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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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2024年2月の記事一覧

自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

自由だったはずの世界/ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」【映画感想】

ヨルゴス・ランティモス監督がアラスター・グレイの小説を映画化した「哀れなるものたち」。自殺した妊婦にその胎児の脳を移植した人造人間ベラ(エマ・ストーン)と、それを取り巻く男たちを描く奇怪な冒険譚である。

上の記事では原作小説の感想を書いており、どう映像化されているのかという期待を高めていた。実際、映画を観てみると登場人物のバックボーンを描くことを排したことによる寓話性の高まり、そして映像で見せる

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ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

ここは無秩序な現実/アリ・アスター『ボーはおそれている』【映画感想】

「へレディタリー/継承」「ミッドサマー」のアリ・アスター監督による3作目の長編映画『ボーはおそれている』。日常のささいなことで不安になる怖がりの男・ボー(ホアキン・フェニックス)が怪死した母親に会うべく、奇妙な出来事をおそれながら何とか里帰りを果たそうとするという映画だ。

本作は上記記事で監督自身が語る通り、ユダヤ人文化にある母と子の密な関係性、そして"すべては母親に原点がある"というフロイトの

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のっぴきならない【遅日記】

のっぴきならない【遅日記】

妻が産院から退院し、2日間手伝ってくれた義母が帰り、さあいよいよ私と妻と赤子の3人暮らしだ!と意気込んだその夜。のっぴきならない事情でワンオペになってしまった。妻が妊娠に伴う別件で入院になってしまったのである。突如として訪れた私と子のサシの時間だ。

なんせ妻がどういった状態なのかもしれぬまま夜が深まっていく。そちらの不安がまず大きすぎる。無音で過ごすのも落ち着かないのでその時放送されていた「IP

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構造が皮肉〜「哀れなるものたち」【読書感想】

構造が皮肉〜「哀れなるものたち」【読書感想】

叶うならば映画館に行き「哀れなるものたち」を観たかったのだが、子育てスタートダッシュの時期ゆえ困難に。ならば、と思い原作小説である「哀れなるものたち」を手に取って読み進めてみたのだった。

予告編などで受けた印象は幻想的で奇怪な世界観の劇映画だったが、小説を開いてみるとその凝った構成にまず驚かされる。本作は、発見された(とされる)原稿とそれに基づく取材、そして登場人物の手紙や手記を編集した独特の構

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言葉から始まる〜九段理江「東京都同情塔」【読書感想】

言葉から始まる〜九段理江「東京都同情塔」【読書感想】

私はしばらく小説作品から離れていたのだが、本作で一気に引き戻されたように思う。芥川賞受賞、押韻の効いたタイトル、そんな軽い興味からかなり深くまで引きこまれた。まさに今という時節に読むべき1冊だったと思う。

「東京都同情塔」は言葉そのものを巡る洞察に満ちた作品である。牧名沙羅と東上拓人という青年の語りが本作の中核を成している。しかしこの2人の関係性を掘り下げてみると、本作の人と人が通い合うことへの

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