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世界を救おうと思った(のに)

子どもはみんなそうなのか。
私が特にそうなのか。
わからないけど、昔の話。

元気と努力がとりえの小学生の時、夏休みの自由研究に腕まくりした。ちょっと背伸びをして難しいことに取り組んでみたかったのか、*法定伝染病を選んだ。
(*コレラ、赤痢などを含む11種の伝染病のこと。これらを指定していた伝染病予防法は1998年に廃止。現在は感染症予防・医療法に改定。)

今ならネットでさくさく調べられる内容を図書館に通って資料を探し、わからない漢字は辞書を引き引き、恐ろしい症例写真にドキマギしながら、完成させた。(百科事典の丸写しでは無かったと思う。)調べ物をして、レポートにまとめるという作業自体はじめてだったので、新学期早々発表の席ではそれなりに興奮して鼻の穴も膨らんでいた。自信満々だったし、頭の中は法定伝染病のことでいっぱいだった。

だから、直後に学校のトイレを使おうとした時、飛び上がったのも無理もない。トイレのドアを閉めるのも忘れ、担任の先生のもとへ走った。

「鈴木先生、たいへんです!この学校に赤痢の人がいます!」真剣そのものだった。
「早く!なんとかしなければ。みんな死んでしまいますっ!」先生、微動だにせず。
「ほんとうなんです!先生、赤痢は怖い病気なんです!」困った顔をするだけで行動に移そうとしない先生。

こうなったらみんなで自主避難するしかないのか?すわ学校閉鎖か?どうしようどうしよう、と世界を救えないもどかしさに地団駄を踏む私の形相にわらわら集まってきた子ども達を、あの時先生はどう収めたのか。

その日から2〜3日して、高学年の女子(当時、男子は含まれなかった)が図書室に集められ行われた緊急保健教室で、私ははじめて女子の第二次性徴について知ることになる。

なんだ、そうだったんだ。

法定伝染病の前に、生理のことも知らなかった私。みんなは知ってたのかな、とまわりを見回したその時、下を向いて恥ずかしそうにしている1人の同級生に気がついた。

ああ、そうだったんだ。

なんと申し訳ないことを。○村さん、ごめんね、ごめんね。心の中で汗をかいて謝ったけど、もう後の祭り。

世界を救おうと思って、自分の無知を教えられた、あの日。正義のヒーローが大好きだった、小学5年生。

半分だけの正義のヒーローに世界は救えない、というお勉強。夏休みの自由研究、本当はこっちの方だったのかも。

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