海国りん

役者 フィクション

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記事一覧

排気口『光に気づいた順に触れる指たち』終演

妹のコロコロ変わる表情が、しがみついてくるその腕が、明るく楽しそうなその声がたまらなく愛おしい。 終わりなんて想像したくないよ。 生きるの諦めないでよ。 私たちの…

海国りん
1か月前
1

今日もがんばったあなたへ

「辛い時、しんどい時、疲れた時に思い浮かぶご飯はなんですか?」 と聞かれたら私はこう答えるだろう。 「軟骨の唐揚げ。トリキのやつ。」 コリコリとした塩辛い唐揚げ…

海国りん
3か月前

アジフライ

あの惣菜屋さんを通る時、 一瞬ではあるがパッと探してしまうシロモノがある。 あーっ!!! 急ブレーキ!足を止めた。 今日はアジフライがある! サーモンフライにメン…

海国りん
3か月前
1

ふたり

ふたり 道をあるく ふたり 駅までの道をあるく ふたり 駅までの道をてくてくあるく その横を みどりのスウェットを着た青年が しろいマフラーを片手に走っていく ふた…

海国りん
4か月前
29

時に想像しあった人たち、終演

(珍しくノンフィクション舞台後記) 10月10日。 生きている。あれ、10月になってる。いつの間に。 サンボマスターを聴いて、ふらふらと帰ってるといつのまにか夜が明けて…

海国りん
6か月前
16

東京

全部が高くそびえ立って見えた 降り立ったこの土地で1人でたくましく生きていこうと思った ズルッ 足を取られる 黒い穴、蟻地獄みたいにじわじわと吸い込まれていく あれ…

海国りん
8か月前
5

君たちはどう生きたか

誕生日 一年に一度、生きていることを祝福される唯一の日である。 その日まで生きてきたことをまるっと肯定されるのである。 ここまで愛に満ちた一日が他にあるだろうか。…

海国りん
8か月前
3

踊り子

あのひとと私を繋ぐリボン、彼の人と私を繋ぐリボン、あの他人と私を繋ぐリボン、それぞれが引っ張る。 引っ張られて、巻かれて、回って 私は踊る 次はあっち、その次は…

海国りん
1年前
5

翼くん

最近1日にいくつも夢をみる。 バラバラのいろんな夢。 まだ私にこれだけの想像力が残されていたのかと驚く。 全部起きた時には朧気で、顔を洗ってる間には忘れてしまうのだ…

海国りん
1年前
3

水族館を泳ぐ

ゆらゆらと絡み合いながら流れていくクラゲの足 キラキラと輝きながら流れていくサカナ 誘うようにひらひらと流れるイソギンチャク 平和、平和、平和である。 分厚いガラ…

海国りん
1年前
6

大人の追いかけっこ

気分が乗ったのでイヤホンつけたまま駅から私、走り出した。両手を広げてTの字。肩にかけたカバンぶらぶら。その姿はDr.スランプアラレちゃん(23)。 タッタッタッタッ い…

海国りん
1年前
1

沈むように落ちていくだけ

「伸ばした手を掴んで」 なんて、曲や映画でしかないもんだろ 台に上ってカップ麺に伸ばしかけた手を引っ込めた。 やーめたやめた カップ麺の外袋を開けて、 カップの中の…

海国りん
1年前
1

金喰い

東京駅まで友達を見送り、日本橋駅へと歩く。 ふと目の端にイルミネーションの光がかかった。 そうだ。 綺麗なイルミネーションがあったんだ。 進行方向である会社から遠…

海国りん
1年前
1

第5回台湾カステラの行末

上京してから早9ヶ月、 20代一人暮らしが次々と酒、タバコ、ギャンブルに狂い、ギラギラとした夜の中で踊り狂うその頃、 私は "ホットケーキミックス・炊飯器で作る簡単台…

海国りん
1年前
2

"silent"の影響

昨日、木10ドラマ"silent"が最終回を迎えた。 ビッグラブだった。 毎週木曜日が来るたび、愛とは何かを考えた。 世間も"silent"の話題で持ちきり、髭男のSubtitleは今やク…

海国りん
1年前
2

宇宙戦争

前方に敵機を発見。 バキューンバキューンバキューン ったく、何年経っても敵は現れるものだ。 これじゃあ地球に帰還するのはまだ先になりそうだな…。 地球の平和は俺が…

