マガジンのカバー画像

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

39
フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
運営しているクリエイター

#小説

【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

空手フリムンとは?

フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムンな半生(または反省)を描いたノンフィクション作品である。
(記:月刊まーる編集部)

序章

 巨木がひしめく森で視界を遮られ、天を仰いだその視線の先から僅かに覗く星空に思いを馳せる。そんな表現が適切

もっとみる
【自伝小説】第2話 小学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

血ぃーごーごー事件

 突然、辺り一面に悲鳴がこだました。そこは某小学校のグラウンド。少年野球チーム、「武蔵」の本拠地だった。まだ5年生ながら、そのチームのキャプテンを務めていた少年。

その日は練習日ではなかったが、気の合う仲間たちと休日を楽しんでいた時に事件は起きた。

 当時、その学校のバックネットは、4m程の角材に緑色の網を縛り付けただけの即席ネットであった。そんな弱々しいバックネットに、

もっとみる
【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

未来少年

その頃の石垣島にはまだ民放はなく、テレビ放送はNHKのみ。更に少年が5年生になるまでアニメ放送は皆無で、子ども向けに放送されていたのは人形劇のみであった。

その日、石垣島に激震が走った。遂にお茶の間でアニメが見られる日が来たのだ。

子どもたちは飛び上がって歓喜し、「ビートルズがやってきたYAYAYA」どころの騒ぎではなかった。

そんな記念すべきアニメ放送の第一弾は、未だ根強いファ

もっとみる
【自伝小説】第3話 中学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ドラゴンロード

あの時代は、全国的に校内暴力が蔓延り、日常的に不良少年が我が物顔で跋扈していた時代であった。

例外に漏れず、この島でもビーバップワールドが広がっていた。

少しばかり郊外に行けば、必ず金銭を巻き上げられるのが常であった。

そんな中でも、群を抜いて暴君が蔓延る地区があった。

通称「七町内」である。

そこは泣く子も更に泣き出す悪夢のような地区だった。

ちなみにそこを通過する

もっとみる
【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

実戦の定義いきなり始まった代表戦。二人を取り囲んだ敵側の仲間が、少年にのみ次々と罵声を浴びせてきた。

これ以上の恐怖は他にない。しかし、何もしなければフルボッコは確実だ。

少年は仕方なくジークンドー(李小龍が考案した武術)のサイドキック(足刀横蹴り)を繰り出した。

だが、いつもよりスピード、タイミング、角度までもがイマイチだ。

足がすくんでいるのだから当然だ。

直後、その空手野郎が「フシ

もっとみる
【自伝小説】第3話 中学校時代(4)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(4)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

警察故事「オワタ」
「完全にオワタ」

少年は心の中でそう呟きながら、人生初となるパトカーの後部座席に身を委ねた。

そして、署でおまわりさんにこっぴどく叱られた後、保護者に連絡を取るため自宅の電話番号を聞き出された。

時計の針は既に深夜を指していたが、寝ているはずの祖母の事を思いながら、泣く泣く電話番号をおまわりさんに告げた。

それから僅か数分後の事であった。

「いや…あの……」「〇×▼※

もっとみる
【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ケンカ空手
部活を辞め、町道場に通う決意をした少年。

退部した後も、顧問の先生から執拗に戻るよう説得されるも、意固地な少年の心が揺らぐことはなかった。

これが少年の良いところでもあり、悪いところでもあった。

しかし、この一本気な性格のお陰で、俗に言うミラクルを何度も引き起こすのだから、それはそれで良かったのだろう。

ただ、それもまだまだ先の話しである。

それから暫くして、知人の紹介で極真

もっとみる
【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

虹とスニーカーの頃強さに憧れるが余り、これまでファッションには殆ど興味の無かったフリムンだったが、イキりだした頃から少しずつヤンチャなファッションに傾倒していった。

開襟シャツやツータックのボンタン。それと先の尖った革靴が欲しくて堪らなかったフリムン。

バイトの新聞配達も辞め、遊び呆けてばかりで金欠だった彼は、程なく知り合いから「お下がり」を「おねだり」するようになっていった。

そうして何と

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

花の都数あるスポーツの中から格闘技を選び、数ある格闘技の中から空手を選び、数ある空手の中から極真を選んだフリムン。

彼の細胞が、キョクシンの世界観にドンピシャに反応した結果であった。

そんな極真の黒帯を取得し、石垣島に極真空手を広める。その夢の実現のために上京を決意して早1年。

フリムンは19の春を迎えていた。

漸く辿り着いた夢にまで見た大東京。フリムンがそこで見た光景は、余りにも発展した

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(1)

巧の技

はじまりnoはじまり今から32年前の1991年。2m100kgクラスの超大型外国人選手も出場する4年に一度の「極真世界大会」で、僅か165cm70kgの日本人選手が見事頂点に立った。

フリムン(当時25歳)が石垣島に帰省して直ぐの事である。東京に住む友人からその報せを受けたフリムンは、体を震わせながらこう呟いた。

「俺はいったい何やってんだ…」

主治医から「過度な運動は一生禁止」

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

ゴッドハンド来沖極真会館が沖縄に支部を設立して5年目の事である。

遂に県内で初めての公式大会、「全九州空手道選手権大会」が開催される運びとなった。

まだ沖縄県大会が始まる1年前の事である。

フリムンは、この大会を是が非でも観戦しなければならなかった。

何故なら、この世界で本格的に活動するために、県内に住む空手家たちのレベルを知っておく必要があったからだ。

石垣島ではまだ脅威となる相手に出

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【カチコミ前日】父の眠る仏壇に手を合わせ、神妙な面持ちで物思いに耽っていたフリムン。これまで生きてきた27年と10か月という人生の中で、父と過ごしたのは僅か2年。

よって彼の記憶の中に、写真以外の父の姿は存在しない。

子を授かり、親となって初めて父の無念さを痛いほど感じることができたフリムン。

「きっと、親父も我が子に背中を見せたかったに違いない」

そう思うと、志半ばでこの世を去った父が不

もっとみる
【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

ターミネーターここまで順調に駒を進めてきたフリムン。
そんな彼の鼻を、根元からポッキリと折る初めての空手家と相まみえる事となった。

開始早々、フリムンは得意の突きの連打に加え、左ミドルやローをガンガン飛ばしながら早い段階で試合を終わらせようとしていた。

何故なら、彼の肉体が“細胞レベル”で相手の強さを感じ取っていたからだ。

スパーリングの相手も居らず、実戦不足によりスタミナに自信の無かったフ

もっとみる