motoaki iimori

飯盛元章。1981年生まれ。中央大学兼任講師。博士(哲学)。ホワイトヘッド、ハーマンを…

motoaki iimori

飯盛元章。1981年生まれ。中央大学兼任講師。博士(哲学)。ホワイトヘッド、ハーマンを中心に現代の形而上学を研究。著書に『連続と断絶―ホワイトヘッドの哲学』(人文書院、2020)。主な翻訳にグレアム・ハーマン「オブジェクトへの道」(『現代思想』2018年1月号)など。

マガジン

  • 関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ

    全3回のシリーズ。『君の名は。』、〈物語〉シリーズ、『もののけ姫』、網野善彦、ハーマン、ホワイトヘッドなどを取り上げ、非関係的で自由な存在のあり方を描きだす。

  • 〈オブジェクト指向存在論〉最速入門

    グレアム・ハーマンのオブジェクト指向存在論について、哲学の予備知識がなくても読めるように解説した入門的なシリーズ。

記事一覧

風景20240515

雨降りの閉店1時間まえのスーパーは、閑散としている。 ビニール傘を腕にかけ、カゴを手に持ち、いつものルートを辿る。 数日のあいだ味覚を刺激してくれそうなものを探し…

motoaki iimori
2か月前
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破壊の形而上学 文献まとめ

「破壊の形而上学」(略称MOD)というオリジナルな哲学を構築している。 あらゆるものは、たまたま現にあるようなあり方で存在している。たまたまそのように存在している…

motoaki iimori
11か月前
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よくわかるMOD入門 コメント&応答

4月16日にぬかるみ派の方々にお招きいただき、トークイベントをしました。 予想以上に多くの方に参加していただき、たくさんのコメントや質問をいただきました。Googleフ…

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【講義のお知らせ】メイヤスー『有限性の後で』を解説するレクチャーイベント

The Five Books主催のレクチャーイベントで、カンタン・メイヤスー『有限性の後で』について講義をします! 参加者の方には毎週少しずつテクストを読んできてもらい、ぼく…

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破壊性へ─メイヤスーの「絶対的偶然性」とハーマンの「汲みつくせなさ」について

あらゆるものは、たまたまそのようになっている。それゆえ、時間的に積み上げてきた同一性の殻をとつじょ脱ぎ捨てて、まったくべつのものに変身しうる。破壊の力はいつだっ…

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ヒラン・ベンスーザン『指標主義』について(『現代思想』ブックガイド特集論稿への追記)

雑誌『現代思想』の2022年1月号は「現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30」という特集となっている。ぼくも一冊紹介させてもらった。 依頼をいただいたとき、ちょうど前…

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過剰創発宇宙

わたしたちが現に住むこの宇宙とはべつの宇宙について想像してみたい。 たとえば、放っておくと、つぎつぎとまったく新しいものが生みだされてしまうような宇宙。イノベー…

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破壊の形而上学 基本テーゼ (ver. 0.9)

レクチャーシリーズ「破壊の形而上学へ」では、カンタン・メイヤスー、グレアム・ハーマン、カトリーヌ・マラブー、ジャン=ピエール・デュピュイ、アルフレッド・ノース・…

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純粋知覚のホラー

わたしたちの感覚器官は、じつは思っている以上にかなりショボい。目の解像度は初代iPhoneよりも低いし、1秒間に3回ブラックアウトする。視野の中心以外はモノクロだ。わた…

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【哲学オンラインセミナー企画】ホワイトヘッドのゆうべ─『日常の冒険』『連続と断絶』を手がかりに

最近出版された2冊の研究書を手がかりに、20世紀の哲学者ホワイトヘッドの世界観に迫ります。予習不要。どなたでも気軽にご参加ください! 日時: 8月21日(土) 19時スター…

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ウロボロスの輪から、アスクレピオスの杖へ─01 入不二基義の「円環モデル」

本連載では、入不二基義『現実性の問題』第1章で提示される「円環モデル」について考察する。この円環モデルに、カンタン・メイヤスーの「事実論性」をぶつけてみることに…

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Clubhouseと社交的破壊

社交とは冒険であり、破壊である。社交は人脈形成のための手段ではない。(少なくとも僕にとって)社交の本質は構築にはない。安定的な秩序によって押し固められた自分自身…

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関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─03 退隠する対象

本連載02では、網野善彦の「「無縁」の原理」を考察し、その具体的なイメージとして宮崎駿監督『もののけ姫』を取り上げた。 ムスビの縁を断ち切り、「無縁」の人として生…

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関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─02 「無縁」の原理

本連載01では、『君の名は。』と〈物語〉シリーズを対比的に考察した。 存在に深く食い込んだ関係性ではなく、無関係的な軽やかな存在のほうへ。運命的なムスビの線から、…

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ホワイトヘッド哲学最速入門

本記事では、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学について入門的な説明をする。 ホワイトヘッドは19世紀後半から20世紀前半を生きた英米圏の哲学者である。彼は論…

