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2018年ベストアルバム トップ50

個人的にはサブスク元年となった2018年。例年よりも素早く話題作にアクセスできる環境ができたのはとても良かった。とはいえ、好みの作風は特に変わらず。「歌モノ」「バリエーション豊か」「ちょっと切ない」、この3点を満たす作品を愛でがち。

50位 夢眠ねむ『夢眠時代

VTuberの出現より遥か昔、1人の女子大生の身体を用いて生まれた1人のアイドル・夢眠ねむ、その10年の集大成。最初と最後に入っている「魔法少女☆未満」にその育成と思考のストラグルが刻まれている。基本的にはねむきゅんのキャラクターに徹しているが、中盤には敬愛するスネオヘアーや古くからの友人tofubeatsからの提供曲が"中の人"の感情を引っ張り出しているよう。彼女と夢眠ねむの別れ、それを概念化という二次元的アプローチで成した「あるいは夢眠ねむという概念へのサクシード」、この上ない最終回だ。

 49位 マテリアルクラブ『マテリアルクラブ

大きな感想はこちらに。枠を作らないことを、CDアルバムという枠の中でどうやるか、のトライアルだったという角度から聴くとまた違った面白さが。コンセプトやテーマ性を大事にする小出祐介が、何とかそこから脱しつつ、それでいて意志を通すという鬩ぎ合いだ。 

48位 ナナヲアカリ『フライングベスト〜知らないの?巷で噂のダメ天使〜

1stアルバムの幕開けで<やんないんじゃない できないんだ!>と言ってしまう感覚、めちゃ分かる。ゆとり世代ですから、突然社会に放り出されてもそうでしょう、一つ一つ丁寧に教えてくれないと。と愚痴を重ねてしまうほどに、この引きこもり的発想/コミュニケーション不全感/ネガティブサイドの住人、という三拍子は今の時代にウケなきゃおかしい。ボカロPが多く参加し、フェスシーンにもアプローチできるファストで情報過密なナンバー、尚且つルックスが良いとくればもう大成功。ポップアイコンになれる。

47位 indigo la End『PULSATE

ツアーの感想がここに。アルバムごとにどんどんドープになっていく音楽性、その焼け付くような緊迫感が全編を覆う。とはいえ、「冬夜のマジック」はオーセンティックな名曲だと思う。真ん中も狙える、しかしそれをせず深く潜っていく。一筋縄ではいかない美学に透徹されている。

 46位 PEDRO『zoo zoo sea

BiSHのアユニ・Dによるソロプロジェクト。3ピース編成によるノイジーなサウンドが印象的。BiSHは元々バンド寄りの楽曲を歌うアイドルグループだから、こうい音になるのは納得なのだけど、それにしてもこの歌声によく合う。ずっと駄々こねてるみたいな、無理あるシャウトもやっちゃうみたいな、少し危なっかしい声。三木聡監督の「図鑑に載ってない虫」に登場する台詞から引用されたアルバムタイトルなど、サブカルクソ野郎どもがくっついちゃいそうなカルチャー感も良い。言語感覚含め、発展途上の才気。 

45位 tofubeats『RUN

客演ゼロ、全部1人。ともすれば様々な"削減"を連想されちゃうが、過去最高にキレキレでグッドテイストなポップソング集に。せわしなくもド派手な前半、多様なダンスを提唱する中盤のインスト群を経て、プライベイトな視点へと収斂していく後半。「RIVER」というド名曲に呆気に取られていると、「ふめつのこころ(SLOWDOWN)」でもう一度踊り出す。芸術でありながら、労働であること、生活者として彼はずっとパーティーの向こう側で歌ってきた。 その切実さの淵からは、希望がそっと滴り落ちてくる気がする。

44位 SHISHAMO『SHISHAMO 5

"聴く少女漫画"として、10代女子はおろか茶の間へもぶっ刺さっていった『4』の次。国民に知れ渡ったうえで出すにはあまりに相応しい人懐っこい歌だらけだ。アレンジ面でも迷うことなくより広く聴かれる方を選定しているような気がする。一方で、より深く踏み込んだ描写の曲も増えた。宮崎朝子のボーカルの魅力は、その"息継ぎ"だと思っているのだけど、翳りと色気のある大人びた表情の楽曲に見事にマッチしている。バンドとして最大のキャリアハイはまだきっとこれから。普遍的とは、こういうことだ。

