上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.9現在)

上水春信

生きて、詩を描きます。(2024.9現在)

最近の記事

詩159/ フレームイン フレームアウト

世界は 美しくもなく 醜くもない 優しくもなく 厳しくもない ただ 土くれと 水と 空のある空間に 蜜を吸う虫 他者を食う虫 命を繋ぐため歌う虫 なきがらを土へ還す虫が ただ それぞれの居場所に 居るだけのこと それ以上でも それ以下でもない 貴方が 悲しみの中で 失ったと思っているものは 貴方の世界の フレームから離れただけで 皆 それぞれ 自分の世界の 自分のいるべき場所にいる そして 貴方のフレームの中で 空いた場所にはまた 風に乗って 川の流れに乗って 何かが流れ着い

    • 詩158/ 幸せの詩

      こどものときは 幸せは 雛鳥のように おとなにもらうもの おとなになると 幸せは 成鳥のように 自分でつかむもの おとなは 生きるために狩りをして 幸せを 手に入れないといけない 世界には 生まれ出たときから 卵から孵ったら 分裂が終わったら あとは自分で 何とかしなきゃいけない そんな生き物すらも沢山いる 命が長かろうが短かろうが 生きるために 今日もあらゆる場所で 命は蠢いている 俺も その蠢く命の一つである 明日喰われて 終わるかもしれない一生だ 未来永

      • 詩157/ 江戸川の鉄橋

        仕事帰りの電車が 江戸川に架かる 鉄橋の上で停まった 緊急停車なんて 東京近郊では 特段珍しくはない 慣れきった出来事に 穏やかに冷めた すし詰めの車内 僕は 普段は停まらない場所からの 車窓の風景を ぼんやり眺めていた 土手道を走る 車のテールランプの帯 浅瀬にたなびく 葦の葉の群 隣に架かる橋の 橋桁にこびり付いた藻 風に漣だつ 夕闇の川面 電車が なぜ停まったのか 車掌が何度も 理由をアナウンスする 貴方が 謝ることではないのに 謝りながら 何度

        • 詩156/ 世界地図

          最初は真っ白で 希望に満ちていた 世界地図には いつしか 手垢がつき 泥がつき 油がつき 灰がつき 火薬がつき 血がつき 混ざり合わない くすんだ色で 埋め尽くされている ならばいっそのこと 地図を 墨で染めて すべての色を掻き消して 紙ごと真っ黒にしてしまおう 国境線も見えないように 肌の色も見えないように 紙幣の金額も見えないように 苦しみや憎しみに満ちた顔が 誰からも一切見えないように 世界を漆黒の夜に統一しよう それから ただの黒い紙になったその地図

        詩159/ フレームイン フレームアウト

          詩155/ 光の彫刻

          今 世界で一番性能の良い 電子顕微鏡で覗けば ウイルス達の 個々の容姿の違いは 分かるだろうか その 個性の違いが 分かるだろうか 物憂げな表情や 人間に何かを 訴えようとする口の動き それが分かるほど 精密に 彼らのことが見えるだろうか 違うことが 許せなかった人生 違うことが 誇らしかった人生 違うことが 悲しかった人生 違うことを 受け入れた人生 すべての人の人生を 宇宙の果てから 顕微鏡を覗くように 眺めて見てみれば たぶん 僕らが知っている ウ

          詩155/ 光の彫刻

          詩154/ AMラジオ.ノスタルジー

          昔 ラジオは 丸いダイヤルのつまみを回して 周波数を合わせるものでした 私は 田舎に住んでいましたから 大手のラジオ局の放送ですら ノイズ混じりに流れてくるので 流行りの歌や 軽快なお喋りを つまみを動かして 細かく微調整しながら 耳を澄ませて どうにかして 聞き取ろうとしたものでした 放送局ごとの 周波数の谷間では ただただノイズが 吹き荒れているだけでしたが つまみを回しながら 合わせたい局に辿り着くまでに 特に深夜なんかには ノイズの嵐のずっと遠くで 本来聞

          詩154/ AMラジオ.ノスタルジー

          詩153/ ことばについて

          言葉は 音であり 声であり 文字であるが 音だから 声だから 文字だから 言葉なのではない 言葉であるために 与えられる 何かがある しかしそれは 質量のある何かでは無く ましてや 電気でも プラズマでも おばけでも無く きっと 実体のある幻が 蝉のように 約束された短い間だけ 地表に現れ出て 羽ばたいては 宙を舞う透明な魂を 捕まえて包み込み 輪郭を可視化することで 言葉を 言葉足らしめているのだ という 言葉足らずの説明を 日記に残して 俺は今日も 直

          詩153/ ことばについて

          詩152/ あたまについて

          頭には 片隅なんてない なぜなら頭は丸いからだ 片隅なんて探してたら そのうち鼻の穴から 鼻くそと一緒に転げ落ちてしまう だから 忘れてはいけない 小さくとも 大切な何かがあるなら 頭の片隅に置くなどと言わず 全てを頭のど真ん中に置いておけ重心に近いところにある方が どれだけ遠心力がかかっても 振り落とされにくいものだ それでも落ちて 去っていくような記憶であれば そもそも貴方には 必要無かったのだ

