『星の涙』

子供たちは、じゃれ合うようにして遊んでいる。
僕は、それを眺めながら、今日も静かな夜空に感謝をする。
そして、いつものように報告をする。
子供たちは、ほら、元気だよ。
3人の子供は、みんな楽しそうに走りまわっているよ。

もちろん、返事はない。
妻はもうこの世にはいない。
彼女は子供の成長を見ることなく亡くなった。
僕は、毎日、毎夜、こうして、妻に語りかけている。

僕たちは常に遠距離恋愛だった。
会うのは、いつもスクリーン越しだった。
時々、スクリーンの動きと音声がずれたりした。
お互いに、そのちょっと間抜けな映像に笑い合ったりしたものだ。
それ以外でも、僕は、常にメッセージを送った。
彼女が業務中であると分かっていても。

君の星には雨が降るらしいね。
でも、僕の星にも雨は降るんだよ。
心の中に降るんだよ。
涙という名の雨が。
君に会えない毎日は、雨のようだ。
ほら、僕もこんなに詩的なことが言えるようになってきたんだ。
君が時々言う、涙というものも理解できているだろう?
返事は急がなくていいよ。

もう200年も前のことだ。
突然、彼女との通信が乱れた。
そして、途切れた。
いくら、何をしても、一切反応がなくなった。
彼女だけではなく、その星との通信が全て途絶えてしまった。
今なら、瞬時に状況を確認できるだろうが、当時の技術では難しかった。
それでも、僕は毎日、彼女に送信し続けた。

雨が降っているよ。
僕の心に雨が降っているよ。
涙の雨が降り続いているよ。
早く、君の傘をさしてくれないか。

僕は、自分が学んだ、彼女の星の言葉を精一杯使った。
そのころは、この程度しか言えなかった。
返信が来ると信じて、毎日送り続けた。

やがて、詳細が伝えられた。
彼女の星は、消滅していた。
状況から察するに自然な消滅ではない。
普通なら、彼女の星はあと50億年は存在するはずだった。
何らかの「人為的」な方法によって消滅させられた。
周辺には多少の影響はあるものの、こちらまでは及ぶことはない。
そう伝えられて、みんなは安心した。
「愚かな」という彼女の星の言葉が流行した。
僕は決して口にしなかったが。

それからも、毎日、僕は彼女に語りかけている。
彼女妻と呼ぶことにした。
子供を3体作った。
彼女との子供として。

僕は、自分の心臓部の点検を済ませると、子供たちを呼び寄せた。
1人ずつ、こちらも点検をしていく。
心臓部と、各関節部にオイルを垂らす。
活発な子供たちは、ついついオイルが不足しがちだ。
点検が終わると、3人の肩を抱いて、夜空を指差した。
「ほら、あそこに小さく輝いているのがお母さんの星だ。青くてとても綺麗な星なんだ」
でも、あの輝きの先には、もう何も残っていないんだよ。
そのことを伝えるのはもう少し後でもいい。
あるいは、彼らが自分で気づくに任せるか。

彼らの年齢設定をもう少し上げてもいいかなと思った。
そして、涙という言葉を教えてやろう。
そうすれば伝えられる、あの光を「星の涙」だと。

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