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サブカル大蔵経 異国編

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#仏教

サブカル大蔵経997中村元『釈尊の生涯』(平凡社ライブラリー)

サブカル大蔵経997中村元『釈尊の生涯』(平凡社ライブラリー)

学生の頃、先輩が「中村元は学者ではなくなった」と言うのを聞いて驚いたことがあります。なんでそんなこと言うのかなと思いましたが、本書を読んで、少しだけその意味がわかりました。学者としておさまらない義侠心というか、熱情というか。

読者の希望と正反対のすがたが出てくるかもしれないので、それは残念ながらであるが、しかしいたしかたない。p.12

「いたしかたない」ー。これはもう、宗派や学問の周辺にまつわ

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サブカル大蔵経996渡辺照宏『涅槃への道』(ちくま学芸文庫)

サブカル大蔵経996渡辺照宏『涅槃への道』(ちくま学芸文庫)

晩年の先生が身命をかけて完成したこの『涅槃への道』は、奇しくもそのまま先生の涅槃への道ゆきとなったのであるp.339

宮坂宥勝さんが後記でそう述べた本書。1974年から1977年まで「大法輪」で約三年間のにわたって紡ぎ出されたもの。
誰に向けて書かれた〈遺言〉だったのか。
本当の釈尊、本来の仏教を伝えたい。

インドの仏跡に不似合いな石燈籠を建てたり、日本式梵鐘を持ち込んだりするバカ者がいるとい

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サブカル大蔵経995佐々木閑『100分de名著 ブッダ最期のことば』(NHK出版)

サブカル大蔵経995佐々木閑『100分de名著 ブッダ最期のことば』(NHK出版)

ブッダは今でこそ世界の偉人として神格化されていますが、当時の弟子たちにとっては自己鍛錬システムのインストラクターのような存在でした。p.21

仏教の正しい理解のため、まず、ブッダ・釈尊を神格化しない手続きを踏んでいく。業界の佐々木閑さんへの絶大な信頼感。貴重な学術論文を出しながら一般にも啓蒙。律、理系、非僧の3大マウントで既存の教団や坊さんに風穴を開け続ける。

ブッダが作り上げた独自の「組織論

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サブカル大蔵経994グレゴリー・ショペン/小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』(春秋社)

サブカル大蔵経994グレゴリー・ショペン/小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』(春秋社)

夜警の仕事をした後、日本にも一年留学していたグレゴリー・ショペン先生。

本書は、さまざまな先生たちが引用された仏教研究の黒船です。

大乗仏教はインドではメジャーじゃなかったという、日本で一番タブーな論説をあえて紹介される小谷信千代先生に感服。

鎌倉仏教が当時はメジャーじゃなかったことと同じようなことなのかも。

それか、韓国のお酢の飲料「ミチョ」が以前は通販でしか買えなかったのに、今や近所の

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サブカル大蔵経899フィリップ・C・アーモンド/奥山倫明訳『英国の仏教発見』(法蔵館文庫)

サブカル大蔵経899フィリップ・C・アーモンド/奥山倫明訳『英国の仏教発見』(法蔵館文庫)

螺髪ゆえのブッダ黒人説。涅槃図は東洋の怠惰の象徴。ゴータマとルターを重ねた改革者ブッダ。英国がてこずるヒンドゥー教を改革した仏教の称賛。開祖以後堕落した仏教をカトリック批判の材料にする…。

西洋、特に英国によって仏教が手探りで探索されていく過程は、珍奇を超えてダイナミックな印象です。かえって清々しい。その後、欧州での仏教研究は飛躍的に進み、日本を飛び越えてしまいました。

その後日本でも明治初期

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サブカル大蔵経898吉永進一『神智学と仏教』(法蔵館)

サブカル大蔵経898吉永進一『神智学と仏教』(法蔵館)

インドを旅していた時、チェンナイ市街の神智学教会でパンフをもらいました。神智学って本当にあるんだなと思いました。

教科書にも記載されていた、〈神智学〉。怪しい存在なのかと思いきや、明治の仏教界にこれほど影響を及ぼしていたとは。

著者の博識あふれる文章は、澁澤・種村的な衒学的テキストを読んだ感覚を久々呼び起こす。日本の仏教学にも、ようやくこのような書き手が現れたことが嬉しいです。

ついて来れる

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サブカル大蔵経872金文京『漢文と東アジア』(岩波新書)

サブカル大蔵経872金文京『漢文と東アジア』(岩波新書)

仏教者を揺さぶる本。

日本への梵語と仏教伝来の影響。

翻訳という思想に付随する梵漢文と訓読。

翻訳という日本人の特性と限界。

最古へのまなざしの研究こそが最先端。

なぜ、中国では梵語の仏典が原語で読まれるのではなく、中国語に翻訳されたのであろうか。愚問ではない。コーランは翻訳不可、聖書もルターまではラテン語のみ。仏典は翻訳に儀典も受け入れ大蔵経になってしまった。p.34