海国りん
1年前
3
排気口『光に気づいた順に触れる指たち』終演

排気口『光に気づいた順に触れる指たち』終演

妹のコロコロ変わる表情が、しがみついてくるその腕が、明るく楽しそうなその声がたまらなく愛おしい。
終わりなんて想像したくないよ。
生きるの諦めないでよ。
私たちの視点の違いに気づけないまま
祈ってしまう。
私たちの生の続きと光ある未来を。
ねぇ、レミコ、生きようとしてよ。

夕暮れ、
血の繋がった私の言葉より、
さっきできたばかりのチームや、
1人で何人も抱えてる他人の職員の言葉の方が
彼らに届き

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今日もがんばったあなたへ

今日もがんばったあなたへ

「辛い時、しんどい時、疲れた時に思い浮かぶご飯はなんですか?」

と聞かれたら私はこう答えるだろう。

「軟骨の唐揚げ。トリキのやつ。」

コリコリとした塩辛い唐揚げとおっきいハイボール。
社会に出てからというもの、労働で疲れた時は必ず頭と喉の奥にそれが現れるのである。
座り仕事でも立ち仕事でも関係ない。
汗水垂らして働く日も、甘い匂いに包まれて働く日も、あの軟骨の唐揚げが、疲れた脳裏にやってくる

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アジフライ

アジフライ

あの惣菜屋さんを通る時、
一瞬ではあるがパッと探してしまうシロモノがある。

あーっ!!!

急ブレーキ!足を止めた。

今日はアジフライがある!
サーモンフライにメンチカツ、コロッケ、唐揚げ、スコッチエッグ……
いつも売り切れて空席だったアジフライのスペースに!!アジフライが!!ある!!!!

いそいそと列に並ぶ。前には4人ほど。

えーっ、こんな昼ど真ん中の時間帯にアジフライにお目にかかれるな

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ふたり

ふたり

ふたり
道をあるく

ふたり
駅までの道をあるく

ふたり
駅までの道をてくてくあるく

その横を
みどりのスウェットを着た青年が
しろいマフラーを片手に走っていく

ふたり
顔を見合わせる

その横に
コインランドリー、ちらり
乾燥機のにおい、あったかい

「天気いい」

乾燥した空気
さむい

ふたり
は、となり

わ。
じんわり
あったかい
あったかい

ふたり
駅までの道を手を繋いでてくて

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時に想像しあった人たち、終演

時に想像しあった人たち、終演

(珍しくノンフィクション舞台後記)

10月10日。
生きている。あれ、10月になってる。いつの間に。

サンボマスターを聴いて、ふらふらと帰ってるといつのまにか夜が明けて白んだ空が見えていた。
時に想像しあった人たちの舞台みたいなこの商店街がお気に入りなのだが、なくなるらしいということを別の街の誰かから聞いた。本当かどうかは知らん。

排気口『時に想像しあった人たち』では
演出助手、制作、一部衣

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東京

東京

全部が高くそびえ立って見えた
降り立ったこの土地で1人でたくましく生きていこうと思った

ズルッ

足を取られる
黒い穴、蟻地獄みたいにじわじわと吸い込まれていく
あれ?これ気持ちいいかも

まとわりついて入り込んでくる「それ」は
私にあいた穴という穴を埋めてくれた
スースーする場所が、じんわりとあたたまったような気がした

「それ」はニコニコしながら代償を要求した
不安、孤独、寂しさ、虚しさを埋

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君たちはどう生きたか

君たちはどう生きたか

誕生日

一年に一度、生きていることを祝福される唯一の日である。
その日まで生きてきたことをまるっと肯定されるのである。
ここまで愛に満ちた一日が他にあるだろうか。

ガチャリ

帰宅
先ほどスーパーで購入したものを冷蔵庫に放り込む

酔っている
泥酔である

「あ〜掃除しなきゃ」
「流しも片付けなきゃ」
「明日の用意…」
「お風呂入りたい」
「脚本送らなきゃ……脚本……」

酔うと独り言が止まら

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踊り子

踊り子

あのひとと私を繋ぐリボン、彼の人と私を繋ぐリボン、あの他人と私を繋ぐリボン、それぞれが引っ張る。
引っ張られて、巻かれて、回って

私は踊る

次はあっち、その次はこっち、
リボンの絡みついた手を伸ばし引かれるままにステップを踏む

時に絡まり締め上げられる
それでも切ることができない。切ることができない。

「マリオネットなら救われたのに、
主さえいなくなれば自由になれるんだもん」

嗚呼、

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翼くん

翼くん

最近1日にいくつも夢をみる。
バラバラのいろんな夢。
まだ私にこれだけの想像力が残されていたのかと驚く。
全部起きた時には朧気で、顔を洗ってる間には忘れてしまうのだが。