          詩152/ あたまについて

          詩151/ 食べ残しのコーン

          皿に残っていた 食べ残しのコーンが一粒 台所のシンクに 洗剤混じりの水と一緒に 流れ落ちていった さっきのさっきまで 清潔で 美味しく 喜ばれる食べ物だったのに 人間の都合で 食べ残されたというだけで 一瞬でゴミになり 網に集められていく なんて 俺達人間は エゴに満ちた 自分勝手な生き物なのだろう と 重い気持ちになっていたら コーンは 顔色一つ変えずに こう言った 何 僕のこと見てんの ゴミってなんだい ああ そうか 君たちは 自分たちが要らなくなっ

          詩151/ 食べ残しのコーン

          詩150/ 希望

          希望は未来への目標ではない 希望は未来への路程ではない 希望は現在の燃料である それは どんな燃料でもいい 燃料なんて呼べる代物でなくても可燃性のものをとにかく 何でもかんでもかき集めて 燃やして暖を取りながら 世界の片隅で 寒さをしのいで 生きていればいいのだ その熱で いつの日か体が温もれば 貴方は自然に そのとき歩きたいと思う方角へ 自分で歩き出すだろう

          詩150/ 希望

          詩149/ 命数

          僕は 赤子を背負って 野山を分け入り 人知れぬ茂みに ひっそりたたずむ 古い井戸の元に向かう 紐を握り 滑車を走らせて 60を載せた釣瓶を落とす どこまでも どこまでも 60を載せた釣瓶は落ちていく ようやく 水面に 着水する感覚があっても 60を載せた釣瓶は それでもなお 水の中をどこまでも沈んでいく やがてついに 井戸の底を打ったとき 60はその衝撃で 釣瓶からこぼれ落ちる そうしたら今度は 間髪入れず すぐに釣瓶を引き上げる 紐を引き続け 一番深いとこ

          詩149/ 命数

          詩148/ 色素

          君は 黄色い絵の具を 水道で流して洗う 黄色い水が 排水口を流れていく 溝に流れ落ちて 他の排水と混ざって 訳の分からない色に変わっていく それがまた どぶ川に流れ落ちて 黄色なんて無かったことのように 只のどぶ川の色に同化していく でも そこから 黄色の色素がなくなったわけではなく 散り散りばらばらに 水の中で放射して 果てしなく長い旅を始めるのだ そしていつの日か 草原の土に還り たんぽぽの花の 色に生まれ変わる そのたんぽぽの花を見て どこかの子供が 黄色い

          詩148/ 色素

          詩147/ 月

          誰の上の空にも月は在る 誰にとっても当たり前の存在 でも今 君が見上げて その網膜で切り取る月は 見ている時間 見ている場所 見上げている角度 周りの景色 周りの湿度 雲との重なり 絶え間なき満ち欠け 見ている君の心 君の眼の滲み すべてが人とは違うものだ 君は今見上げた月を描けばいい どこにでもあるのに 君にしか見えていない月を 月に照らされながら描けばいい

          詩146/ 濃霧

          何もなくても 何もないからこそ うねる波に紛れていたい そんなときもある 前に進みたいのに 一歩前の未来さえ 見えなくて見えなくて苛立つ そんなときもある 鈍い刀で切られた 歪で塞がらない傷を 朧にして隠してしまいたい そんなときもある そんなこと どうでもいい どうでもいい どうでもいいと かき消したくなるときもある かき消そうとする その腕さえも見えなくなる 深く白い海 きみも ぼくも どこにいるのかわからない もしかしたら お互いすぐそばに 立っているのか

          詩146/ 濃霧

          詩145/ 時間と距離の詩

          世界の終わりまで あと10年だとしたら それは長いか短いか 人間からしたら そりゃ あっという間の時間でしょう でも カゲロウからしたら 途方もなく永い時間だね 世界の果てまで あと10kmだとしたら それは遠いか近いのか 人間からしたら そりゃ あっという間の距離でしょう でも カタツムリからしたら 途方もなく永い距離だね だから 世界の終わりが怖いなら 世界の果てが怖いなら カゲロウやカタツムリになって 短く ゆっくり 生きれば良いんだよ でも 人間か

          詩145/ 時間と距離の詩

          詩144/ 医学と傘

          不老不死の術を 遂に発見した医学者の 医学賞授与式が テレビで流れている 会場には 雨が降っていて 車から降りた医学者は 傘を差し出され その下に入って歩いていた 僕は こんな人でも 雨のときは 僕らや子供が差すような 原始的な道具を使うのだなと思った その日 医学はゴールを迎えたのだ もしくはゴールではなく 絶滅の日なのかもしれない これから医療は 我々が不老不死を 買うか買わないかだけになる 授賞式のテレビを見ている 君と僕 君が手首に巻いた包帯と 僕が手首に

          詩144/ 医学と傘