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2020年10月の記事一覧
にがうりの人 #71 (揺さぶられた臓物)
そこにいるのは土色をした父だった。私はその場に崩れる。もはや涙も出なかった。死してなお悲しげな表情の父は何を思いながら最期を迎えたのだろうか。
どうして。なぜ。
憤りがやがて悲しみに変わり、再びやりきれない怒りに変わる。あまりの理不尽な現実は私の感覚を麻痺させ、精神は崩壊寸前であらゆる考えや感情が頭の中に溢れるが整理がつかない。
「これはなんなんですか」
既に私は度を失っていた。自分でも驚
にがうりの人 #72 (終焉の狼煙)
軟弱そうな男は忙しなく眼球を動かして私の話を聞いていた。
「以上です」
私が舞台の幕を閉じるようにそう呟くと急に現実に引き戻されたように男は目を丸くする。
「その、その後は、ど、どうなったんです?」
「今回のお取引はこれで終わりです」
私の言葉にそれまで肩をすぼめていた男が初めて身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください。け、結末が知りたいんですよ。も、も、物語にはオ、オチが必要ですし
にがうりの人 #73 (狂気の空の下)
何十年かぶりの鎌倉の町並みはさほど変わっていなかった。育ったこの土地を訪れてから私は全てを終わりにしようと決めていたのだ。
いつからかこの街に暖かいイメージはない。この日も気温は低く、朝の天気予報ではキャスターがこの冬一番の寒さと威張るように言っていた。駅前は平日とその寒さのせいもあってか人気はまばらである。
空はむやみに高く、青い。
ロータリーを抜け、商店街へ入ると幾分か人が増える。両脇
にがうりの人 #74 (思念は虚構へ)
私は無性に悲しくなった。考えてみれば、過去を売るという商売を始めて幸せな話が取引の対象となる事はほとんどなかった。
人間は他人の不幸が好きだ。他人の不幸と相対的に自分の幸せを決める。それが道徳として善なのか悪なのかはどうでもいい。ただ、醜い過去を捨てる事により幸せだった頃が今になって際立った事が、私の心を刺した。
歩を進めるといよいよ私は苦しくなる。母が死に、燃え落ちた家に向かった時もこの
にがうりの人 #75 (告白の的)
「何か用?」
女は相変わらず愛想の無い目つきで私を見上げた。いつもどおり深夜のファミリーレストランである。身辺を整理し、この日を迎えた私は迷う事無くこの高飛車なキャバクラ嬢の元へ足を向けたのだ。女を探すため何軒のファミリーレストランを廻るのだろうかと考えていたが、まさか一軒目で見つかるとはさすがに驚いた。
最後の最後についているなんて自分らしいなと思い、少し苦笑した。女はまだ怪訝な表情で私を
にがうりの人 #76 (それからの塗炭)
高峰弁護士が自らの命を絶ち、私は再び生きる気力をなくしていた。信頼できる人物がことごとく私の前から消えて行く。
これはどういう事なのか。
既に迷いというレベルではなく、私の精神はいよいよ混沌とした。
自分の人生は周りを駄目にし、それにより私自身を駄目にする。そうやって私の中では負の思考が螺旋状に連鎖し、どんどん地の底へと私を追い詰めた。どうすることもできなくなり宗教に救いを求めた事もあ
にがうりの人 #77 (路傍の独白)
以下、高峰雄一弁護士の手紙より
君がこの手紙を読む機会があるかどうか、私には分からない。
しかし、いつか君が成熟して世の中の善と悪、そして理不尽な社会を受け入れる事が出来たときにこの封を開けてくれる事を切に願う。
いずれは君も疑問に思うはずだ。これから記す事はその疑問に対する答えなのかもしれないし、そうでないかもしれない。
だが、私はこれが真実だと確信している。どうか、お父さんが残