43位 Negicco『MY COLOR

15周年記念の4thアルバム。ソングオリエンテッドな傾向は更に強まり、所謂アイドルソング的なヒストリー・ドラマ性/心情代弁はほぼ影を潜めている。それでも、3人の発色豊かなボーカルが等身大の彼女たちの姿を可憐に見せてくれている。このアルバムはまさに、30代でアイドルをやるということの貴重なリファレンスになり得る。ファン層を理解しすぎている制作陣の人選は、今後は若手ソングライターの登竜門的な場所になっていくのでは、と予言しておこう。

42位 [ALEXANDROS]『Sleepless in Brooklyn

大きく分けると、ゴリゴリとしたリフとビートで押し進めるスタジアムロックと、シンセやサンプリングが光るクールなダンスチューンで構成されている。前者は初期を思わせるシンプルなものが多く、後者はここ最近急速に伸ばし始めた一面だ。つまり、バンドを大きく飛躍させた夏フェス映えするようなアンセムチックな楽曲は収録されていない。正攻法を使わないという野心がダダ漏れな彼らの初めての海外レコーディング作品。王者の風格はますます真に迫るものになり、他の追随を許さない。

41位 大森靖子『クソカワPARTY

ツアーの感想がここに。攻撃的な打ち込み主体の楽曲が大半を占め、彼女自身の心情吐露を直情的な言葉で綴る歌詞が増えた。言いたいことは言わなきゃ奪われるし、本気でやらなきゃ薄められると判っている人の作品。"大森靖子以降"な女性表現者たちとも高め合っている、今の彼女はクソカワだ。

40位 ハンブレッダーズ『純異性交遊

年に1枚は出る、「なんで俺のことをこんなに知ってるのか」という怖さがあるバンド。自分が好きな音楽を聴いている時の無敵感って、多くのミュージシャンが形にしてきた感覚だと思うのだけど、彼らの「DAY DREAM BEAT」は遂に完璧なソレが出てしまったな、と思った。<歌にしちゃうくらい君が好き>と言ってしまう「スクールマジシャンガール」においても、共感羞恥のようなざわめきが。ギターロックって情けなさが合う。完全に"僕ら側"の人間が創り出してしまった、こじらせ達の逆襲劇。

39位 キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『トランシーバ・デート

陽当たりの良いところに長く置きすぎて、少し色褪せたような風合いを持った曲が多い。まだ結成したてとは思えないくらい、自分たちのペースを掴み取ったベテラン感。どこか浮世離れした脱力系、できればゴロゴロしてたいよ、という高等遊民なゆるいノリがそのその若者っぽくなさに繋がっているのか。飄々としながら、鋭く核心をつくワードセンスも抜群。個人的には、コーラスのみを担当する女性メンバーがいるのがツボ。「プラスチックラブ」ではメインボーカルを務めているのだが、ケロッとした声質が良い。

38位 2『GO 2 THE WORLD』

前作から僅か半年で届いた2ndアルバム。The SALOVERSの幻影を敢えて引き受けていた部分もあった1stから比べると、早くもバンドがニューフェイズに踏み出していることが分かる。古舘佑太郎の持ち味のシャウトは健在だが、音像はよりふくよかで温かく作り込まれている。ギタリストの加藤が古館に合うメロディを作るという手法で2の楽曲は制作されているが、今回は「歌って欲しい」という気持ちも含まれている気がする。そんな信頼関係の中、古館が綴る歌詞はどんどん大人になっている。ちゃんと誰かを信じている男が書く言葉だ。

