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【小小説】ナノノベル

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2021年2月の記事一覧

流星の旅

流星の旅

星になりたい?
ふっ 星は消えるんだぜ

流れ始めた俺を
認めるや否や 
誰もが手を合わせる

「愛をください」

近くに頼るものがないのだろうか

「あ、えーと、えーと」

見つけてからでは遅いんだよ
普段から秘めておかなきゃ

偶然の座標で
すれ違った銀河列車
きっと行き先があるのだろう

立ち止まるってどういうの
途中下車ってどういうの

何にも関わることなく
何にも触れることなく
どこまで

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未来キャッチャー

未来キャッチャー

 気の抜けたサイダーを捨てた。(捨てようとした)けれども、突然現れたグラスがすべてを受け止めていた。呑み込めぬ現実が、澄んだままこちらを見ている。
 くすぶった煙草を投げ捨てた。(捨てようとした)けれども、突然見知らぬ者の唇が現れて、煙と誘惑のすべてを引き継いで行った。

「もういらない」
 黒い歴史を破り捨てた。
 次の瞬間、どこからともなく和パスタが現れて闇を受け止めた。それはきざみのりとなっ

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記録するサル

記録するサル

 ライオンが歩いてきた。ライオンが歩いてくるとはこのことだ。狐に毛が生えていた。狐に毛が生えるとはこのことだ。まさにこのことよの。のーサルよ。サルよ、おるかー。虫が飛んで日が暮れてきた。虫が飛んで日が暮れるとはこのことよ。まさにこのことよのー、サルよ。サルよ書いておけ。

 もうすぐ雨が降りそうだ。雲行きが妖しいとはこのことよ。俺たちは横断歩道を渡る。横断歩道を歩いて渡るとはこのことよ。疑うまでも

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雨上がり鴉は街に

雨上がり鴉は街に

お、何だい鴉の野郎
でかい顔して下りてきやがった

「今日はあの猫はきてないのか
いつもならあの店の扉があいて
いつもあいつは背中丸めて
缶詰食べてるのに
まあ今日は雨だしな」

鴉が何ぶつぶつ言ってやがんだ

チャカチャンチャンチャン♪

「今日は雨で
雨だからどこかに
隠れているのかな
空腹を抱えながら
どこかで雨を待つのか
それとも他に行ったのか
僕はあの店先の
あの猫しか知らないからな

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時代対局 ~こんな対局あったらしいな

時代対局 ~こんな対局あったらしいな

 屈んだ拍子にワイシャツのポケットから鉛筆が落ちた。おかしなことに畳の隙間に挟まって抜けなくなった。無理に引くと逆に引き込まれ深い穴の中に落ちてしまった。 
 気がついた時にはもう対局が始まっていた。
 タブレットがない!
 机の上には対局時計と記録用紙、それに鉛筆と消しゴムだ。
「指したよ」
「あっ、すみません!」
 僕は慌てて棋譜に4三銀と書き込んだ。
(先生?)
 棋士の先生は2人とも30年

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寝るひまない俺ら

寝るひまない俺ら

「俺最近ちゃんと寝てへんねん」
「俺もそうや」
「横にもならへん」
「俺もやわ」
「俺無茶苦茶忙しいからな」
「俺の方が忙しいわ」

「だいたい立ったまま2、3秒くらいや」
「俺1、2秒くらいや」
「食わなあかん、遊ばなあかん」
「俺仕事もあんねん」

「俺もや。食って寝たら牛になるやろ。起きたらまた人や。俺そんなん嫌やねん」
「俺も嫌や。それやったら起きとく派や」
「俺もそっち派や。誰がわざわざ

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パートタイム・ストーリー

パートタイム・ストーリー

 仮の母が朗読を止めた。
 オフタイマーが働いたのだ。
 静寂に目を閉じているのは耐え難かった。復活した秒針がチクチクと空気を伝わって突き刺してくるのだ。
 やっぱり無理だ。
 もう一度、仮の母を起動してオフタイマーをセットする。(これで何度目だろう……)
…… 45分 ……
 前より長くセットしておく。
 もしも、僕が先に眠ったら、消えてもいいよ。

