似たもの同士の恋愛未満、バーでの会話。
「もうそういう気持ちは忘れて次へ進もうと思っていたのに、あなたといると甘い感情を思い出しそうになるんです。ずるいです」
どういう表情でいればいいか分からなかった。
そんなときは笑ってばかりいる。
「あなたはとても可愛いです。何を悩むことがあるんですか?」
「─でも、自分に自信がないんですよ」
「どうしてですか?あなたが自信がなかったら、僕みたいなのはどう生きればいいんですか」
「見た目のいいときと悪いとき、人がいくらでも反応が変わることを知っているので。それに─」
「見た目しかほめられなかったら、性格や何かに問題があるのかなと思ったりしますし─」
「性格も僕は好きですよ?いや、性格の方が好きかもしれません。話していて楽しいです」
「そうなんですか?自分では欠陥があるんじゃないかと思っていますが」
「欠陥はあるんじゃないですか?」
「え?」
「それはあると思いますよ。でもそれで良くないですか?」
「……」
「そのままで。」
え?
欠陥があってもいいの?
待って、もう少しで答えが見える気がする
気のせいでもいい。
「あなたといると楽しいです」
「これが明日も続けばいいな、と思うんです」
「でも─」
未来を思い浮かべたときに、どうなるか。
相手が私を好きかどうか関係なく
一緒にいる未来を想像したらどうなる?
話が合って、一緒にいて楽しい。
どう思考を変えたら「刹那的」になるのだろう?
続いていくなら怖いものなんてないはずだった。
「でも、あなたは僕ではだめですよ」
「僕でいいわけがないです。自信がないです」
「でも、どう思ってるんですか?私のこと。」
「好きですよ。ずっと好きですよ。」
じゃあ、いいんじゃないの?
眠る前にずっと考えている。
お互いたぶん、変わりもの同士だから。
だから、「通ってきた」痛みなら分かる。
「周囲にはラクに、しがらみなく生きていると思われるのかもしれません。でも別にそんなにラクではないです。私は」
「うん」
そして、あなたも「そう」思われていますよね。
きっと何も悩みなく、自分の生きたいように自由に生きているのだと。
「いつも本当の自分を出せないんです。というより、出したら離れていくんです。本当の自分ってなんなのかよく分からないですけどね」
「みんな最初はかわいいと言ってくれます。私の明るい部分だけを見て、来てくれるんだと思うんです」
「明るい?」
「明るくて優しい、いい人だって言われがちなので。でも本当は」
「あなた、暗いですよね?」
「へっ」
予想外の台詞にまぬけな声が出た。
「暗いって思ってましたよ。最初から。笑」
「─なんで」
そんなところ見せていないはずなのに。
「気を使いすぎているでしょう。僕にさえ」
「………」
「なんていうか…場に、合わせすぎますよね?」
「……だってそのほうが、『役割』がいいかなって」
「ほら、そういうとこです」
ずっと笑っていたのに
なんで、明るいって思ってくれなかったんですか?
なんでバレているんですか。
「でも、きっと『どっち』もありますよ。光だって─」
「思わず手首に傷がないか見ましたよ」
そ、そんなにか。
「それはないです。一度も。ただよく絶望はしますよ」
「絶望」
「まあ、寝れば治るんですけど。そっち側に行くのはこわいです。今はまだ」
「大丈夫ですか」
「うん」
「病院へ行くって聞いたとき、心配しました。まさか『何かの薬』でも飲んだのかなって」
「いやあの、それ、ふつうに健康診断に引っかかった検査の日だったんですが……」
「いやほんと、心配しました。」
そうか。
あなたは心配してくれるんだね。
なんか勝手に勘違いはしているけど
心配は本当の感情だものね。
「実際、会うまでのこの1ヶ月ぐらい、考えてましたよ。結婚するとしたらどんな感じなんだろうって」
「へえ。………えっ!?」
「考えていたんですよ。まだ答えは出てないですけど」
「それって、私とってことですか?」
「もちろんそうです」
「─会うまでにそこまで考えてくれていたんですか?それは全く予想していませんでした」
そもそも付き合ってもいないのだから。
ではこれは、なんだろう?
「本当の自分って、なんでしょうね?」
分かりません。
分からないけど、おそらく、
たぶん、私たちは
心の声をそのまま、いつもと同じ表情で明かせる場所がなかったのでしょう。
素直な心の声を発してもいい場所を探しているんでしょう。
似たもの同士の、明るい色のマスクをつけて
周りと楽しいことばかり話していても
言いたいことなんて マスクに隠れた半分も
全然言えていなかったのだから。
もう少し話したいわ。話せないの?
答え合わせをしようなんて言わないけれど。
なんで何も言わないのに最初から「知っている」のか、私はもう少し
あなたに聞いてみたいから。
「電車に乗ったほうがいいですよ。僕の気が変わらないうちに」
「ありがとう。また会いますか?」
「もちろん」
なんとなく、これで終わりは「よくない」なと思った。
完全に、こちらの事情なのですけど。
検証が、足りていない。
好きだと言ってくれたから、呼んだのかな。
それとも─
それだけじゃ、ない?
決意の邪魔はしたくない。
だからとても難しい方程式のように
ずっと考えている。
でも、
私は戻りたい。
本当の自分ってやつに。
ふつうに暗くて、たまに明るい
物事に対して、あきらめたいのにあきらめない
優しいと言われても、優しくない感情だってある
そんなふつうの自分に、戻りたいよ。
あなたは?
あなたは「どっち」に行くのですか?
検証が、足りていない。
「そういうのって、なんだか、あれみたいじゃない?」
「シュレディンガーの猫」
さてその解は、その箱を開けるのは、
一体いつになるでしょうね。
(20201207)
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