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雑文ラジオポトフ

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2022年7月の記事一覧

「職場」を見に行く 第1回(全5回)

「職場」を見に行く 第1回(全5回)

第1回 光さす畑いま住んでいる部屋に引っ越してからなので、まずはここ一年ほどの話になる。ある日スマートフォンでグーグルマップを見ていると、それまで行ったこともない場所に「職場」という青いピンが立っているのに気がついた。それは、どう見てもわたしの職場ではなかった。

畑。航空写真で見てもストリートビューで見ても同じ、知らない畑だった。たしかに誰かの職場かもしれないが、わたしの職場ではない。アカウント

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「職場」を見に行く 第2回(全5回)

「職場」を見に行く 第2回(全5回)

第2回 職場を革命する者その朝、わたしはお仕着せのモーニングルーティーンから解放され、ゼロからの自由意志で「職場」に行くことを決意した。

いくら多様化が叫ばれようと、出勤には朝のイメージがある。おとといも朝。きのうも朝。きょうもあしたもあさっても朝。毎朝毎朝。永遠に続く運命の輪を断ち切るような決意で、わたしは宣言した。

よし、きょうは「職場」を見に行こう!

新鮮だった。その新鮮さを軸に遠心力

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「職場」を見に行く 第3回(全5回)

「職場」を見に行く 第3回(全5回)

第3回 だから僕はそれ(出勤)をするのさ東村山駅とはちがい、ふだん本川越駅を利用することはまったくなかった。が、ややこしいことに数日前たまたま「つまずく本屋ホォル」という本屋を訪れるために利用したばかりでもあった(そのへんのことは前回書きました)。

「ホォル」店主との短い会話を思い出す。

店主「きょうはなにかのついでに?」
今田「いや、この店ねらいうちで来ました」
店主「ありがとうございます~

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「職場」を見に行く 第4回(全5回)

「職場」を見に行く 第4回(全5回)

第4回 職場の果て正午に家を出て、もう夕方になっていた。

「出勤」も終わりが近づき、短い時間でしたが、密度の高いかけがえのない体験ができたと思います。

と書くのはあまりにかんたんだ。

もともと嘘八百を並べるのに抵抗を感じない犯罪予備軍タイプだから、「出勤」を終えて自宅でパソコンに向かっているいま、今回の体験を通じて感じた「出勤」の有用性を家族や友人や職場の仲間に広めたいという気持ちでいっぱい

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「職場」を見に行く 第5回(全5回)

「職場」を見に行く 第5回(全5回)

第5回 僕の存在証明いつまでだらだら書いてるんだ、と思ったので今回で終わりです。なにを書いてたんだっけ?と振り返ってみると、

ある日、グーグルマップ上で見ず知らずの畑に「職場」というピンを立てたバカ(演:今田)が、実際にここに行こう!と思い立ち(第1回)、その一連を「出勤」と呼ぶと決めて出発し(第2回)、電車とバスと徒歩でじりじりじりとバカを進行させ(第3回)、いざたどり着いたら誰かが畑を耕して

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シャワーを浴びすぎたとき

シャワーを浴びすぎたとき

 かなり小声で言いたいが、わたしには「外出ぎりぎりになってシャワーを浴びて遅刻する」という癖がある。遅刻は悪だ。許されない。わたし自身も遅刻していいとは思っていない。

 だからすぐに謝る。人として当然の態度だ。

 状況や相手との関係性にもよるが、たとえば、正直に「すみません、シャワーを浴びていました」と告げる。場合によっては「シャワーを浴びすぎました」と言うこともある。しかし、これらでは単純に

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ゴーヤチャンプルー・メディテーション

ゴーヤチャンプルー・メディテーション

 2年前のものと思っていた日記が1年前のものだった。きょうもそこから書き写します。

 ゴーヤチャンプルーを作った。人生で2度目だと思うが、1度目にあったことはぜんぶ忘れていた。ネットでレシピを調べ、ようやく卵を使うことを思い出す。ゴーヤ、豆腐、豚肉などが炒め合わされたのち、最後に卵。結果、ほぼ「卵とじ」のような按配になった。

