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エッセー
地球的正義とは何か?
~若者の反戦運動を考える~

 僕が子供の頃は、テレビや映画で時代劇全盛の時代だったから、母親に連れられて近所の映画館に行き、中村錦之助の主演映画を良く観たものだ。銭形平次や水戸黄門もテレビで良く見ていた。チャンネル権が母親にあったからだ。しかし流石に高校生になると、見ることにウンザリして、自分の部屋に引っ込むようになったが、夕食中にやっていると飯が不味くなったのを覚えている。

 毎回ストーリーは変わるが、そのパターンはどれも似たり寄ったりで、粗筋を貫く背骨は「勧善懲悪」だ。色々難しい局面を迎えても、善イコール正義で、結局正義は勝って、悪は滅びる。しかし大人になると、善イコール正義ではないことが、分かるようになる。それを理解すると、馬鹿々々しくなって時代劇を二度と見ないようになる。善イコール正義ではないことを理解できない人たちが多いことも分かるようになって、落胆するからだ。

 時代劇の悪者は、最後に必ず正義の刃に切られて殺される。時代劇にかからわらず、多くのバトル映画も同じだ。最終的に悪が滅びなければ、それは第二弾を出そうとする興行主の策略だ。破壊魔ゴジラは永遠に復活し、興行主を儲けさせる。しかしその場合も、その映画においては、悪役は必ず死ぬか壊滅する。そうでなければ、未完決だ。怪獣は興行主の意向で、ゾンビのようにいずれ復活する。しかしB-29の空襲で破壊され尽くした東京は、敵を駆逐することもできなかった。これは日本人にとっての善や正義が破壊された最初の経験で、日本人の心は深手を負った。しかし、彼らの逞しい本能は心を癒す妙案を見出した。戦後とたんに彼らは感性を180度転換し、敵国を愛するようになったのだ。彼らにとって支援物資をもたらす米国人は神となった。ぼくはそんな時代に幼年期を過ごしたから、その状況を覚えている。善と悪の価値観は、かように軽いものなのだ。

 人間は基本、善悪二元論で生きている。そして善には正義、悪には不正義が付随し、社会内存在としての人生はややこしくなる。善も正義も、ある種の信仰だ。人は特定の神を信じると、その神は善で、他の神は悪と思うようになる。そしてその神が最高峰の善であるとすると、異教徒は悪となり、異教徒を殺すことは善となる。殺人は常識的には悪だが、信仰は常に常識の上に位置し、神のために殺すことは許される。するとその殺人は「正義の殺人」となって肯定される。詐欺まがいの収奪も、常識的には悪でも、信者にとっては善的行為となる。打算や憎しみが常識の上に位置した場合、人は時によって他人を殺す。ならば信仰は、打算や憎しみと同じエゴの一種ということになる。もちろん、善悪の基準もそうだ。

 この延長線上にスポーツがある。ファンは、贔屓のチームを善と見なして応援する。野球では、地元民は地元チームを「善」と見なす。このとき、相手チームは「悪」として仮留めされる。そして地元チームが勝った場合、内心「正義は勝つ」といった感覚で心から喜ぶ。サッカーでもボクシングでも、日本のチーム、日本人ボクサーは善で、外国チーム、外国人ボクサーは悪と仮留めされる。だから負けた場合、国民は「善」が打ち砕かれたと落胆する。プロレス・ショーでは、最初から英雄役と悪役に分けられ、悪役は反則技を多用しながら、結局は敗れるストーリーになっている。

 そう考えると善悪は気分的なもので、入口がそうなら、真の善、真の悪も曖昧な概念になる。世界中の人々が、自分の立場や感覚で「善」と「悪」を区分けし、その「善」に「正義」という雄々しい言葉を付与する。正義は、自分の善を具現化するための意志や手段で、それを成し遂げた場合は「正義は勝つ」と自我自賛するわけだ。しかし「善」が元々手前勝手なものだから、正義も手前勝手な概念ということになる。

 そうなると、この善と悪は、人の人生における「選択」と変わらない概念に引きずり降ろされる。人間は誰でも、人生の中であれかこれかのチョイスを行いながら死ぬまで生きていく。学業にしろ、仕事にしろ、幾度か目の前に分岐点が現れ、どの方向に進むかをチョイスしながら長い人生の道のりを進んでいく。その選択が正しければ人生は思うように進み、悪ければ人生も苦労することになる。良い選択が「善」で、悪い選択が「悪」だ。しかしそれは、人生設計という打算的な感性が働いた結果の「善」なのだ。つまり、善悪は崇高な哲学的概念であったとしても、その根元には個々の人生という打算的な概念がこびり付き、常に足を引っ張られていることになる。仮にそれが崇高なものでも、打算に引っ張られれば歪みが生じ、この善悪はおかしな形態を持つことになる。あるいは仮に理想的な選択をしたとしても、周りの社会が打算で流れていれば、しっぺ返しを食らって窮乏し、「人生の選択を間違えた」と後悔する。