37位 シュノーケル『NEW POP

正統派のギターロックバンドだったけど、活動再開後はどんどん訳が分からなくなっている、もちろん良い意味で。タガが外れた、と言い換えられるかもしれない。今回は、当たり前にやってましたけど、みたいな雰囲気でベーシストがラップをかましたり。締め切りとか契約とかをこなしながら勝っていけるミュージシャンもいれば、そういうとこから外れてこそ面白くなる音楽家もいる。西村晋也という男は完全に後者。ナイーブそうな見た目に隠した突飛なユーモアを爆発させ、ここに新たなポップを定義した。 

36位 ズーカラデル『夢が醒めたら

ロックンロールには"良い予感"があって欲しい。彼らの歌には、狂おしいほどにそのフィーリングが込められている。泥臭く君のことを思ったり、会いたい気持ちだけで歩き出せたり、これしか歌うことがないんだ、という潔さを抱きしめたくなる。あと、この"みんなで歌いたさ"は尋常じゃない。汗だくな高揚感が、ドカドカと心を突き上げてくる。ギターソロすらないシンプルなサウンドだが、ラストの「フライングマン」にはトランペットが入ってたり、楽団的なアレンジも映えそうなポテンシャルがある。見逃せない。

35位 Awesome City Club『Catch The One

生音×打ち込みを絶妙に配合し、おしゃれなポップソングにデザインするというACCの基本スタイルを存分に発揮した1stフルアルバム。コンピレーションアルバムのように1曲1曲が粒立っている。メンバーがこのバンドに向けてそれぞれが腕を振るった結果生まれたバリエーションは、どんな方向にも伸びていけるもの。特に、徹底してラップに拘った「クリエイティブオールナイト」は、そのタイトなトラックに乗る孤独な制作風景が垣間見える歌詞が面白い。5人の人間味もたっぷり加味され、アルバムに華を添えている。

34位 リーガルリリー『the Telephone

DISCOなバンドみたいなタイトルを冠した3枚目のミニアルバム。最初期よりはクリーンですっきりとしたアレンジの曲が増えたが、それにしてもこのスレてなさは凄い。たかはしほのかは、自分の持つ危うさをしっかりと守り抜いている。おとなしそうな女の子が内に秘める暴力性、とはどうしてこれ程までに尊いのか。より美しい音をまぶされた彼女の狂気は、乱反射を無限に繰り返していく。街並みを見つめた歌詞が多いが、閉ざされた心象風景と重なることで現実離れした場所へと誘ってくれる。

33位 Temapalay『なんて素晴らしき世界

怪獣図鑑の表紙みたいな、ジャケットのビカビカした色彩がそのまま音に変換されている。異界への扉が開きっぱなし。音がサイケデリックで浮遊感があって、というのも大きいのだろうけど何より歌声の色気にまどろみそう。8曲25分のコンパクトなサイズで、終末世界を眺める寓話が展開されていく。新進気鋭の音楽というのは常に異能すぎて理解が追い付かないことが個人的には多いのだけど、Tempalayはどう聴いても未知なモノなのに、驚くほどにキャッチーな歌メロのおかげですぐに口ずさんでしまえるのが嬉しい。

32位 ベランダ『Anywhere You Like

仕事なんかほっぽって、喧噪から逃れ、木漏れ日の中でぼーっとしたくなる。生活の先に、もしかしたらあるかもしれない桃源郷が、さらさらとしたタッチで描かれる。清涼で繊細な「その目で」や「ハイウェイオアシス」があれば、ウネウネとアグレッシブなギターワークが動き回る「しあわせバタ~」や「IZUMIYA」にような曲もあり、多彩な音楽性を持つが、線の細めなボーカルが芯を通している。と言いつつ、女子ベーシストがメインボーカルを取り、そっと別れを歌った「(ever)lightgreen」もお気に入りだ。

31位 レキシ『ムキシ』

押韻だろうが駄洒落だろうが思いついたらやるし、日本史無関係なタイアップだろうが糸口を見つけてひとネタ仕上げる。ファンクミュージックを志向しつつ、ビッグバンドや産業ロック、ジブリ音楽も混ぜ合わせて、音楽の大河へと合流していく。優れたパロディは堂々と花道を進めるし、むしろ真っ当に音楽の歴史に結びつくことをこの男は証明してきた。世界のどこに「鎖国」のソウルフルな連呼で、これほどアガれる音楽があるのか!笑えるんだけど、ふと冷静になるとこりゃ奇才にしかできない重要文化財だな、って。