仏教とは。

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サブカル大蔵経799梶山雄一『大乗仏教の誕生』(講談社学術文庫)

サブカル大蔵経799梶山雄一『大乗仏教の誕生』(講談社学術文庫)

ものすごくありがたい本書。

疑問を持つことに勇気をいただきました。

浄土の説得力を保担する現代の「中論」と言っていいのでは。

大乗仏教という車の両輪ともいえる阿弥陀仏信仰と空の思想が、実は業報輪廻の思想の超克という同じ目的をもって発展してくること、それは、西暦紀元前後の外来民族のインド侵入と西アジア文化の流入とを契機として成立してくることを、本書において語りたい、とわたくしは思う。p.26

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サブカル大蔵経798中村元『東方の言葉』(角川ソフィア文庫)

サブカル大蔵経798中村元『東方の言葉』(角川ソフィア文庫)

講演会で中村元先生にお目にかかれた時、リアル生き仏だと思いました。

穏やかで、偉ぶらず、偏らず、学識と人格が両立してる方を目の当たりにしました。

しかし、中村先生の膨大な書物には、どれもある〈覚悟〉が溢れています。

宗教の通俗化とか平易化ではなくて、民衆の生活のことばをもって理解し表現することこそ、宗教への真実の道であるという強い確信である。p.4

〈生活のことば〉によって〈宗教への真実の

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サブカル大蔵経791磯崎憲一郎『肝心の子供/眼と太陽』(新潮文庫)

サブカル大蔵経791磯崎憲一郎『肝心の子供/眼と太陽』(新潮文庫)

『「利他」とは何か』(集英社新書)の執筆者のひとり磯崎憲一郎さん。個々の作家が物語を紡ぐのではなく、大きな物語の流れをその時代時代に現れた作家が代弁して書く、みたいな文章がすごく印象的でした。

磯崎が私淑した保坂和志、保坂が傾倒した小島信夫。その流れを追うことで、私も第三の新人に辿り着くことができました。

磯崎さんの小説「肝心の子供」は、なんとブッダの話でした。しかもその息子と孫の三代に渡る話

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サブカル大蔵経753松岡正剛『仏教の源流』(角川ソフィア文庫)

サブカル大蔵経753松岡正剛『仏教の源流』(角川ソフィア文庫)

千夜千冊から印度学仏教学を選んだもの。

真宗にとっての法華経、華厳経、般若心経、声聞・縁覚、観音菩薩を想う。

松岡正剛さんの印哲と仏教に関する編集。

仏教を抹香臭いものにしたままでは、いけない。仏陀本人はラディカルで、アナーキーだった。p.5

 パンク・ブッダ。

ブッダはこの「外道」の中から登場してきた。p.19

 仏教こそが外道だった。

ブッダの思想は一言でいうのなら、世の中に幻想

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サブカル大蔵経734植木雅俊『法華経とは何か』(中公新書)

サブカル大蔵経734植木雅俊『法華経とは何か』(中公新書)

真宗僧侶にとって食わず嫌いの法華経。

植木さんの学業のおかげでもっと真宗僧侶が法華経を偏見なく自由に読める時代になるといいなと思います。

法華経を通して仏教を知る。

中国仏教を通して仏典を理解するというやり方にも疑問を持った。p.ⅴ

 本書での岩波文庫での岩本裕さんの訳業を批判する姿勢は、経典の正しい理解のために、玄奘がインドに経典を取りに行くモチベーションに近いのでしょうか。

『法華経

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サブカル大蔵経560井上靖『天平の甍』(新潮文庫)

サブカル大蔵経560井上靖『天平の甍』(新潮文庫)

小説を読んで久しぶりに感銘と余韻を感じました。身につまされました。旭川の井上先輩、ありがとうございます。

わたしたちの知っている仏教とは何か。

そして、本を書き写すということは何か。

経典の語義の一つ一つに引っ懸っている日本の坊主たちが、俺には莫迦に見えて来た。きっと仏陀の教えというものは、もっと悠々とした大きいものだと思うな。p.31

 難民という〈現場〉を見た戒融の言葉。

第二船には

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サブカル大蔵経437アルボムッレ・スマナサーラ/養老孟司『希望のしくみ』(宝島SUGOI文庫)

サブカル大蔵経437アルボムッレ・スマナサーラ/養老孟司『希望のしくみ』(宝島SUGOI文庫)

やはり、養老孟司さんの仏教話は面白い。スマナサーラさんのクドさも中和されて、仏教の基本に帰る場所を考えさせられる。

口が悪すぎてなかなか…p.18

 スマナサーラさんとサンガ社の存在は、既存の仏教宗派にとって現れた黒船だったのではないでしょうか。耳の痛いことも多かったのかもしれませんが、無視するか、批判するか、の対応が多かった気がします。オウム真理教が起こった時と似ている気がします。相手の怪し

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