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50年以上同じ仕事を続けた人を追うメディア「ひとすじ」

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2024年秋には写真集を刊行予定です。 50年間何かを続けるって、すごい。27年生きていて、呼吸以外で毎日欠かさずしているものってない気がするので、そんなすごい人たちに仕事や生き…
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#ひとすじ

「もう好きが違っとうですよ。」海の上で生きる、78歳現役漁師

「もう好きが違っとうですよ。」海の上で生きる、78歳現役漁師

長崎県の五島列島のひとつ、福江島の西端に位置する玉之浦町。玉之浦で定置網漁業に従事する柿森 強さん、御年78歳は漁師歴62年だ。我々は、会ってそのまま柿森さんの船、「恵美丸(えみまる)」に同船し、5時間漁の様子をみさせてもらった。幸運なことに、1,000匹ものブリ大漁の瞬間に立ち会うことができた。

そのまま、柿森さんご夫婦の民宿「たまのうら」(現在は営業休止中)に特別に滞在させてもらい、恵美子さ

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心と音楽で、3000人の子どもたちと通じ合う。96歳の主任保育士

心と音楽で、3000人の子どもたちと通じ合う。96歳の主任保育士

栃木県足利市、山の麓の自然豊かな土地に立つ、「小俣幼児生活団」。築170年の国登録有形文化財、趣のある園舎の周りを、子ども達が自由に駆け回るこの場所に初めて立った時、タイムスリップしたような…いや、ここはただ古いだけではない。漂う空気がまるで私の普段生活する環境とは違っていて、異世界にトリップしたような。そんな感覚に陥りました。

子ども達は、ここで過ごすことを心の底から楽しんでいて、自由に意思を

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「片思いなんてない」 サウナの聖地で愛し愛されて

「片思いなんてない」 サウナの聖地で愛し愛されて

岐阜県大垣市には、知る人ぞ知るサウナの聖地がある。その名も「大垣サウナ」。1966年の創業以来、地元の名士から日本各地のサウナ愛好家まで、時代を超えて愛されて続けている。

いったい何がここを聖地たらしめているのか。水の都として知られる大垣市の豊富な地下水を汲み上げた水風呂は「奇跡の水風呂」の異名を持つ。また、その佇まいから内装に至るまで昭和のレトロな面影が残っている同館は「岐阜最古のサウナ」とも

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「アイヌ文化のおかげでお客さんがくる。こんなありがたい商売はない。」

「アイヌ文化のおかげでお客さんがくる。こんなありがたい商売はない。」

2024年3月下旬。都内は少し春の陽気を感じ始めたタイミングで釧路へ。
想像より雪がない釧路駅からバスに揺られること約2時間。真っ白になった阿寒湖を横目に、アイヌの村を意味する「アイヌコタン」に到着した。

「アイヌコタンにお越しの皆様へご案内します〜」という女性のアナウンス声やアイヌの楽器であるムックリの音が乾いた空気に響き、雪がしんしんと降り続ける、そんな場所だ。

今回はお店を始めて51年、

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「牧場を守るためには、攻め続けないかん」二人三脚で探り当てたチーズづくり

「牧場を守るためには、攻め続けないかん」二人三脚で探り当てたチーズづくり

神戸の閑静な住宅街を抜けてすぐの場所に弓削(ゆげ)牧場はある。
牛舎だけでなく、チーズ工房、チーズハウス「ヤルゴイ」、バイオガス施設、畑など多種多様な施設が集まった牧場だ。

今回お話を伺ったのは、弓削 忠生さん・和子さんご夫妻。
「牧場を守るために攻め続けないかん。」

今でこそ、高級ホテルや百貨店でも取り扱われているチーズを製造しているが、弓削牧場の初代である吉道さん亡き後、牧場の存続のために

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占うことは、困った人に寄り添うこと。

占うことは、困った人に寄り添うこと。

多くの占い店がひしめく、横浜・中華街。メインストリートに面した、「華陽園」で働くのは、この道50年の葵和歌先生。
タロット、手相、占星術…様々な方法で占いをすることができるという葵先生ですが、特にタロットをメインに多くのお客様を占っているのだそう。

初めて葵先生のところに伺う際、私は、占いをしていただくこと、お話を聞かせていただくこと、その両方に緊張していました。しかし、占いをしてもらううちにそ

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『ひとすじ』のいきさつ

『ひとすじ』のいきさつ

こんにちは。ひとすじメンバーの後藤です。
今回はインタビュー記事はおやすみ、プロジェクトのヒストリー編です。
(前回のヒストリー編:「ひとすじ」を一人ではなく、チームでやる理由)