 それでは崇高な哲学的概念である「善」とは、何だろう。それは、「善」の周りに纏わりついた、多種多様な「打算」の汚れを払拭し、普遍的な「善」を見つめることだ。それは、プラトン流に言えば、「善」のイデアを感じることに他ならない。そんなものは存在しないと思うだろうが、立派に存在する。「善」のイデアは、極めて単純なワードで構成されている。例えばそれらを二、三紹介すると。
〇基本的人権
〇汝、殺すなかれ
〇汝、盗むなかれ
 と、いうことになる。これらは、世界市民に共通する普遍的な「善」を表した言葉だ。ここには国や民族、宗教、派閥、地元主義の打算が一切含まれない、人類に共通の「善」および「正義」と言うことができるだろう。

 侵略は、他人の生活を盗むことだ。戦争は、他人を殺すことだ。占領は、他国の人々の基本的人権を侵害することだ。いま欧米で起こっているパレスチナ紛争に対する抗議デモは、就職後の様々な打算やしがらみからフリーな学生たちの「善」が、ピュアな形で「正義」に転換した例に違いない。これによって、バイデンも打算的方向を修正し始めている。「善」のイデアは人類共通の純粋性を持っているから、当事者以外は誰も反論することはできないだろう。しかし、「汝、暴力を振るってはならない」を付け加えるとしたら、非暴力主義を徹底して欲しいものだ。願わくば日本の学生諸君もこの動きに共鳴し、行動を起こして欲しい。世界中に広まれば、きっと良い結果に落ち着くだろう。そしてそれが成功したら、次には「地球温暖化問題」が控えている。地上に蔓延る多くの打算を崩すには、SNSを通じた若者の運動が有効に決まっている。なによりも、彼らの未来の問題なのだから……。




医療用メタバース「独裁」
商品紹介

新しい医療用メタバースのご紹介です
これはバトルゲームではございません
従来のメタバースは多数参加が原則ですが
本製品は一人参加、あるいは少人数参加が原則です

例えば患者様がお一人の場合
患者様以外のアバターはAIの制御下にあります
すなわち他のアバターは
実際には患者様の制御下にあり
仮に患者様に反抗的であったとしても
最終的には患者様に屈服いたします

このメタバースは
コンプレックスや自信喪失でお悩みの患者様が
王様になるまでの栄光の物語です

さらに続編として
権力の座に登り詰めたあと
患者様の意のままに国を統治し
隣国を侵略し
領土を増やし続け
最終的には
地球全体を統治下に置くまでの物語となります

この長大な物語では
様々な抵抗勢力が患者様の前に立ちはだかりますが
すべての抵抗運動はAIの制御下にありますので
現実とは異なり
患者様のご意志通りの方向に進んでいきます
患者様はこの世界に没入し
様々な困難を乗り越えながら
最終的には成功を収め
地球王国の玉座に座ることになります

そしてそのプロセスにおいて
患者様のご意志を思う存分発揮して
多くのアバターたちを殺し、手なづけ、操ることが可能です
アバターたちは患者様の命令に従い
仮に反発したとしても
毒物や暗殺者、兵隊アバターなどを使って
亡き者にすることが可能です

この「独裁」メタバースは仮想空間ですので
現実の独裁者のように
暗殺や反乱に怯えることもなく
また、現実世界のあらゆる法律を無視して
民衆に媚びることなく 仮面を被ることもなく
患者様の欲望を解放させることが可能です
患者様は古の王様のように
誰からのお咎めもなく 
思う存分に振舞うことができるのです

そうしてこのメタバース世界を楽しむことで
実生活で悩まれていた
コンプレックス、トラブル、不安感などなど
様々な精神的ストレスを解消することが可能です
また 同情や愛情、自殺願望といった
患者様の精神的疾患部分も
数値化されて容易に把握でき
治療や矯正の助けとなります

患者様は
そうした弱い部分を認識することで
現実の世界での対処法を冷静に考え
実戦的に生かすことができます
さらには現実世界において
国家権力、社会的権力を目指される方には
最良のリハーサルとなります

医療用メタバース「独裁」は
何事も上手くいかないとお悩みの患者様に
明るい未来をお届けする
新発想の画期的な製品です
(ご購入にあたっては、担当医とご相談ください)



響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎)
定価(本体一一〇〇円+税)
電子書籍も発売中 




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