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奄美の残像のなかで

奄美の残像のなかで

千葉に戻ってから、奄美の残像のなかにいる気がする。

沈んでいく太陽が浮かび上がらせる山のシルエットだったり、そこいらに生えている葉っぱの野生みのある色や形だったり、集落で会う人たちの穏やかさだったり、庭でひらひらと戯れる蝶々だったり。

奄美では、雨が唐突に降り、唐突に止む。わたしたちは抵抗することもできずに、ただ受け入れるしかない。人間は蝶々のように儚く、弱い。

縁側に出て、宙を眺めて、そこ

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窓から入り込んだ、まっくろくろすけ

窓から入り込んだ、まっくろくろすけ

夫に先立たれたある女性は、その家で亡くなった夫に話しかけながら生活を送っていた。その場にいないはずの夫ではあるけれど、彼女のなかに、あるいは、その家のなかに夫はいて、夫に話しかけることが彼女にとって癒しになっていた。
やがて、彼女の元にも病が訪れ、彼女は家から離れた病院に入院することになった。入院してしばらくして、彼女はこう言った。「病院には夫は付いてきてくれなかった」

たしかこんな話しだった。

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ミニストップの駐車場にある幸せ

ミニストップの駐車場にある幸せ

たぶん、これ以上の幸せはもうないだろう。
週末の昼下り、家族で車で出かけた帰りに、ミニストップの駐車場でソフトクリームを食べながらそう思う。最近、毎週のようにそう思う。悲観的でもなんでもなく、単純にそう思うのだ。

たとえば、天国というものがあって、そこは見たこともないほどの美しい景色で、そこに流れる音はこれ以上ないほど心地良く、食べ物もすばらしく美味しいとしよう。だけれど、そこに住まう人の幸せは

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中谷美紀と、綺麗な言葉で溢れる世界について_2021.12.18

中谷美紀と、綺麗な言葉で溢れる世界について_2021.12.18

テレビに映る彼女はただの綺麗な女性で、僕にとってはそれだけだ。それにテレビに映る女性は大抵が綺麗だし、美人というのは顔の均整がとれている、つまり特徴が少ないということだから、それもあって彼女はさらに印象を残さず、ただ僕の脳裏を通り過ぎていく。

だけれど、テレビに映る彼女には、テレビが排除したはずの何か翳りみたいなものがほんの少しその表情のなかに沈んでいた気がして、それがぼくにとっては少しばかりの

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異様なほど普通にサラリーマンがいるのだ_2021.12.16

異様なほど普通にサラリーマンがいるのだ_2021.12.16

家の中はまだ薄暗く、家族の誰もまだ起きていない。

少し前に、iPhoneのアラームが自分のリズムとはまったく無関係に僕を起こして、それによる調子の悪さが身体に広がっている。『自動起床装置』を読んだ時に感じた後味の悪さが蘇る。

まだ眠りが抜けきっていない身体で、よろよろと起き上がると、窓の外が濃い藍色からオレンジ色へのグラデーションになっているのに気付いてしばらく見とれるけれど、美しさよりも、身

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私たちが抱える孤独と、世界の複雑さについて

私たちが抱える孤独と、世界の複雑さについて

最近、短いスパンでの転職が続いて、
精神的な余裕がなく、なかなかゆっくりと本を読むという行為に取りかかれないでいた。

そうすると、次第に自分のなかでストレスが蓄積されていく感覚があって、仕事や子どもの面倒など、目の前の事象への対処だけに時間が費やされていく。

Twitterやニュースをみては、なんとか社会と繋がっている感覚を得ようとするけれど、それらの情報からは奥行きを感じられず、ただ目の前を

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日常の風景が変わること/2020.10

日常の風景が変わること/2020.10

日常の記録のはじまり新しい試みとして、日記というか日常の記録的な文章を定期的に書いていこうと思います。月一を目標としますが、あくまでも目標です。

自分は、割と構築された文章を書きたい方で、ひとつの文章を書くのに何度も構成やディテールを見直すので、かなり時間がかかる。
建築やデザインをしている人は割とこういうタイプの人が多いんじゃないかと思うのだけど、どうなのだろうか。
そういえば、この方のnot

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新しいくらしを日常化していくこと/2020.11

新しいくらしを日常化していくこと/2020.11

日常化してわかること転職をして一ヶ月が過ぎた。
毎日が新しいことの連続であった日々が通り過ぎて、新しいことに出会う頻度がだんだんと減っていく。そして、新しいくらしが日常化していく。
働く環境を変えたりすると、これまでの環境との対比から、なんでも過剰にきらきらしてみえたりする。
だけど、くらしが日常化してみてはじめてわかることもあるし、むしろそういう状態で感じることのほうが大切だろうなと思う。
こん

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服を着替えるように、転職したらいい

服を着替えるように、転職したらいい

瑞々しい気持ちで、
口数もすこし多くなって、
聴き慣れた音楽も、少し違って聴こえたり、
早くこれを着てどこかいきたいな、
とか、そんなことを思ったり、

そんな、新しい服を買った日の帰路が好きだ。

だけれど、その服を着て少しのあいだ過ごしてみると、不思議としっくりこない感じがしてくる。そんなことが儘ある。

鏡の前にもう一度立って、
からだの角度を変えて、
ひと通りクローゼットの服と合わせてみて

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ZORNを聴いて思うこと/2020.12

ZORNを聴いて思うこと/2020.12

12月は、慌ただしさのなかで日々がいつのまにか過ぎていき、気が付いたらなんとも言えない余韻を残して、無理やり年が終わっていく。毎年そんな感じがする。

発せられることのない声転職して2ヶ月程経った。
この辺になってくると、同僚たちの個性とその裏側のストーリーも少しずつみえてくる。
僕たち設計者の仕事は地味だ。あくまで建物を設計するものとして存在しているので、スター建築家でもなければ、僕らの個性とい

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