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サイエンスコラム

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宇宙船はブラックホールを避けられるか?(前篇)

宇宙船はブラックホールを避けられるか?(前篇)

 あなたは宇宙船に乗って意気揚々と宇宙旅行にでかけました。ところが宇宙地図に未記載のブラックホールが航路上に存在していたのです。宇宙船はこのブラックホールを検知して回避することはできるのでしょうか?

事象の地平面を捉えよう

 ブラックホールは単に重力が大きいだけの天体ではありません。中性子星のように、超重力・超高密度でありながら何でも吸い込むわけではない天体もあります。ブラックホールをブラック

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海岸線の長さは測れない

海岸線の長さは測れない

 海岸線の長さと木の葉一周の長さが一緒だというと驚くだろうか。
 もちろん海岸線のほうが長いと答えるだろう。実はこの問にはひとつ大きな意地悪が隠れている。実は海岸線も木の葉も、厳密には周長を測ることができない。正確に言えば長さを定義できないのである。
 一方で海岸線や木の葉よりはるかに大きい地球の周長は約40000kmと判明している。地球一周は測れるのに海岸線が測れないとはどういうことだろうか?

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なぜ力に着目すると運動を理解できるのか?

なぜ力に着目すると運動を理解できるのか?

 私達の身の回りの物体は、動きだすか、止まりだすか、ずっと止まっているか、の3つのどれかです。(止まっている物体は運動していないので)運動とは「だす」で表されると言えます。
「だす」というのは運動の変化を表しています。したがって、運動を理解したいと思ったら「運動の変化する様子」すなわち「加速度」を理解すればいいことになります。

 運動方程式とは加速度と力の関係を表す式です。ボールや人工衛星、ひい

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アインシュタインはどこが天才だったのか

アインシュタインはどこが天才だったのか

 アメリカのタイム誌は毎年 "Person of the Year"としてその一年で(良くも悪くも)最も影響を与えた人を選出し、特集記事とそのプロフィールを掲載している。1999年に ”Person of the Century” を企画し、20世紀に最も影響を与えた100人を選出した上で表紙にアインシュタインを掲載した。アインシュタインこそが20世紀を代表する偉人であると認めたのだ。

 アイン

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円周率と重力加速度の浅からぬ関係

円周率と重力加速度の浅からぬ関係

ちょっと計算してみてください 円周率$${\pi}$$と重力加速度定数$${g}$$、この2つには何の関係もないように思えます。ではちょっと計算してみてください。円周率の二乗、3.14×3.14はいくらになるでしょうか?

 9.85くらいになりました。重力加速度定数はだいたい9.81です。
 どうでしょう。非常に似ていると思いませんか?

 実はこの結果は単なる偶然ではありません。円周率と重力加

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運動方程式に科学の精神を見る

運動方程式に科学の精神を見る

「運動方程式」とはものの運動を説明する式で、高校物理で習います。ボールや人工衛星、ひいては太陽の周りを回る惑星の軌道まで知ることができるすごい式です。今回はこの運動方程式のお話です。
 ただしここでは計算はしません。代わりにその背景にあるココロ、運動方程式の裏にある「物事の見方」にスポットを当ててみたいと思います。

とはいえ、まずは紹介から 運動方程式は以下のように書かれます。

$$
\LAR

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君はイカサマを見破れるか?!

君はイカサマを見破れるか?!

 今日は気分転換にサイコロで賭け事をしてみましょう。あまりのめりこみすぎないように気をつけていたのですが、今日の登場人物ゆづる君は720回もサイコロ賭博に付き合ってしまい、胴元に大好きなチロルチョコを巻き上げられてしまったようです……。これはなにかおかしいと出目を記録した手帳を手がかりにイカサマを暴こうと試みます。果たしてゆづる君はイカサマを暴けるのでしょうか?

すっからかんになったゆづるくん 

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それでも地球は回ってますか?!

それでも地球は回ってますか?!

 皆さん、学校で地動説について、

といった程度に、あっさりと習ったのではないだろうか?そして多くの人が地上説を当たり前と思い、当時の人は了見が狭かったんだと思っているのではないだろうか。しかしちょっと待って欲しい。地球が回ってるのは、そんなに当たり前だろうか?

 皆さんにはぜひ、今晩は夜空を見上げて(できない人は目を閉じて)、星といった概念すらさっっぱり全て忘れて、天動説が正しかった16世紀に

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宇宙最強の物質

宇宙最強の物質

 皆さん、中性子星という天体をご存知でしょうか。以前にブラックホールの影が見えたということで大変賑わいを見せましたが、実はブラックホールと同じくらい、いや、ある意味それ以上にぶっ飛んだ星として、中性子星というものがあります。皆さんにそのヤバさと魅力が伝わればと思います。

大きさ、重さ 中性子星の重さは太陽質量の大体1.4倍くらいと言われています。あれ、たいしたことないじゃん、と思うかも知れません

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エントロピーは乱雑さの指標ではない

エントロピーは乱雑さの指標ではない

 今日はエントロピーの話をしましょう。魔法少女まどかマギカのおかげか、理系ネタに過ぎなかったエントロピーという用語も今では人口に膾炙した単語のように思えます。
 ところがエントロピーという用語を説明する際に乱雑さの指標と説明されることが多いようです。例えば散らかった部屋を指して「エントロピーが高い部屋」と言ったりすることもあるでしょう。

 この理解は直観的で説明しやすく、また統計力学との関係にお

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コロナ感染者数の読み解き方

コロナ感染者数の読み解き方

 COVID-19が発生してから、連日感染者数が発表されるようになったが、未だに感染者数が「線形」に表示されていることが多い。しかし、感染者数のように爆発的 (=指数関数的)に増える場合、その変化を正しく理解するためには、「対数グラフ」と呼ばれるものを使うほうが遥かに優れている点が多い。

実際、これを理解していなかったために、特に流行初期の2020年2月前後、メディアも、そして恐ろしいことにおそ

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不思議なフラーレンのつくりかた――研究は『わからない』から始まる

不思議なフラーレンのつくりかた――研究は『わからない』から始まる

 今日はきれいな形で少し不思議な物質「フラーレン」についてお話しましょう。その性質もさることながら、作り方について考えるとなぜ出来てしまうのか首をひねってしまうかもしれません。

天然のサッカーボール フラーレン 世の中にあるきれいな形の物質、不思議な性質の物質の中から、天然のサッカーボールと言われるものを紹介しましょう。名前は「フラーレン」といいます。なんで天然のサッカーボールといわれるかは、画

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位置エネルギーは"ある"のか?

位置エネルギーは"ある"のか?

 ふとネット上で話題になっていたので考え始めたが、よくよく考えてみると、”ある”というのは必ずしも絶対的なものではなく、なかなかおもしろい話題だと感じるようになった。とくに難しい哲学の話をするわけではないが、自分なりに、”ある”とはどういうことなのか、そして結局、位置エネルギーは”ある”のか、考えてみた。(注)が多くあるが、こちらはやや専門的なことが多く、本筋を理解する上では飛ばして読んでいただい

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