最近夢が怖い。
夢に振り回される。いろんなものを捨てて、あちらこちらの扉を開ける。
ふと振り返った時、人望も実力も伴っていないことに気づくのだが。

夢は希望であり絶望だ。
ああもう、どうせなら遠く遠くまで羽ばたいてしまえ。

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水族館を泳ぐ

水族館を泳ぐ

ゆらゆらと絡み合いながら流れていくクラゲの足
キラキラと輝きながら流れていくサカナ
誘うようにひらひらと流れるイソギンチャク

平和、平和、平和である。

分厚いガラスの平和な世界を覗き見る。
あぁ、まるで

組織みたいだ。

毎日自分の水槽で息をする。
同じ時間に起きて、同じ時間の電車に乗る。
見知った人々に挨拶をして、
月の業務が始まる。
隣の水槽には何がいるのか知らない。
大きな海を知らない

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大人の追いかけっこ

大人の追いかけっこ

気分が乗ったのでイヤホンつけたまま駅から私、走り出した。両手を広げてTの字。肩にかけたカバンぶらぶら。その姿はDr.スランプアラレちゃん(23)。

タッタッタッタッ

いつもはちょっと走ったら飽きて歩いちゃうんだけど、なんだか今日は止まる気にならなくてそのままずーっと走った。

(縺ィ縺セ縺」縺ヲ繝シ〜!)

ふと、後ろからすごい呼ばれてる気がして振り返った。
顔真っ赤にしたサラリーマンがこちら

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沈むように落ちていくだけ

沈むように落ちていくだけ

「伸ばした手を掴んで」
なんて、曲や映画でしかないもんだろ

台に上ってカップ麺に伸ばしかけた手を引っ込めた。
やーめたやめた
カップ麺の外袋を開けて、
カップの中の袋出して、
お湯沸かして、
お箸用意して、
お湯入れて、
後がけの袋破いて入れて、
食べたら袋に入れて捨てて、
あぁ
めんどくさいって
なんかそこまで考えたら別にお腹空いてないかもとか思えてきた。

あの時考えたみたいに
ふっと体重を

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金喰い

金喰い

東京駅まで友達を見送り、日本橋駅へと歩く。
ふと目の端にイルミネーションの光がかかった。

そうだ。
綺麗なイルミネーションがあったんだ。
進行方向である会社から遠ざかる通りと右手に現れたイルミネーション通りとちょっと迷って私はキラキラした通りへ足を進めた。

金曜日。
華金を迎えたサラリーマンやOLがざわめいている。
イルミネーションで照らされた人々の顔は晴れやかだ。

ドクンドクン

鼓動が早

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第5回台湾カステラの行末

第5回台湾カステラの行末

上京してから早9ヶ月、
20代一人暮らしが次々と酒、タバコ、ギャンブルに狂い、ギラギラとした夜の中で踊り狂うその頃、
私は
"ホットケーキミックス・炊飯器で作る簡単台湾カステラ"
に取り憑かれていた。

ある時見かけたホットケーキミックスによる台湾カステラがあまりにも簡単手順で、作ってみるかと動いたのが始まりだった。

第1回
お菓子作りを甘くみすぎていた。
ホットケーキミックス90gを
まあ誤差

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"silent"の影響

"silent"の影響

昨日、木10ドラマ"silent"が最終回を迎えた。
ビッグラブだった。
毎週木曜日が来るたび、愛とは何かを考えた。
世間も"silent"の話題で持ちきり、髭男のSubtitleは今やクリスマスソングより流れているかもしれない。
私は「同じ」と「プリン」と「頑張る」の手話を覚えた。
そんな木10ドラマ"silent"が最終回を迎えた。

翌日、私は美容院の椅子に座っていた。

あのドラマの影響だ

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宇宙戦争

宇宙戦争

前方に敵機を発見。
バキューンバキューンバキューン

ったく、何年経っても敵は現れるものだ。
これじゃあ地球に帰還するのはまだ先になりそうだな…。
地球の平和は俺が守る。
そう、俺は選ばれし宇宙戦闘員なのだ。
地球は青く、美しい。あそこで生き物が生活している。生きとし生けるものすべての平和と暮らしを俺が支えていると思うと、背筋が伸びる。

しっかし、数年前までは、撃つか撃たれるかの
一瞬で生死を分

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