 それというにもそれにはそれなりのそれがあっ

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お忍びカラオケ

プルルルル♪

 10分前だ。ちょうどサビの部分だった。いつもいいところで電話がかかってくるのだ。
「延長よろしいですか?」
「あっ、大丈夫です」
「いえ、その、そうではなくて」
 どうも店長の様子が変に思われた。

チャカチャンチャンチャン♪

 フロントまで行くとスタッフ一同が私を出迎えている。
(いや、どういうこと?)
「もうちょっと歌っていただけませんか?」
「えっ?」
「みなさん喜びます

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孤独の星

孤独の星

 知的生命など存在しない惑星が、どこかにある。宇宙は想像を超える広さのはず。まだ知り得ないというだけで、どこか遠いところに静かな静かな惑星だってあるはずだ。
「どこかにきっと……」
「あるわけないよ。どこに行っても人でいっぱいよ」
「やっぱり、そうか」
 変人扱いされることを恐れて、私は自分の本心を隠した。


 
出会うということは

たまたまそこを通りかかること(運命)
そこにあるものに目を

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オート公開(熟成の終わり)

オート公開(熟成の終わり)

 1週間の間、新規投稿が途切れていた。オート公開機能が働いて、下書き保存されていた記事が公開され始めた。下書き期限が切れたのだ。決して忘れていたわけではない。いいとこまで行っていたものの、集中力を欠き完成に至らなかったのだ。「ああ、もっともっと、熟成させてみたかったな……」しかし、これはサイトの仕様なので仕方がない。(わるいのは自分と言い聞かせるのみ)

「よくわかりません」
「雑な印象を受けまし

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フード・ライター

フード・ライター

 おばあさんは星のない名店をいくつも知っていた。外観はお世辞にも綺麗とは言えない。暖簾は黒ずんでいて店の名前も半分消えている。扉を開けて中に入れば、どこか別世界に足を踏み入れたような気がする。そんな店によく連れて行ってもらった。
 腐りかけた壁にメニューとは違う絵を見つけた。

「あの抽象画は?」
「あれはね、サインと言って人の名前よ」
「サイン? キャッチャーが出す奴?」
「手書きと言ってね、マ

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宮大工の子守歌

宮大工の子守歌

 何もしないのにビー玉が転がっていくということは家が傾いていた。不動産屋さんにかけるとすぐにつながった。
「そちらは途中物件になります」
 契約書を確認せよとのことだ。
 クローゼットを開けると宮大工が潜んでいた。
 あくびを一つして「もうきたの」という顔で起き上がった。ポケットから取り出した鉢巻きをきゅっと頭に締めると突然気合いの入った顔つきになった。

「途中やねん」
 やはり不動産屋の言葉に

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万能鬼コーデ

万能鬼コーデ

 寒い日には鬼のように着込んだ。鬼のようなニット帽、鬼のように長いマフラーを巻いて、鬼のようなブーツを履いていた。空が鬼のように高かった。吐く息は鬼のように白かった。鬼のように混んだカフェの前では鬼のような雪だるまが、道行く鬼のように着膨れした人を招き入れようとしていた。鬼のような青信号。街頭テレビジョンに映る鬼のような大臣。鬼のような棒読み。鬼のように足を止め、鬼のように聞き流す人々。

 困っ

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ノー・ディッシュ(3秒の約束)

「知ってるよ。あんたたちは地面に落ちた物は食べないんでしょ。それをこっちには平気で投げてくるよね。なに? 皿を出すのが面倒くさいの?」
「大丈夫。君は3秒で拾うから」
「えっ、プレッシャーかけてるの?」
「人と獣、信じ合えばこそだよ」
「信頼って」

「ほれ!」
「おー、きた!」
「ね」
「3秒もいらん。1秒じゃ!」
「やっぱり速いじゃない」
「もう1つよこせ!」
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