30位 MASS OF THE FERMENTING DREGS『No New World

<交わした約束縺れた記憶 ひたひたに浸るあの歌>と、「スローモーションリプレイ」で歌われているのはきっと爆音と共に世に現れた10年前のマスドレ自身のことだ。ゆっくりと時間をかけもう一度バンドを叩き起こし生まれた8年ぶりのアルバムは、躍動するグルーヴと幼さ残る宮本奈津子の歌声という元来の持ち味を生かしつつ、より可憐でメロディアスなものに。男性メンバーの加入により、ツインボーカルという新たな武器も。後ろ向きなように思えるタイトルも、むしろ今ここしかないという実感に溢れている。

 29位 BIGMAMA『−11℃』

8枚目にして、メジャー1st。インディーズ後期に広がっていった音楽性を改めて見つめ、メロディックパンク+バイオリンの黄金律という得意技を追求した1枚。12曲に体の部位を分け与えアルバム通して1人の人間の躰が出来上がるという「どろろ」みたいなコンセプトをもって、クールに、ドラマチックに、バンドの肉体を再構築している。酸いも甘いも噛み分けたうえで、もう一度1枚目を提示するという挑戦。彼らは、軽やかにそのハードルを飛び越え、円熟したフレッシュさを提示した。

28位 おとぎ話『眺め

ちゃんと「そこにある」って感じがする。強く来るわけでなく、かといって消え入りそうなわけではなく。ただ「在る」ものを流れるように音楽にしている。ループしているようなフレーズが、だんだんと逸脱しながら広い景色を見せていく。「眺め」と題されるのも納得である。本来はロックンロールのダイナミズムを体現していたバンドだったが、ここ数年はメロウなものに磨きをかけてきた、その極み。目にみえない不思議な感覚をも、巧みに捕らえられるのが音楽だと、この盤は物語っている。 

27位 teto『

堰を切るようにドバドバと激情が飛び出てくる。不安も不満も全部を転がしてこちらにぶつけてくる。聴いてるこちらも、微熱を覚えてしまうほど、その気迫は凄まじい。しかし中盤では一転して、ドリーミーでメロウな楽曲も用意されており、全15曲というボリュームをフルに活用したバンドの衝動をプレゼンしている。感情を粗雑なままぶつけるのでなく、知性とセンスに富む言語で読み物として仕上げているところが良い。真に迫る思いとは、伝わらなければ意味がない。それを理解しているから強い。 

26位 吉澤嘉代子『女優姉妹

なんて蠱惑的なタイトル!楽曲ごとにコロコロと声色を使い分け、歌のお話に魂を宿す吉澤嘉代子は、シンガー兼女優のようなもの。そんな彼女がここで改めて、女を演じるというまさに独壇場のような10曲。楽曲の特色を活かすために、硬軟使い分ける編曲も名仕事だが、やはりユーモアと情念を自在に繰り出す歌声の力。そして名曲「残ってる」までも前フリに使い「最終回」で舞台装置ごとひっくり返すような劇構成も見事。憑依する女性SSWの作品として、一つの完成形だと思う。 

25位 アーバンギャルド『少女フィクション

偶像としての"少女"がポップカルチャーの中心であった平成。その陰と毒の部分を担い続けて10年。アーバンギャルドがアーバンギャルドを対象化して作ったかのような、記名性の高いラウドなテクノポップがひしめき合う。病気なのは僕なのか、君なのか、それとも周囲なのかという永遠の対世界的疑問。その答えはなく、やはり苦悩を加速させるのだが。「大破壊交響楽」にある「君がいないから誰もいないのと同じ」のラインから読み取れる想いの濃さはメンヘラなんて言葉だけで片付けられちゃ我慢ならないよ、って。