 レシピには、鍋に卵液を流し込み「そのまま10秒待つ」とあった。この

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映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

 サー・リドリー・スコットにわたしが抱く印象は「おしゃべり大好きおじさん」だ。もちろん「映像の魔術師」であり、だからこそ、いろんな物語をいろんな語り口で見せてくれる楽しい紙芝居屋さん的な印象がある。

 今回も「語り」にノリノリで嬉しくなった。べつに小気味のいい音楽で物語をばんばん進めていくわけではなく(それはスコセッシ)、たとえば夜の怪しいパーティーシーンの直後にぽん、と昼の街中のシーンが入り、

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ラベルレス時代

ラベルレス時代

 誰も知らない新しい時代に突入した。ペットボトル飲料のラベルがない時代、ラベルレス時代だ。水も緑茶もラベルレス。資源の節約になるし、分別の手間もなくなる。

 焼肉のタレはどうだ。

 厳密にはびんだが、これがペットボトルになれば当然ラベルレスのえじきである。どの商品もどろどろした茶色。ラベルレスになればもう見分けはつかない。手元にある「エバラ黄金の味・中辛」のボトルをぐるっと見る。なぜ手元にある

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角煮妄想

角煮妄想

 角煮角煮と言うけれど、豚を角に切ったのはわれわれ人間のほうだ。そのことに気づいて以来、角煮を見ると人間の傲慢さを思い出し吐き気がするということはなくばくばく食べる。

 料理のネーミングで言うと「よだれ鶏」だ。思い出すとよだれが出てしまうほどおいしい、みたいな意味だと思うが、どうしてもくちばしの端からだらだらよだれを流しつつ襲ってくる狂ったにわとりをイメージしてしまう。

 その狂ったにわとりを

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映画『ザ・バットマン』のこと

映画『ザ・バットマン』のこと

 マット・リーヴス版のバットマンは言ってみれば映画館で観る2時間ドラマ。金と権力と怨嗟。それらをセリフだけで強引に語るのを厭わぬやり口。いかにもな「骨肉の争い」もあり、2時間ドラマはこうこなくっちゃ!という味わいで……あれ?

 3時間ある(2時間55分)。

 長い。画面も暗い。それはそれとして、ペンギンを抑えてメインヴィランの座をゲットしたのはリドラー。彼の出番は上映開始から(たぶん)2時間以

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映画『ブラック・フォン』のこと

映画『ブラック・フォン』のこと

 見た目もストーリーもぜんぜんちがうのに『ドライブ・マイ・カー』や『春原さんのうた』と似ていた。中心にあるのは遺された者の心のうごき。

 主人公の気弱な少年フィニーは連続誘拐犯によって暗い地下室に閉じ込められてしまう。断線しているはずの壁掛けの黒電話が鳴り、出ると相手は誘拐犯に殺された被害者(の幽霊)だ。幽霊は何人もいて、代わる代わる電話をかけてくる。うちひとりはフィニーをいじめから救ってくれた

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地元のチラシ

地元のチラシ

(2年前に書いたものを元に書き直しました) 

 実家の母親から荷物が届いた。あるメーカーのパックごはんのロゴが書かれた段ボール箱。開けるとやはりパックごはんが入っていたが、そのほかにマスクやハンドソープも詰められていた。底のほうには缶詰やレトルトのカレーがあり、それらから液漏れした場合の対策だろう、さらにその下には地元のスーパーの安売りチラシが敷かれていた。それでわたしは知らされた。

 4月5

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五色米

五色米

 五色米を検索した。ごしきまい。忍者が使う物理的な暗号で、色を付けた米粒の組み合わせにより1文字1文字を表すことができるらしい。

 伊賀流忍者観光推進協議会のページでは一例として母音と子音の組み合わせで説明していた。要するにローマ字である。

 たとえば「あなた」という3文字なら

青米1粒(=母音a)
+青米1粒(=子音ア段)
=あ

紫米1粒(=母音n)
+青米1粒(=子音ア段)
=な

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