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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

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フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
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#自伝的小説

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【肉体改造】ウエイトトレーニングに没頭するフリムンに、師範から昇段審査を受けるよう指令が出た。

弐段を許されてから5年後のことであった。

前回の審査の時と違い、現役を退いてからかなりの年月が経っていた事もあり、フリムンは審査に向けある事に着手した。

そう、筋肉の質を変える「肉体改造」である。

空手用の筋肉とパワー用の筋肉は全く違う。

パワー競技に筋持久力やスタミナは必要ないが、空手の試合

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【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

FIRST LOVE(初恋)

何だかんだあった中学校生活(あり過ぎやっ)、

入試直前に「深夜徘徊」と「無免許運転」で補導されたにも関わらず、奇跡的に県立Y高に入学する事ができたのは、これが初犯であった事と、先生方へのウケが良かった事などが上げられよう。

昔からよくトラブルに巻き込まれてはいたものの、平和主義で揉め事が嫌いだった少年。それを先生方はキチンと見抜いてくれていたのだ。

ただ、そん

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【カチコミ前日】父の眠る仏壇に手を合わせ、神妙な面持ちで物思いに耽っていたフリムン。これまで生きてきた27年と10か月という人生の中で、父と過ごしたのは僅か2年。

よって彼の記憶の中に、写真以外の父の姿は存在しない。

子を授かり、親となって初めて父の無念さを痛いほど感じることができたフリムン。

「きっと、親父も我が子に背中を見せたかったに違いない」

そう思うと、志半ばでこの世を去った父が不

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(3)

【行ったり来たり漫才】遂に七戸師範との邂逅の瞬間がやってきた。

県大会では挨拶程度の会話しかできなかったが、これから行うのは挨拶なんて生易しいものではない。まかり間違えば、逆鱗に触れるかも知れない重大な話し合いなのだ。

意を決したフリムンは、一歩ずつ、一歩ずつ、高校時代からの夢を叶えるために道場までの階段を上り始めた。

しかし、途中まで来ると何故か突然心拍数が爆上がり。

呼吸を整えるために

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(4)

【初審査】入門から3ヶ月後、遂に審査の日がやってきた。
フリムンの白帯に、偽物ではなく本物の色が付く日がやってきたのである。

ちなみに極真の審査は、内容の厳しさもそうだが、黒帯を取るまでに最低でも10回は審査を受けなければならないという厳しさがある。

「白帯」→「橙帯」→「橙帯一本線」→「青帯」→「青帯一本線」→「黄色帯」→「黄色帯一本線」→「緑帯」→「緑帯一本線」→「茶帯」→「茶帯一本線」

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(2)

【大脱走】術後、そのまま入院する事となったフリムン。

病院のベッドで天井を見つめながら、あの東京での悪夢を思い出していた。

「俺はどうしてこんな星の下に生まれたのだろう」

生まれてこの方、上手くいった試しがなかった我が人生。

もうこのまま朽ち果ててしまうのだろうか。そんな事を考えながら、同好会の先行きや家族のことで頭を悩ませていた。

そんな入院中に、突如沖縄本島より先輩が二人お見舞いに来

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(3)

【義務教育】1996年。長女が誕生してから5年後に次女が誕生。真に美しい女性になるよう「真美」と名付けられた。

生まれた時からどこか光るものを持ち合わせていた彼女。

笑顔が可愛いという理由で、百日写真を撮ってくださった写真館さんが長きに渡り展示してくれた程である。



その頃より、長女も父親の下で空手を学ぶようになり、フリムン家では極真空手が義務教育の一環となった。

もちろん、次女も例外

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第8話 暗雲編(4)

【初来島】石垣島に、師範が初めて足を踏み入れる日がやってきた。

同好会初の審査会のためである。

何だかんだで会員数も爆上がりし、同好会ながら他の空手道場よりも活気に溢れていた石垣同好会。

しかし、流石にフリムンと同じく那覇で審査を受けさせる訳にはいかないので、師範の配慮により石垣島で受けられる事となった。

ただ、大変なのはフリムンの方だ。

那覇に行けば、諸先輩方が常に近くに居るが、石垣島

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(1)

【死ぬこと以外はかすり傷】傍から見れば、順風満帆に思える空手ライフであったが、入門から僅か1年で引退に追い込まれるなど、先行き不安しか感じていなかったフリムン。

28歳になったばかりの若者に突き付けられた、余りにも酷なこの現実。

既にモチベーションを保つので精一杯だったが、安息の地へ逃亡するという選択肢はフリムンにはなかった。

「ここで逃げたら死ぬまで後悔する」

これまでも、そしてその先も

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(2)

【ナースの♡お仕事】そのまま手術室に拉致られ、若いナースさんにいきなりズボンと下着を脱ぐよう命じられたフリムン。

「ま、またかよっ!( ̄▽ ̄;)」

あの骨折手術での悪夢が再び脳裏を過ったが、既に彼の下半身は生まれたままの姿となっていた。

しかも、今回の手術は足ではなくデリケートゾーンだ。

その恥ずかしさたるや、あの「ムスコッティ鷲掴み事件」とは雲泥である。

早速、初対面のナースさんの前で

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(3)

新道場この頃から、入門者が増加の一途を辿り、道場に入りきらなくなってきたため建て直すことを計画していたフリムン。

そのキッカケを作ってくださったのが、義叔父(ぎしゅくふ)に当たるAおじさんであった。

沖縄サミットで使用されたプレハブが安く販売されていたのを受け、Aおじさんが購入手続きをしてくださった。

そして、道場の建設工事を請け負ったのは、当時業界でその名を馳せていた義理のお父さんであった

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第9話 逆襲編(4)

祖母の涙孫やひ孫の活躍だけでなく、道場生の育成や社会貢献に奔走するフリムンを見て、これまで空手に反対していた祖母が突如フリムンにこう言った。

「ゴメンね」
「本当に空手が好きだったんだね」
「なのに反対ばかりしてゴメンね」

そう言って涙を流し、フリムンの頬を撫でた。

祖母にようやく認めてもらえたフリムンは、今まで以上に本気で空手に打ち込もうと決意。

自身の修業だけでなく、道場生の育成、青

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(1)

転落人生20人組手を完遂して弐段位を許されたフリムンであったが、その翌年、GYMでのトレーニング中にまたもや悲劇に見舞われる。

ウエイト制県大会(今回は重量級)に向け更にパワーアップするため、当時ベンチプレスのMAXであった150㎏を持ち上げようとしたその刹那であった。

肩甲骨付近の筋肉に激痛が走り、そのまま力尽きて撃沈。その痛みたるや、まるで日本刀で切り付けられたようであった。

(切られた

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