24位 a flood of circle『a flood of circle

セルフタイトル作を、1st以外のタイミングで出されると、どうしても身構えるというか、相当なモノを期待してしまうのだけど。フラッドの場合は、ここ最近のバラエティ豊かな部分を抑え、ワンカラーでベタ塗り、そして獰猛でギラついている、とまさしくバックトゥベーシック、若々しさ溢れる1枚に。この題に相応しく、滾りまくっている。しかし、歌唱やリズムの部分ではラップミュージックに肉薄させるなど、ロックンロール/ブルースを現在進行形に書き換えるトライアルも詰まっている。 

23位 MONO NO AWARE『AHA

ライブでの印象はこの記事この記事に載せているのだが、とにかくボーカルのクセがすごい。ゲゲゲの鬼太郎みたいな服装してるし、感性とか含めて妖怪の類なのではないか。そもそもの異端者が、街を歌うとこんなに珍妙なアルバムができるのか、と。オルタナシティポップと名付けたい。

22位 the pillows『REBROADCAST

1曲目から、サビでの大合唱が目に浮かぶ。長らく、サクっとしたアルバムが続いてきたピロウズ(その軽さもとても良かったのだが)、久々に目が覚めるようなパキッとしたメロディが全編に冴え渡っている。過去曲からの引用やオマージュなど、再放送の題を冠するに相応しい遊び心も、初期作を再現するツアーなど、"前向きな振り返り"を続けてきたここ数年の活動が導いたものだろう。本人たちは、現在をピロウズの末期だと語っているけれど、終わり際とは思えない溌剌としたエネルギーが。まだまだどこまでも。 

21位 ザ・なつやすみバンド『映像』

盟友たちと作り上げたコラボや、憧れの人を招いた再録など、箱庭的な作風から一転して、自由研究のような意欲に満ちる企画盤。ノスタルジーを直撃させる彼女たちの必殺技は更に威力を増し、バンドとしての自由度もどんどん広がっている。Enjoy Music Clubとコラボした「Future Heads」では実に珍しい都会の夏が描かれ、ビターで大人な部分も。ラストは「バンドやろうぜ!」なんていう、TNBそのものの原風景的な曲まで。また来年の夏に聴きたいアルバム。元号変わっても、毎日がなつやすみだったらいいのにな。

20位 SAKANAMON『・・・』

今年行ったこのアルバムのツアーで、ボーカルの藤森元生は、ある曲のサビをその前に歌った楽曲の歌詞で歌ってしまうという信じられないミスり方をしていた。そんな奇才/天然が率いるSAKANAMONも、掴みどころのないまま10周年。誰も取り上げない題材を用いた隙間産業的な音楽は全くブレない。しかし、何とも交わらない空中戦バンドも、インディーズへ戻るという局面を経て、いくらか地に足をつけた。真っ向から現状に対峙する終盤の楽曲、真っ直ぐな彼らも大いにアリだと断言できる。

19位 さよならポニーテール『君は僕の宇宙』

莫大なJ-POPアーカイブスから抽出されたエッセンスを膨らませたオケに、女性5人の歌声が乗る。普通にアイドルとしてやればすんなりいくものを、歌い手を匿名化どころか概念化してしまったややこしいグループ。作品世界もどんどんインナーワールドへと入り込み、You Are My Universeなんて恥ずかしくもどこか共感できる思慕の念を軸に、セカイ系SFチックなラブストーリーを展開させる。最後の曲で、実は"ここにはもういないあなた"へ向けられた思いだったと気づかされる結末も、まんまとツボを押してきやがる。

18位 チャットモンチー『誕生

「恋の煙」のイントロが、シンセで置き換えられていた2017年のチャットモンチー・メカとしてのツアーは衝撃的だった。そんな突発的発想を自身の新作として納得ゆくまで突き詰めたその泥臭さこそが彼女たちの美しさである。ラストアルバムにおいてこの新鮮味、どこまでも面白いロックバンドだった。少女の危うさと脆さをぶつけながら世に出た彼女たち。そんなチャットモンチーが、橋本絵莉子の息子がコーラス参加した楽曲でその活動を完結させたことの大義は計り知れない。