なぜ『ひとすじ』というタイトルに辿り着いたのか、その裏側を書いてみたいと思います。

言葉や名前の説明をすることは、時に野暮だったりします。
名前って、その名前がついた瞬間から、何故だかはじめからそれ以外なかったみたい

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100歳の現役薬剤師「今日も街のみんなの元気のために」

100歳の現役薬剤師「今日も街のみんなの元気のために」

板橋区小豆沢(あずさわ)、周辺にいくつかの薬局が立ち並ぶエリアに、薬局としては珍しく暖簾を出し、不思議で温かな雰囲気が目を引く「ヒルマ薬局小豆沢店」。
2018年に世界最高齢の現役薬剤師としてギネス記録にも認定された(2024年現在は別の方が記録を更新)、比留間栄子さんは、今もこの薬局で働いています。

日々お客様の体調や様子に耳を傾け、心と体を癒す薬剤師であろうと努力を続ける栄子さん。
戦争・貧

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「苦しみは、目だけでは見えない」神父に憧れたパン屋生まれの少年

「苦しみは、目だけでは見えない」神父に憧れたパン屋生まれの少年

晴れた冬の日曜日。福岡県・博多駅は、年末の雰囲気を帯びて、いつにも増して賑わっていました。
そこからタクシーで10分あまりの、街角にそびえる品の良い建物。美野島司牧センターです。
神父のコース・マルセルさんは、この仕事を始めて52年。日本での活動も50年になります。

「日曜にはミサがあります。取材も兼ねてぜひご参加ください」とお声掛けいただき、ひとすじチームは5名でお伺いしました。
約1時間のミ

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塗装技術の染みついた身体と、あふれ出る人情深さ

塗装技術の染みついた身体と、あふれ出る人情深さ

京都府京都市にある「徳岡塗装」で青色の作業車を磨くのは、社長であり塗装工の徳岡 秋男さん。

インタビュー中も、車を磨いたり部品をはめたり。そのスムーズな動きは、まさに身体に染み込んでいるようで、ついつい見惚れてしまうくらい。

飲みの席の知り合いや、勤めていた会社の従業員、お孫さん、97歳のお姉さんなどなど、徳岡さんの口からは、本当にたくさんの人の名前が出てきます。照れたように笑い、そっけなく話

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ちりめんからお守りへ。神仏の魂と機織屋の伝統を宿したものづくり

ちりめんからお守りへ。神仏の魂と機織屋の伝統を宿したものづくり

これまでに、6万1千種類ものお守りの絵柄を織る「松尾織物」。

ちりめんで有名な京都府京丹後市に位置する機織屋(はたおり・や)では、今日も織機(しょっき)が大きな音を立て、忙しなく動いている。自身の体よりもひとまわり大きいその機械を操るのが、この道63年の松尾 信行さん。

百年以上続く、家業である織物業を続けてきた秘訣。ヒントは、自身を新しい物好きだと語る松尾さんの、先を見据え、軌道を調整し続け

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「りんごは自分の子ども。」やさしい味の秘密とは?

「りんごは自分の子ども。」やさしい味の秘密とは?

宮城県気仙沼市。
カツオやサメの水揚げが日本一、昔から漁業のまちとして知られています。

漁港から車で20分弱、太平洋に面した唐桑半島には、58年前は麦畑だった場所に、100本の木を植えたりんご農家があります。

宮城県の農林水産大臣賞を3回も受賞したりんごを作っているのは、戸羽貫の千葉貫三さん、89才。

「長年りんご農家をやっていると、りんごの気持ちがわかるようになる」と語る大ベテランに、なぜ

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山奥に植物園を。「夢を見ながら終わる人生は幸せである」 信念をこめた地域づくり

山奥に植物園を。「夢を見ながら終わる人生は幸せである」 信念をこめた地域づくり

徳島県神山町にある四国山岳植物園「岳人の森」(がくじんのもり。)
四季色とりどりの草花を鑑賞できる山の植物園でありながら、オートキャンプ場やレストランも併設されています。

23歳で、何もない岩山で「岳人の森」を開発し始めたのが、山田勲さん。「こんなところに人が来るわけない」と地域の人や友人、家族にさえも期待されていなかったと言います。

植物を植えて順調にいっていても、ある時急に枯れてしまうこと

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「ひとすじ」を一人ではなく、チームでやる理由

「ひとすじ」を一人ではなく、チームでやる理由

「一匹狼」

自分のこれまでのフリーランス人生、4年弱を振り返ると、とてもいいことだとは思えないけど、このフレーズに表されてしまう。

もちろん映像制作という仕事柄、クライアントさんはいて、時にはチームで動くし、決して自分だけで完結するわけではないけれど、企画・撮影・編集をできるビデオグラファーの職種も相まって、基本的に一人で動くことが多かった。

そもそも一人っ子で、兄弟もいない人生を歩んできた

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