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にがうりの人 #76 (それからの塗炭)

 高峰弁護士が自らの命を絶ち、私は再び生きる気力をなくしていた。信頼できる人物がことごとく私の前から消えて行く。

 これはどういう事なのか。

 既に迷いというレベルではなく、私の精神はいよいよ混沌とした。
 自分の人生は周りを駄目にし、それにより私自身を駄目にする。そうやって私の中では負の思考が螺旋状に連鎖し、どんどん地の底へと私を追い詰めた。どうすることもできなくなり宗教に救いを求めた事もあった。
 だが何も変わらない。ただ刻刻と時間だけが無情に過ぎて行くばかり。変わらなければならないのは自分自身である事は分かっているのに、その糸口がつかめないでいた。そんな単純な事も見えないまま弱すぎる自分を呪い、自殺をも考えた。しかしその目的すらもどこか釈然とせず、死にきれない自分自身がいる。

          ✴︎

 そうして精神が筆舌に尽くし難いほど限界に達した時、私はふと思いだしたのだった。
 高峰が死ぬ直前、私に遺した書籍。彼はそれらを私がいつか読む日が来ると言い残してこの世を去った。私はボロアパートの押入れの奥にしまってあった紙袋を取り出し、数冊を手にとった。神崎太一という世間ではかなり名の知れた実業家の書籍である。

 しかし重要なのはそれではなかった。その数冊の間に挟まっていたのか、バサッと厚手の封筒が私の手元に落ちたのだ。
 端には「高峰法律事務所」と印刷され、丁寧に封がされてある。宛先には綺麗な楷書で私の名が書かれていた。
 高峰が私にあてた手紙。心臓がドクンと鳴った。  

 中身がどんなものであるかは分からないが、高峰にも私にも非常に重要であることを予感させる。震える手でなんとか封を開き、中から数十枚の便箋を取り出した。
 文面に目を走らせる。便箋をめくる度、全身に脂汗をかいた。そこには強烈な告発が連綿と綴られていたのである。頭を撃ち抜かれたような衝撃を受け、私の中の曖昧模糊としたものが鮮明になり、全てが一つの糸で繋がっていく感覚が私を支配していく。

続く

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