17位 Shiggy Jr.『DANCE TO THE MUSIC

OKバブリー!と叫びたくなる。いやバブル期なんて知らないし、彼らもリアルタイムじゃないだろうけど、どうしてこんなに華やかで楽しいのか!今までは、オムニバスのような楽曲バリエーションが醍醐味だったが、今作は新旧のディスコ/ダンスミュージックにフォーカスし、アレンジも釣俊輔(agehasprings)がメインで担当するという統一性が、彼らのポップス職人としての姿勢に磨きをかけている気がする。遂に出たか、という初クリスマスソング「magic of winter」も、手練れのソレ。往年の名曲なクオリティ。

16位 カネコアヤノ祝祭

暮らしからするっとこぼれてしまう大切な気分を静かに抱きしめている。それを、こちらがぼんやりしてる時に不意にこっそりと見せてくれるような。ドキっとする、だけども癒される。これは恋じゃないか。泣いているような、あくびしてるようなその歌声が表現できる感情のゲージはどれくらいだろう。弾き語り主体で歌われる剥き出しな魅力もさることながら、ギターが唸るようなロックアレンジが映える曲も素晴らしい。「ロマンス宣言」のような、アイドル風味なポップスまで既にモノにしている。恐ろしい子! 

15位 くるり『ソングライン

ツアーでいち早く収録曲の大半を聴き、その時の予想は「シンプルな歌モノ!」だったが、実際は少し違った。もちろん歌モノに違いないのだが、シンプルとは言い難い幾重にも施されたクラシカルな楽器の鳴りが耳に残る。録音物としての品、それでいて不意に鼻歌をかましたくなる人懐っこさの共存はくるりの不変さだ。サブスク時代にリリースすることから、アルバムコンセプトは無いも同然とのことだが、何となく、そのやりきれない虚しさとか清々しい諦めも一つのテーマとして浮かび上がってくるから不思議だ。

14位 春ねむり『春と修羅

ロックンロールを叫ぶポエトリーラッパーの1stフルアルバム。ゼロ年代日本語ロック発、後藤まりこのエナジー経由、大森靖子以降の"時代と自分を歌う女の子"行き、と言ったところか。"僕"と"君"を宇宙を介して繋ぎ止め、その関わり合うことの痛みを絶唱で爆発させる世界観に否応なく昂る。「夜を泳いでた」にある、<抱きしめあったつもりでいたけど ぼくら自分を抱きしめていたんだ>というパンチラインに射抜かれてしまい、立ち上がれなくなったほど。もっともっと、心だけをボコボコに殴って救って欲しい。 

13位 ストレイテナー『Future Soundtrack

堕天使やガーゴイルまでもが当たり前に存在し、瓦礫と廃墟がいっぱい出てきた彼らの初期の詞世界から考えると、「もうすぐ君の名前を呼ぶ」や「Boyfriend」とはどういう風の吹きまわしなのか、とも思う。しかし、根底にあり続けた美しさへの希求が形を変えただけだとすれば納得できる。青くピュアな気持ちへの肯定。それが今のストレイテナーを形づくっている。ダンサンブルなミドルテンポを軸に、シンセで作り出す立体的な広がりを持った音も、円熟味と実験精神が見事に調和し合っている。

12位 Homecomings『WHALE LIVING

これまでの楽曲の訳詞を読めば分かることだが、英語であれど秀逸な物語を描けるバンドなわけで。それが遂に日本語で紡ごうものなら、それはそれは筆の走りまくった、、、とは意外にもならず、あくまで歌として耳馴染みの良い言葉選びが丁寧になされている。伝わらなかった思い、言い出せなかった言葉が流れ着く場所として設定した"クジラの住処"の世界観は、現実の先にあるすこしふしぎな場所として、Homecomingsの存在そのものを模しているかのよう。まどろみのようにそっと寄り添う音像も、ひたすらに愛しい。

11位 04 Limtied Sazabys『SOIL

メロディックパンクのマッチョなテンションを、軽やかな熱に変換して乗りこなすというやり方で瞬く間にシーンを駆け上がったフォーリミ。世代のセンターとしてのシングル2曲をヒットさせつつ、素っ頓狂な歌唱で迫る「Galapagos」、あざとさ満点の「Kitchen」など、アルバムとしてはハチャメチャで腕白な一面が全開になっている。彼らにしか踏み慣らせなかった土壌の上で育まれた、ライブハウスから野外フェスまでを一網打尽できるナンバーの数々。いつまでもキッズの希望で在り続けると確信した。

