記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『ファルコン・レイク』をみる。

『エリザベート1878』鑑賞直後、興奮冷めやらぬまま筆を執りました。

自身初となる大阪ステーションシティシネマ。映画レーベルSUNDAEが放つ初の長編映画公開とあって、胸躍っております。カンヌ映画祭でも話題沸騰となった新星シャルロット・ル・ボン監督作『ファルコン・レイク』をこの度、見事に狙い撃ちます。しっかしまあルクア大阪の11Fなんて行ったことがないですから、随分歩きましたし、随分彷徨いましたとも。幽霊みたいに。

バスティアン・ヴィヴェスによるバンドデシネ『年上のひと』が原作。14歳を間近に控えた少年バスティアン(ジョセフ・アンジェル)が、2年振りに母の友人ルイーズと16歳の娘クロエ(サラ・モンプチ)の元をバカンスで訪れる。言わずもがな「思春期の入口と出口」のメタファーである13歳の男子と16歳女子の恋模様を、時に際どく明け透けに描く珠玉の100分間。

曰く「男は理性的で、女は感性に生きるもの」だと教えられたものでした。一概に年下だからといって、あるいは年上だからといって経験値に優れ優位に立てるとは限らない。おませさんな中2がいたって、初心な高1がいたって良いはずだったんです本来的には。立場は常に逆転すべきものですし、大人が考えもしないような「理性」や「感性」を超えた価値観があり得るはず。

家族の目を掻い潜って、昼間からワインを呑んだり夜のクラブに出歩いても良い。「子どもと大人」の間で絶妙に揺蕩うからこそ、彼らの情緒が育まれ一生に一度の記憶や想い出が醸成されるもので。ふと大人になってからそう気付く場面って本当に多いのですよね。ティーンの思い付きからくる衝動はどこかいつも歪んでいて、屈折していて。色々な葛藤を思い出させる映画。

一転、大人の目にはヒヤヒヤとさせるような間接的性描写の数々には思わず息を呑みました。何か「見てはいけないもの」をみているような。圧倒的。想像も付かないような純朴で荒削りな感情の数々が、激しく寂しく胸打つ。不気味なオープニングカットから、湖の幽霊、真夜中に自転車を漕ぎ出したシークエンスに至るまで終始全てが不気味な波乱と予感に満ちていて。

夏休み最終週の8月25日に今作が初日を迎えたことにも大きな意義がある。同じく夏のバカンスを描いた秀作『Aftersun』に肩を並べ、あるいはそれを凌駕するような勢いも感じさせる。そんなレビューが各所で並んでいます。同列で鑑賞を終えた、恐らく一回りくらい年下の映像関係者の若者はエンドロールの後もしばらく席を立てぬままひたすら大きく息を吐いていました。

毎度恒例、メタ考察のコーナーです。主宰は在学中、裏山での映画撮影中に少なくとも二度「心霊体験」をしています。その内本作同様水辺で、数人の足音に追いかけられた経験があり当時の映像にも克明にノイズが刻まれた。やっぱりあながち嘘でもないんですよね、「確実に出る」んです水辺には。クロエが嘯いた心霊体験は、悲しくも現実のものとなってしまった。

例えば「クロエの存在すら幻だった」という見立てはどうでしょうか。帰宅の途に付くはずのバスティアン一家をなぜクロエは送り出さなかったのか。「あの湖」でバスティアンが来るのをずっと待ち詫びていたのは、ひとえにクロエ自身が幽霊だったからなのではないか。観客達は不穏なオープニングからずっと、悲しい湖の伝説に引き摺り込まれてしまっていただけではと。

(追記:劇場で流れていた肥薩おれんじ鉄道のCMソング、とっても素敵だ!!)


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?