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お気に入りの記事をまとめています。勝手に追加させて貰っているので、外して欲しい方はご連絡下さいね。
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#創作

「書欲」(詩)

「書欲」(詩)

書くことは汚れない
私の手が
どれほど汚れても

生きることは汚れること
それはとても大らかに
その汚れを受け入れよう

雲に月が灯る
蝶に花は広がる
連なった声は名を結び目として長くなる

それらすべてを書いていたい
書いていたいのだ 私のままで

どんなに汚れが身を燃やそうと
私のペン先は静かに

「あたらしい朝に」(ちいさなお話)

「あたらしい朝に」(ちいさなお話)

 おばあちゃんは、毎日何かを書いていた。それはどこにでもあるような薄い青色のノートで、いつもそのノートを使っていたから、私は大きくなるまでおばあちゃんは魔法のノートを持っているのだと思っていた。使っても使っても無くならない、そんなノート。それをおばあちゃんに話すと、おばあちゃんは笑って「そうかもね」と言った。

 おばあちゃんはいつからか、ノートを一冊使い切ると私にくれるようになった。最初にそれを

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オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。

「文化祭には『主』がいるらしいよ」
「それ聞いたことある!」

ちなみにその「主」とは 僕のことであり
そして、オバケ だ。

昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に
僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。
普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり
どうしてもみんなと集合写真

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「海の絵、レンズの瞬き」(小さなお話)

「海の絵、レンズの瞬き」(小さなお話)

彼の描く絵に、価値を付ける誰かがいてほしい。
彼、と呼んでいるけれど、果たして彼に性別が搭載されているのかは分からない。
ただ、絵を描いている時の座り方や、足を開いて座っている背中、あとは焚き火を見つめている時の空気の纏い方が、彼女ではなく、彼、というものに感じる。彼女、と言うのが私のことだと彼が教えてくれたからだ。
私とは全く違う。
彼はとてもうつくしい。

彼の絵を見に、たまに他のアンドロイド

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詩84/   あの日の雨

詩84/ あの日の雨

雨は
都合よく
止ませたりなんて
出来ないものだ

あの日は
雨の強い日だった

僕は
止むのを待たずに駆け出した

君は
止むまで待って歩き出した

彼は
行くこと自体を諦めた

彼女は
傘を探しに行ったらしいが

同じ行き先を
思い描いていたはずだった我々が
その後落ち合うことは
もう無かった

その時は

それぞれ
そうするしかなかったのだ

僕も
君も
彼も
彼女も
あの時は
他に選択肢

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詩70/   水の旅

詩70/ 水の旅

彼女は
とある学校の理科室で
水素と酸素の混合気を燃やす実験で
微量の水として生まれた

そのまま
水蒸気として空へ

やがて
自分と同じような奴が集まってきて
綿みたいな雲になった

集まりすぎて
重くなったと思ったら
今度はいつの間にか
雨の雫になっていた

地面に落ちた彼女は
土の中に染みこんでいった
そして
木の根っこに吸い込まれ
気がつくと
その木の果実の水分になっていた

その果実を

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「いきをおくる」(詩)

「いきをおくる」(詩)

わたしはわたしをたのしむ
わたしはわたしのたのしいを選ぶ

もうその選択を恐れない
わたしはわたしと本心で生きるために

けして、何も恐れないと思っているわけではないよ
わたしの手を 握りしめていれば なのよ

わたしのいのちが泣き叫ぶときがある
わたしのこころが揺れ崩れるときも

それでも 両手は結ばれている
わたしは わたしを放さないと

わたりあえる互いの先があかるい
わたしはわたしの息を追

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「しとやか」(詩)

「しとやか」(詩)

私は しとやかでした
そのむかし
それが私を守ってくれていた気がしていたから
でも本当は
それが私を弱くしていたのだと知り
私はその日
怒る練習に明け暮れたのでした

はじまり
はじまり

詩64/   取るに足りない祈り

詩64/ 取るに足りない祈り

歴史の年表で
出来事が在った年と年の狭間には
何もなかったのかというと
そんなはずはなくて
後世に語り継がれなかった悲しみが
必ずやそこにはあったはずだ

それでもそこには
年表に載った年よりかは
誰にも漁られることのなかった
人々の穏やかな日常が
少しでも存在したのかと思うと
その時代の子どもたちの
草原に響く笑い声が聞こえるようで
少し救われた心持ちになる

そして
俺は
生きている今この時代

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「変化する目をもつ少年の話 雪が見たい編」

私の夢で放映されたお話。

これを気に入ってくださった方に、続編は、と言っていただいたのを喜んで、書きました。
それでは、どうぞ。

転校生が雪を見たいと言った。

彼の目は素直で、その言葉はただただ感情が溢れたままにおれに届いた。
休み時間、転校生は必ずまわりをクラスメイトに囲まれる。
その中にはクラスのなかで目立つ男子のグループもいて、
彼はその中に入ってもまったく屈託がなかった。
今まで、ど

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詩63/   夜風

詩63/ 夜風

大きなスタジアムで
大きな戦いがあって

何万人もの人々が
興奮の坩堝にあって

戦いが終わって

その熱と余韻も覚めないままに
人々も選手も皆去ったあと

自分の足音だけが響く観客席を
一人黙々と掃除する

そして最後に
スタジアムと事務所の照明を落として
50ccの原付に乗って帰路につく

冷え切った空に
こうこうと光る月と星を仰ぎ

夜間点滅信号に変わった交差点を
左右に気をつけて通過し

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