミイカは走り出した。
つばさのいる公園はタクシーで十分ほど場所にあった。
ミイカはその公園に入った。
周囲を見渡し、つばさの姿を探す。
と、ブランコに座る少女と目が合った。
彼女は満面の笑みを浮かべてミイカの方に手を振ってきた。
「ミイカさん!」
つばさが駆け寄ってくる。
「本当にごめんなさいっ」
彼女はそう言って頭を下げる。
「よし、とりあえず現場に行こう」
ミイカが携帯を取り出し、経路案内を終了しようとする。
「あれ、なんだろ……」
携帯の地図上に、彼女自身が表示されていないのだ。
「携帯、何か変なんですか?」
「あ、ううん。何でもない。行こう」
何かの故障だろう。
その時は気にしなかった。
つばさの撮影が始まる。ミイカはその光景を見ながら、先ほどの少女の事を思い出していた。
何だろう、あの時の悪寒は。
――ちょっと綺麗だからって調子乗ってるよね。
今の声は誰の声だろう。
「覚えてないの?」
後ろから声がした。
振り返る。あの時の少女がいた。顔には満面の笑みを浮かべている。
「ミイカちゃん、綺麗になったね」
彼女はそう言って笑いかける。
瞬間、背筋をぞくっとした寒気が走っていった。
自分はこの声の主を知っている。でも、誰だか思い出せないだけで。
「ちょっと綺麗だからって調子に乗ってるよね」
どこにもいないはずの子供の声がした。この声には聞き覚えがある。
そうだ、私の。
子供の頃の私の声だ。
「ここでなぞなぞです」
彼女は言った。
「ある子供がとても美しい母親の死を嘆き悲しんでいました。どうして神様はお母さんを連れて行ったの? 父親はこう答えました。花畑に行ったらお前はどんな花から先に摘む? 子供は綺麗な物から、と答えてから無表情になりました」
ミイカの身体はガクガクと震えている。
「ミイカちゃあん」
彼女が笑いながら言う。
「綺麗になったね――」
*
つばさは警察での取調を終えると一人で歩き出した。
撮影中にミイカは忽然と姿を消してしまったのだ。跡形もなく、すっ、と。
――どこ行っちゃったんだろうね。
担当した刑事は困ったように言った。
ミイカの婚約者も困っている、という。
つばさは歩きながら思い出す。あの少女とした会話を。
*
その日、彼女は死のうと思っていた。
――死ぬの?
そこで一人の少女が語りかけてきた。
見ると十歳ほどの少女がいた。可愛らしい。人形のようだ。
つばさは全てを話した。
マネージャーのミイカから紹介された男に強引に抱かれた事、それを聞いた彼女は、つばさちゃんにもスキがあったんじゃないの? と言ってきた事。
――あり得ないです。だって私は、ミイカさんの事が好きなんですよ。
つばさが言うと、ミイカは鼻でそれを笑った。
その日からずっと、彼女の頭の中で死が駆け巡っている。
――私がその女、殺してあげよっか。
少女が言う。
――どうやって。
――まあまあ、見ててよ。私、こう見えてやる時はやるから。あなたはこの公園にその人を連れてくるだけでいいから。
そう言って彼女はにっこりと笑う。
取り調べから数日して、あの公園でミイカの死体が発見された。
綺麗だった目は抉られていた。綺麗なマニキュアの施された指は一つ残らず切り取られていた。そして彼女の顔、これは皮が剥ぎ取られてあった。変わり果てた彼女を見て婚約者は半狂乱になった。
つばさは報道を聞きながら、あの少女が言っていた事を思い出す。
――綺麗な物見るとね、つい集めたくなっちゃうの。
了
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