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連続のほうへ─パースの連続主義をめぐって

チャールズ・サンダース・パース。19世紀から20世紀初頭のアメリカで活躍した哲学者である。 彼は「プラグマティズム」というアメリカ哲学を代表するような発想を生み出し…

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風景20240515

風景20240515

雨降りの閉店1時間まえのスーパーは、閑散としている。
ビニール傘を腕にかけ、カゴを手に持ち、いつものルートを辿る。
数日のあいだ味覚を刺激してくれそうなものを探し出していく。
丸いパッケージや四角いパッケージを、四角いカゴにていねいに収める。

フェアをやっているらしく、聴き馴染みのない沖縄風の曲がかかっている。
一日中、沖縄の音楽を聴いている店員は、きっと空間感覚が狂ってしまうだろう、と思う。

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破壊の形而上学 文献まとめ

破壊の形而上学 文献まとめ

「破壊の形而上学」(略称MOD)というオリジナルな哲学を構築している。

あらゆるものは、たまたま現にあるようなあり方で存在している。たまたまそのように存在しているにすぎないので、そうしたあり方をいつだって打ち捨てて、まったく別様になることが可能である。あらゆるものは、いつでも破壊的な変貌を遂げうるのだ。そしてそれによって、どのようなあり方にでもなりうる。こうした破壊の力が世界の隅々にまで浸透して

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よくわかるMOD入門 コメント&応答

よくわかるMOD入門 コメント&応答

4月16日にぬかるみ派の方々にお招きいただき、トークイベントをしました。

予想以上に多くの方に参加していただき、たくさんのコメントや質問をいただきました。Googleフォームに投稿していただいた方もいらしたのですが、その場でお答えすることができなかったので、ここに応答を掲載したいと思います。
※ コメントの掲載に関して問題がありましたら、ご連絡ください。

発表スライドは、こちら↓
飯盛元章「よ

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【講義のお知らせ】メイヤスー『有限性の後で』を解説するレクチャーイベント

【講義のお知らせ】メイヤスー『有限性の後で』を解説するレクチャーイベント

The Five Books主催のレクチャーイベントで、カンタン・メイヤスー『有限性の後で』について講義をします!

参加者の方には毎週少しずつテクストを読んできてもらい、ぼくがじっくりと解説をする、という形式です。本は買ったけど途中で挫折したという方、名前は聞いたことあるけどまだ読んではいないという方。この機会にぜひご参加ください。いっしょに読んでいきましょう!

以下、The Five Boo

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破壊性へ─メイヤスーの「絶対的偶然性」とハーマンの「汲みつくせなさ」について

破壊性へ─メイヤスーの「絶対的偶然性」とハーマンの「汲みつくせなさ」について

あらゆるものは、たまたまそのようになっている。それゆえ、時間的に積み上げてきた同一性の殻をとつじょ脱ぎ捨てて、まったくべつのものに変身しうる。破壊の力はいつだってなんにだって到来しうる。わたしたちは、それによってまったく新たな世界へと投げ込まれる。新しさの春の嵐は、とつぜん吹き荒れる。

そんなことをここ1、2年のあいだずっと考えている。だが、この思考の同一性にも破壊がやって来るかもしれない。そし

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ヒラン・ベンスーザン『指標主義』について(『現代思想』ブックガイド特集論稿への追記)

ヒラン・ベンスーザン『指標主義』について(『現代思想』ブックガイド特集論稿への追記)

雑誌『現代思想』の2022年1月号は「現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30」という特集となっている。ぼくも一冊紹介させてもらった。

依頼をいただいたとき、ちょうど前々から気になっていた本が出版されるタイミングだったので、その本について書くことにした。ブラジルの気鋭の哲学者ヒラン・ベンスーザンによる新刊『指標主義─実在論と逆説の形而上学』だ。

本書は、エディンバラ大学出版局の「思弁的実在論」

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過剰創発宇宙

過剰創発宇宙

わたしたちが現に住むこの宇宙とはべつの宇宙について想像してみたい。

たとえば、放っておくと、つぎつぎとまったく新しいものが生みだされてしまうような宇宙。イノベーションしかない宇宙。それを、過剰創発宇宙と呼んでおこう。

一般に、新しいものが出現することを「創発」と呼ぶ。たとえば、わたしたちの宇宙では、進化のある段階において、物質からそれとはまったくタイプの異なる精神が創発した。これは、まったく異

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破壊の形而上学 基本テーゼ (ver. 0.9)

破壊の形而上学 基本テーゼ (ver. 0.9)

レクチャーシリーズ「破壊の形而上学へ」では、カンタン・メイヤスー、グレアム・ハーマン、カトリーヌ・マラブー、ジャン=ピエール・デュピュイ、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドなどの哲学者を取り上げ、〈破壊〉概念を練り上げてきました。

