マガジンのカバー画像

すてきなことを描く人たち

53
noteで遭遇した、すてきなことを描く人たちを集めてみました。 同じようにすてきだなぁ、と感じて貰えたらとても気持ちがいいです。
運営しているクリエイター

#エッセイ

夕風を待つ

夕風を待つ

昔から図書館が好きだった。学校の図書室でも地域の図書館でも貸出冊数の限度いっぱいに借りていて、本を入れるために母が縫ってくれたキルト地の手提げ袋は一年も使えば角が破れてしまうほどだった。書架にきっちりと並べられた本を前にしてめくるめく気持ちは今も変わらず、冊数いっぱいまで借りる習慣はまだ続いている。

しかし働き始めた今、十冊の本を二週間以内に読み切ることは不可能に近い。最近は借りるだけ借りて読ま

もっとみる
すべては来るべきときに

すべては来るべきときに

「で、おまえは茨の道を行くんだな?」

高校一年生の三学期、最後の面談。誰もいない教室で、担任とふたりで向き合う。

「簡単じゃないぞ。できるか」

もう決めたのだ。方法はこれしかないのだから。

当時私が通っていた高校は、入学してすぐに緩やかな文理選択を行うことになっていた。初めに文系か理系かを選び、一年後、さらに私立か国公立かを選ぶ。難関コースはそこからさらに別れる。

私は最初から迷わず文系

もっとみる
「ひとり」でも、大丈夫

「ひとり」でも、大丈夫

母曰く、私は昔から「群れない子ども」だったらしい。

自分で意識をしたことはなかったけれど、そういえばそうなのかもしれない。ひとり旅は全く苦にならない、というかむしろ好きだ。映画館なんて、ひとりで行くところだと思っている。行きたいお店があれば、東京にでも大阪にでも、ひとりで食べに行く。焼肉は、ちょっとハードルが高いけれど。

「ひとり」はとっても自由で、楽しいものだと思っていた。

「ひとり」で踏

もっとみる
偶然の先にある未来

偶然の先にある未来

大学時代、気の合う男友達がいた。出会った当初の私たちはちっとも仲よくなりそうな気配なんかなかったのに、いつからか距離が縮まり、何かのきっかけで夜の暇な時間に電話でもしゃべるようになり、そのうち2人でごはんに行くようにもなった。女と男ではあるけれど色っぽい空気など一切なくて、ただ2人で話しているのがやけに楽しい、という感覚を共有していることはお互いに分かっていた。

彼は私より先に二十歳になり、酔う

もっとみる
別れの切れ端

別れの切れ端

最近小さな別れが続いている。お店も人も。

別れに立ち会ったときに生まれてくるものを、みんなどう処理しているんだろう。別れと一口に言っても色んな種類や大きさがあって、いま私の世界で生まれているものは、すごい早さで流れてくる雲を眺めているときに感じるものに似ている。

別れるとその対象とはそれ以後の時間を共有できなくなる。そのため対象を介して生まれていた情緒は、嬉しいことも悲しいことも色んなこと含め

もっとみる
黒の感情

黒の感情

 自分の中にある黒から目を背けなければいい。
 それを見てしまって憂鬱になるのは、きれいな自分でありたい願望を自分に押し付けているからだ。
 色々な色があってもおかしくないのに、自分の中の黒を認めないのは、自分の一部を否定しているように思えて苦しい。
 自分の中の様々な色達が幾重にも重なって、生まれた黒という色。それを嫌って切り取らずに、認めて心の叫びを聞くのも、良いのかもしれない。
 
 私は探

もっとみる
日常を3日間タイムループさせたら、74歳に娘ができた

日常を3日間タイムループさせたら、74歳に娘ができた

先日、私は神楽坂でタイムループした。

タイムループっていうのは、「物語の中で、登場人物が同じ期間を何度も繰り返す」というもの。これに憧れていた私は、自分の手でちょっとだけ、ループさせてみた。妄想でもSF小説でもない。至って日常的な一日を、3回繰り返した。

そうしたら、とある74歳の女性に娘ができた。
ひとりじゃない。ふたりもできた。

何を言っているのかわからないと思うので、その3日間にしたこ

もっとみる