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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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#宇宙SF

『少年と人工衛星』

『少年と人工衛星』

少女は丸い窓から外を眺めた。
毎日、同じ時間にここにやってくる。
この時間になると見えるのだ。
暗い空間の向こうに、青い星が。
母親からは、あの星がふるさとだと教えられた。
ふるさとというのは生まれた場所のことだ。
覚えていないというと、
「当然でしょ。あなたはここがふるさとなの」
ここでは、みんなが同じところで生まれる。
ふるさとという言葉に意味があるとは思えなかった。
それでも、ふるさとという

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『星の涙』

子供たちは、じゃれ合うようにして遊んでいる。
僕は、それを眺めながら、今日も静かな夜空に感謝をする。
そして、いつものように報告をする。
子供たちは、ほら、元気だよ。
3人の子供は、みんな楽しそうに走りまわっているよ。

もちろん、返事はない。
妻はもうこの世にはいない。
彼女は子供の成長を見ることなく亡くなった。
僕は、毎日、毎夜、こうして、妻に語りかけている。

僕たちは常に遠距離恋愛だった。

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『故郷を見上げて』

『故郷を見上げて』

その男は突然話しかけてきた。
「僕、あそこに帰りたいんです」

年齢は同じ30代半ばあたり。
同じようにスーツを着ている。
一見、普通のサラリーマンだ。
昼休み、公園のベンチでサンドイッチを食べ終わった頃に隣に腰掛けてきた。
そして、突然話しかけてきたのだ。
「僕、あそこに帰りたいんです」
その男は空を指差して、もう一度言った。

ここは関わらない方がいい。
席を立とうとした。
「思い出したんです

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『まだらの地球』

『まだらの地球』

久しぶりの休日だった。
遅く起きた僕は送られてくるニュースをベッドで読んでいた。
子供たちは外で遊んでいる。
あまり高いところに行っちゃダメよ。
妻の声がする。
どうせあのおもちゃでは高度1キロくらいにしか行けないだろう。
それでも油断すれば大けがをする。

突然、コール音がベッドの枕のあたりから響き渡る。
研究所からだ。
片手でスクリーンを目の前に呼び出す。
すぐに来られるかね。
所長は休みのと

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『銀河系より』

『銀河系より』

マンションに戻り、明かりをつける。
マスクを蓋のついたゴミ箱に投げ入れる。
手を丁寧に洗う。
脱衣所で衣服を脱ぐと、そのままバスルームに入る。
一日の疲れを洗い落とすように熱いシャワーを浴びる。
食事は勤務先の1階にあるコンビニで済ませてきた。
冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
部屋の隅に置かれた小さな机に向かい、ノートパソコンを立ち上げる。
ベランダからはるか彼方の星が一瞬小さく輝いたのを確認する

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『君に贈る火星の』

『君に贈る火星の』

今日も携帯が鳴る。
ーやあ、そっちは夜かな。もう、時間の感覚もなくなっちゃったよ。
あたしは聞いているだけだ。
ー君に会える日が楽しみだよ。でも、もう少し時間がかかりそうなんだ。
彼は楽しそうに話し続ける。
ーすごいと思わないかい?こんなに離れたところから、君と話ができるなんて。
多分、彼の目には窓の外の景色が映っているのだ。
ーここからはもう地球は小さな星にしかみえないよ。
 でもそれだけ僕は目

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『ヒトのカケラ』

『ヒトのカケラ』

ごらんください。
発掘されたカケラの数々です。
あちらの青みを帯びているのが幸福のカケラ。あれが夢のカケラ。
さらにこれが愛のカケラ。もうかなり色が落ちていますが、元はきれいなピンクだったと思われます。
その他にも、情熱のカケラ。沈黙のカケラ、平和のカケラ等々、かなりの数になります。

こんなにカケラばかり集めて彼らは何をしていたのか。
そうですよね。おっしゃる通りです。
カケラを集めるくらいなら

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