以下に列挙したのは、〈破壊の形而上学〉の基本テーゼ暫定版です。

破壊の形而上学 基本テーゼ1
破壊とは、通時的な連続性を引き裂く断絶である。

破壊の形而上学 基

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純粋知覚のホラー

純粋知覚のホラー

わたしたちの感覚器官は、じつは思っている以上にかなりショボい。目の解像度は初代iPhoneよりも低いし、1秒間に3回ブラックアウトする。視野の中心以外はモノクロだ。わたしたちの感覚器官は、こんな貧相な知覚データを脳に伝達している。

このスカスカなデータは、記憶をとおして補正される。かつて知覚された膨大なデータが、そこに投影されるのだ。それによって、わたしたちが現に体験している鮮やかでなめらかな知

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【哲学オンラインセミナー企画】ホワイトヘッドのゆうべ─『日常の冒険』『連続と断絶』を手がかりに

【哲学オンラインセミナー企画】ホワイトヘッドのゆうべ─『日常の冒険』『連続と断絶』を手がかりに

最近出版された2冊の研究書を手がかりに、20世紀の哲学者ホワイトヘッドの世界観に迫ります。予習不要。どなたでも気軽にご参加ください!

日時:
8月21日(土) 19時スタート

参加方法:
ミーティング登録フォームから登録してください。返信メールにてZoomの招待URLが送られてきます。

費用:
無料 + 投げ銭制
(寄付ページにて投げ銭を受け付けています。コメント欄に「ホワイトヘッド」とご記

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ウロボロスの輪から、アスクレピオスの杖へ─01 入不二基義の「円環モデル」

ウロボロスの輪から、アスクレピオスの杖へ─01 入不二基義の「円環モデル」

本連載では、入不二基義『現実性の問題』第1章で提示される「円環モデル」について考察する。この円環モデルに、カンタン・メイヤスーの「事実論性」をぶつけてみることにしたい。

あらかじめ簡単に結末を述べておこう。本連載では、入不二の円環モデルにおいて抑制されている「可能性の力」を解き放つことになる。入不二の主張する「現実性の力」に対抗できるほどの力を、メイヤスーの議論から引き出すこと。それが本連載の目

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Clubhouseと社交的破壊

Clubhouseと社交的破壊

社交とは冒険であり、破壊である。社交は人脈形成のための手段ではない。(少なくとも僕にとって)社交の本質は構築にはない。安定的な秩序によって押し固められた自分自身の世界に破壊をもたらすものこそが、社交だ。

他人との出会いによる破壊。このことについて少し考えてみたい。哲学者グレアム・ハーマンのモデルを足がかりにしよう。

ハーマンは、存在者どうしの因果作用を縦の次元を介して説明する。たとえば、2機の

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関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─03 退隠する対象

関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─03 退隠する対象

本連載02では、網野善彦の「「無縁」の原理」を考察し、その具体的なイメージとして宮崎駿監督『もののけ姫』を取り上げた。

ムスビの縁を断ち切り、「無縁」の人として生きること。鮮やかな乗り換え、遍歴をつうじて、自由に生きること。これが前回の主題であった。

連載最終回の今回は、「無縁」の原理を一般化して、人間だけでなくあらゆる存在が「無縁」であるということを描きだす。

1 OOOの根本原理としての

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関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─02 「無縁」の原理

関係の糸を引き裂き、自由な存在を撒き散らせ─02 「無縁」の原理

本連載01では、『君の名は。』と〈物語〉シリーズを対比的に考察した。

存在に深く食い込んだ関係性ではなく、無関係的な軽やかな存在のほうへ。運命的なムスビの線から、自由な乗り換えへ。

ムスビから乗り換えへの乗り換えこそが、本連載の目指すところだ。

1 「無縁」の原理ムスビという縁を断ち切り、自由な乗り換えを可能にするもの。それはかつて「縁切寺」と呼ばれた。

歴史学者の網野善彦は、『無縁・公界

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ホワイトヘッド哲学最速入門

ホワイトヘッド哲学最速入門

本記事では、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学について入門的な説明をする。

ホワイトヘッドは19世紀後半から20世紀前半を生きた英米圏の哲学者である。彼は論理学・数学の研究から出発し、60歳を過ぎてから形而上学の研究に着手した。彼の形而上学期の主著『過程と実在』は、20世紀の哲学書のなかでも屈指の難解テキストである。数々の用語を駆使して、世界全体のあり方を高解像度で描き出そうとするこの書

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連続のほうへ─パースの連続主義をめぐって

連続のほうへ─パースの連続主義をめぐって

チャールズ・サンダース・パース。19世紀から20世紀初頭のアメリカで活躍した哲学者である。

彼は「プラグマティズム」というアメリカ哲学を代表するような発想を生み出したにもかかわらず、大学に職を得ることができず、大量の論文だけを残して消え去っていった謎の多い哲学者だ。

彼の業績は多岐にわたるが、ここでは彼が展開した進化論的宇宙論に着目したい。伊藤邦武『パースの宇宙論』を手がかりにして、パースの宇

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