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読書

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読んだ本の紹介や、読んで考えたこと。
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感性の旅のために-茨木のり子『詩のこころを読む』

感性の旅のために-茨木のり子『詩のこころを読む』

 『詩のこころを読む』という本は、詩人の茨木のり子が、日本の現代詩を若い人たちに向けて紹介したものです。茨木のり子は、1926年に生まれ、太平洋戦争の最中で青春を過ごしました。有名な『感受性くらい』という詩に象徴されているように、己を厳しく見つめながら読み手をも励ますような詩を、世に多く発表してきました。

 そんな茨木のり子は、この本の中で、多くの魅力的な詩を紹介しています。ただ他人の詩を並べ、

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現代におけるユタの役割と柔軟性

現代におけるユタの役割と柔軟性

 大学一年次の前期に受講した民俗学の授業の、期末レポートとして書いたものを載せます。先日、パソコンのフォルダを整理していたら見つけました。2000字以上の指定のところ、約6500字も書いてしまったのが懐かしいです。自分としては全力で取り組んだ記憶がありますが…。フォルダの中だけに置いておくのはなんだかもったいないので、記念としてnoteに載せようかと思います。

 もしよければ読んでみてください。

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あの僕の国か!と叫べはしないが -山之口貘『会話』を通して

あの僕の国か!と叫べはしないが -山之口貘『会話』を通して

 昨日から、山之口貘の詩を読み始めた。

 山之口貘は、沖縄県出身の詩人である。山之口は、1900年代当時の沖縄の名門中学に入学したにもかかわらず、画家を目指して上京をし、関東大震災を受けて帰郷を経験した。その後、再び上京し、貧乏暮らしをしながら詩人として活動した。

 沖縄にいるならば、この詩人の詩を絶対に読まなくちゃいけないと思っていた。そんな思いと同時に、山之口貘のことについて考えると、中高

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誰を想って生きようか?-『ペーパータウン』

誰を想って生きようか?-『ペーパータウン』

 もう2020年度の高校生活も終わりに近づいている。自分にとってどんな一年だったか、ふと考えがちだ。卒業を目の前にして、残る時間を楽しみきれるのだろうかなんて考えたりする。振り返る中で、世の中や身の回りに溢れる無数の“青春”を意識してしまい、嫌になることもしばしば。そんな中でよく思い出すのは、ある小説だ。
 というわけで、今回は『ペーパータウン』(ジョン・グリーン 作 金原瑞人 訳/岩波書店)を紹

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本当のことを言おうか!-『万延元年のフットボール』

本当のことを言おうか!-『万延元年のフットボール』

 お正月というのは、やること為すこと全てが、その年の方向を決めてしまうようだ。元旦から今までの数日間にあった印象的なことといえば、朝起きる心地よさ、ダラダラした読書、思いがけない年賀状、あまり会ったことのない親戚との会食、夜の立川、鬼ごっこ、これからの漠とした不安に駆られること、そして目先の睡眠の中に潜りこむこと。これらがこの1年間の自分を方向づけるとしたら、だいぶ自堕落を極めそうだ。
 そして僕

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本の効用

本の効用

 最近、だいぶ前に読んだ本や小説が思い出されて、心に滲みてくる。

 そういった後々滲みてくる文章というのは、大抵、読後にあやふやな体感を抱きやすいように思う。活きの良い“はず”の文章が、「こんなものか」という具合に、僕の頭上を通り過ぎていく。水族館のトンネル状の水槽を通った時のように、その文章の群と確実に出会ったはずが、僕は気の抜けた実感しか掴めないのだ。

 読書中も懲りずに、快感を追い求めて

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"ぼく"と”きみ”の関係について-『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

"ぼく"と”きみ”の関係について-『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

今回は、詩人・最果タヒの詩集『夜空はいつまでも最高密度の青色だ』(最果タヒ著/リトルモア社)について書きたい。

最果タヒは1986年生まれ、2004年よりインターネット上で詩作を開始、後に詩誌『現代詩手帖』に投稿を始め、現代詩手帖賞受賞。初刊行の詩集『グッドモーニング』で中原中也賞受賞。詩人、ともに小説家として活動している。

 詩集の全体を解釈するためにまだ言語化できていないので、僕がこの

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「地の声」から見える”音の個人化”ー 『宮本常一 伝書鳩のように』

「地の声」から見える”音の個人化”ー 『宮本常一 伝書鳩のように』

 

 現代では、音楽に関する技術の発達が著しい。録音技術は興盛し、誰でも手軽に録音することが可能になった。しかも、CDや音楽プレイヤー、音楽サービスの誕生によって、どこにいても、どんな時でも音楽が楽しめるようになった。
 しかし、変化したのは、そういった音楽を取り巻く技術面だけではなく、人間の音の聞き方や環境も変化しているんじゃないか。

 『宮本常一 伝書鳩のように(STANDARD BOOK

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