10位 星野源『POP VIRUS』

心臓が血液を送って生命を保つのと同じで、星野源が音楽を世間に送ることは重大な意味を持つ。シーンの流れを変え、国民の口ずさむ歌を変え、人々のダンスを解き放った。その変化はまた星野源へと還っていき、彼は新たな音楽を生成した。大動脈から血が飛び散っているようなジャケットは、彼の狂気じみた音楽への執念を汲み取ったのか。「Continues」や「Hello Song」で恒久の時間軸を描いたのは、肉体で終わっても音楽は残り続けることを本気で信じているからなのか。国民的スターが仕掛けた極上のパンデミック。

9位 ネクライトーキー『ONE!

「オシャレ大作戦」と「がっかりされたくないな」のコンボで泣いてしまった。これは紛れもなく僕の為の音楽だ、と思わず立ち上がってしまった。いい年なのにまだどこかで自分の無限な可能性を信じてるし、そのくせメンタルは雑魚だから波風立たぬよう振る舞っている。「だけじゃないBABY」の<妄想の中じゃ負けがない それじゃどこまででも置いていかれるぞ>というフレーズが突き刺さる。飛び道具だらけのぴかぴかな装飾+電波系で健やかキュートな女子声、その内側で疼くのは僕らの痛み。涙が止まらない。

8位 羊文学『若者たちへ

初聴時の感想はここに。ジャケット大賞でしょう、強すぎる顔。平成が終わるだのなんだの言われて急かされた夏だったけど、結局は自分のことと君のこと、それぐらいしか重要でないと思わせてくれた。塩塚モエカのツイートを借りれば「人生疲れ丸」な僕らも、一緒に安眠できる轟音だと思う。

7位 クリープハイプ『泣きたくなるほど嬉しい日々に

これまでのアルバムはすべてツカミは疾走感のある楽曲だったが、本作は重厚なバラード「蛍の光」から始まる。柔らかな印象の楽曲が多く、リズムパターンも多様化し、「禁煙」のような彼らのスタンダードナンバーにすらストリングスが大々的に導入されるなど、新たな幕開けを予感させるアルバム。2012年以降、ロックバンドがメジャーで生きていく波乱のドキュメントで在り続けた彼らの作品群は、遂にこの祝祭感溢れるタイトルへと辿り着いた。その終曲が「ゆっくり行こう」であること、それが全てな気がする。

6位 AL『NOW PLAYING

andymori+長澤知之、この字面だけでワクワクさせられた結成時。1つのバンドとしてよりまろやかに混ぜ合わさった2ndアルバムは、とても聴きやすくポカポカした心地になれる。小山田壮平と長澤知之、両者共に歌う"業"にかられてしまうソングライター2名ゆえ、ずっしりとした曲も多かった1stから一転、お散歩を促進させるような温かな陽気に満ちている。重層的に施されたコーラスワークや異国を思わせる神秘的なアレンジも、ここではないどこかへと逃避させてくれている。 

5位 蓮沼執太フィル『アントロポセン

バンド自体の印象はこちらに。地質時代としての"人類以降"を指す言葉を銘打った今作は、柔軟に変貌する楽曲に乗せ、時空や世界を往来しながら、人と人のコミュニケーションが描かれる。この緻密に構築された音楽を断面図にしたらば、とびきり美しい模様が生まれるはず。

4位 フレンズ『コン・パーチ!

