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奄美の残像のなかで

千葉に戻ってから、奄美の残像のなかにいる気がする。

沈んでいく太陽が浮かび上がらせる山のシルエットだったり、そこいらに生えている葉っぱの野生みのある色や形だったり、集落で会う人たちの穏やかさだったり、庭でひらひらと戯れる蝶々だったり。

奄美では、雨が唐突に降り、唐突に止む。わたしたちは抵抗することもできずに、ただ受け入れるしかない。人間は蝶々のように儚く、弱い。

縁側に出て、宙を眺めて、そこに響く鳥や虫や何かわからないものたちの声を聴いた。日が昇れば目が覚めて、日が沈めば眠くなった。携帯は充電をすることすら忘れて、片隅に置かれていた。

千葉に帰ると、ここでは自然は弱々しく、反対に人間の力が強くなったように感じられる。だけれど、わたしにはそれが心地良く感じられない。

マンションのベランダに出て、夜宙のむこうに奄美の残像を探す。おぼろげな記憶がうっすらと山のシルエットを浮かばせる。
そのおかげで、わたしは少しだけ弱さを取り戻す。

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