フレンズは、趣味の合う友人同士のオールナイトカラオケのような、そんなノリが地続きなバンド。ひろせとえみそんが声を重ねる歌は、気になるあの子と好きな曲をデュエットした時のあのむずがゆい感じがそのままパッケージされているようだ。メンバー全員が数個のバンドを経て辿り着いたという物語性を極力排した、CDTVのあの頃の名曲ランキングのような気楽さは逆にとても凄いことな気がする。J-POPが続く限り、彼らのアイデアは尽きることない。楽しいことを楽しいままやれるバンドはかっこいい。 

3位 UNISON SQUARE GARDEN『MODE MOOD MODE』

世界の流行とか最先端のリズム/歌唱とか、全く無視をして好き放題やるユニゾンの流儀がこの眩いアルバムに刻まれている。何がモードな音楽で、どういうムードが最適か。彼らにとってはそんなことは問題ではなく、ロックバンドの自由を謳歌する喜びにしか興味がなさげ。だからこそ、「差し出された手は噛み千切る」と初っ端から宣言してしまうし、シングル級の名曲を揃えられるのに変な曲も沢山入れる。しかしトドメに「僕の手握っていいから」なんだから、こっちも笑ってついていける。それが堪らなく嬉しい。 

2位 きのこ帝国『タイム・ラプス

大きい感想はこちらに。全国ツアーも行われず、音源で完結したような雰囲気もある本作。聴くたびごとに違う思い出を揺さぶってくるような。刹那の輝きのようなものが真空パックされた、永遠と一瞬が一体となった美しき青春のアルバム。

1位 ASIAN KUNG-FU GENERATION『ホームタウン

大きい感想はこちらに。アジカンは随分と長くファンで、初期作の好き度合いが強すぎて近年のアルバムはあまり上位に来ることがなかったのだけど、今年は心の真ん中にストンとハマった。上位3作は僅差だけど、今年はこれ。音楽、社会、どちらの未来も見つめる眼差し。ロックバンドは良い。


<1-10位>
1位 ASIAN KUNG-FU GENERATION『ホームタウン』
2位 きのこ帝国『タイム・ラプス』
3位 UNISON SQUARE GARDEN『MODE MOOD MODE』
4位 フレンズ『コン・パーチ!』
5位 蓮沼執太フィル『アントロポセン』
6位 AL『NOW PLAYING』
7位 クリープハイプ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』
8位 羊文学『若者たちへ』
9位 ネクライトーキー『ONE!』
10位 星野源『POP VIRUS』

<11-20位>
11位 04 Limtied Sazabys『SOIL』
12位 Homecomings『WHALE LIVING』
13位 ストレイテナー『Future Soundtrack』
14位 春ねむり『春と修羅』
15位 くるり『ソングライン』
16位 カネコアヤノ『祝祭』
17位 Shiggy Jr.『DANCE TO THE MUSIC』
18位 チャットモンチー『誕生』
19位 さよならポニーテール『君は僕の宇宙』
20位 SAKANAMON『・・・』

<21-30位>
21位 ザ・なつやすみバンド『映像』
22位 the pillows『REBROADCAST』
23位 MONO NO AWARE『AHA』
24位 a flood of circle『a flood of circle』
25位 アーバンギャルド『少女フィクション』
26位 吉澤嘉代子『女優姉妹』
27位 teto『手』
28位 おとぎ話『眺め』
29位 BIGMAMA『-11℃』
30位 MASS OF THE FERMENTING DREGS『No New World』

<31-40位>
31位 レキシ『ムキシ』
32位 ベランダ『Anywhere You Like』
33位 Temapalay『なんて素晴らしき世界』
34位 リーガルリリー『the Telephone』
35位 Awesome City Club『Catch The One』
36位 ズーカラデル『夢が醒めたら』
37位 シュノーケル『NEW POP』
38位 2『GO 2 THE WORLD』
39位 キイチビール&ザ・ホーリーティッツ『トランシーバ・デート』
40位 ハンブレッダーズ『純異性交遊』

<41-50位>
41位 大森靖子『クソカワPARTY』
42位 [ALEXANDROS]『Sleepless In Brooklyn』
43位 Negicco『MY COLOR』
44位 SHISHAMO『SHISHAMO5』
45位 tofubeats『RUN』
46位 PEDRO『zoo zoo sea』
47位 indigo la End『PULSATE』
48位 ナナヲアカリ『フライングベスト〜知らないの?巷で噂のダメ天使〜』
49位 マテリアルクラブ『マテリアルクラブ』
50位 夢眠ねむ『夢眠時代』

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